68話 第三章 第十節 届け物
第一サーバーはじまりの大地、東の宿屋。そこの一室にはログインしたばかりのツバサがいた。装備品を落としたツバサは、下着姿のままベッドの上で膝を抱えて泣いていた。
苦労して貯めた経験値も無くし装備も落としたままの帰還だ。悲しむのも無理はない。装備は届けてもらえるかもしれない。しかし、戦闘の途中だったのを考えると、拾っている余裕などないのかもしれない。
「みんな、大丈夫かな……。ここに戻ってきたの私だけみたいだし……」
下手をすると全滅してるのかも知れない。しかし、ギルドメンバーが帰還していないところを見ると、全滅ではないとツバサは察したようだ。
「もう……、折角、経験値上げたのに……」
装備を無くしたツバサは下着姿のままベッドの上で体育座りをしている。悲しくて、悲しくてしょうがない様子だ。
その時であった。ドアをノックする音がツバサの耳に入った。
「おーい、さっきボス戦で負けた子はいるかい?」
ボス戦と言われ、身に覚えのあるツバサが返事をした。
「はい、どちら様ですか?」
ツバサはドアの元までやってきて、ドアを開けた。
「はい。私かもしれません」
「えーと、だな。まずは服を着ようか」
そこにはレベル40の魔道服を着るショウがいた。ショウは顔を横に向け恥ずかしそうに、ツバサの服をアイテムボックスから急いで差し出した。先ほどボス戦に敗れた子で間違いなかった。ショウには見覚えがあった。
「は、はい。服着ます。ちょっと待っててください」
そうツバサが告げると、ショウから服を受け取り着替えを始めた。
「はい。もう大丈夫です。服着ました」
にっこりとツバサが笑った。
「この武器もキミのだろ?」
ショウは落とした剣や靴などの防具も手渡したのだ。これでショウの任務は完了だ。
「あのー。ありがとうございます。お名前だけでもいただけませんか? 私はツバサです」
「オレか? ショウだ」
「ショウさんですね。助かりました。ありがとうございます」
ツバサは青髪のポニーテールをふわりとさせながらお辞儀をした。
「そうだ、お金をな。拾うことが出来なかったから……、これもやるよ。売ればそれなりになるはずだ」
ショウはゴールデンアックスを取り出してツバサに差し出した。
「こんなもの頂けません」
「そう言うな、オレがお金盗んだと思われるのも癪だしな。受け取ってくれ」
「盗んだなんて、わざわざ装備届けてくれる人がお金を盗むなんて考えられませんよ」
「まぁ、とりあえず持っておきな。あいにくアイテムボックスがいっぱいで困ってるんだ」
ショウはゴールデンアックスをツバサに押し付けた。ゴールデンアックスはツバサの手に収まった。
「そうだ、ちょっと外で話しをしないか? ここじゃあ不味そうだからな」
「何が不味いんですか?」
「まぁ、ちょっとな。外へ行こうか」
「変なことしません?」
「あぁ、安心しな。とりあえず移動しよう」
「それなら……。分かりました」
ツバサが同意すると、二人は東の宿屋を後にした。