66話 第三章 第八節 死
「ツバサ、ボスが出現。迎撃して」
ローラがツバサに指示をした。
「はい。分かりました」
ツバサが前衛として、ボスの攻撃を受け止めている。
「ジェイニー、魔法で援護よ」
ローラが後方の聖職者であるジェイニーに声を掛ける。後方からは回復魔法が唱えられている。
「結構、このボス強いですよ」
ツバサが告げた。ツバサは剣で敵の攻撃を受けているが衝撃で、ヒットポイントが削られていく。
第七クラス剣技――フレイムスラッシュ――
ツバサが剣技を唱えると、ツバサの持つ剣が赤く光、炎を帯びた。そしてボスを切りつけた。
一進一退の攻防が続く中、遠く後方でショウが眺めている。
ボスのHPが少なくなったときに事態が動いた。聖職者からの回復魔法が追いつかなくなった。いや、追いつかないのではない。なぜか回復のタイミングが遅くなってきていた。
「ジェイニーさん、回復をお願いします」
ツバサはジェイニーに回復を頼むが、一向に変わる様子はない。遠く後方で見守るショウもおかしいことに気が付き始めた。
「はぅ……」
ツバサがボスの不意の一撃を受けてしまった。ボスの攻撃によりツバサは光と共に消えてしまった。HPが尽きて死亡してしまった。残されたのはツバサの装備類だけ。
「あらら、ツバサが死んじゃったわね。じゃあ、本気で戦うわよ」
ローラの一言で、パーティーの動きが変わった。まるで、ツバサを囮にしていたような言い草だ。
「ジェイニー、取り合えず、全員の回復を」
「分かってますよ」
ジェイニーが回復を始めた。先ほどより動きがいい。ツバサを守れなかったのが嘘のような動きだ。
「じゃあ、私が止めを刺すわ」
ローラがそう告げると、ボスに短剣を付きたてボスは消滅した。
「終ったようね、無事倒せたわ」
全然、無事ではない。ツバサが死亡している。ツバサのことなど始めからいなかったかのような口ぶりをした。
そして、ローラが倒したボスの元へと行くと徐にドロップアイテムを拾い始めた。
「七個もアイテム落としたけど、どうしようね?」
ボスはドロップが多いので有名だ。パーティーメンバーで喧嘩にならないように人数分落とすのは運営側の配慮だ。
しかし、なぜかローラがどうしようと言うのだ。ショウは理解できなかった。死亡した女の子に渡せば、人数分、丁度のはずだからだ。
「マスター、もらっちゃったら、どう? だってこの作戦考えたのマスターでしょ?」
「じゃあ、ありがたく頂戴するわ」
ローラが二つのアイテムを取り、他のメンバーは一つずつに分け前が決まったようだ。
「で、マスター。ツバサの装備どうします?」
「拾わなくてもいいわ。ツバサが死んだことで、ボスの討伐が出来なかったって言えばいいじゃない? そうすればアイテムの取り分に付いても揉めないわ。あっ、お金くらい貰っとこうかしら、授業料よ」
そうローラが告げるとお金だけを拾い始めた。
「今頃、ツバサのヤツどうしてるかしら? ログインし直して東の宿屋にでももどってるかしらね?」
「マスター? 心配してあげるんですか?」
「まさか、あんなヤツ死んで当然よ」
「そうですね」
ジェイニーが同意した。
「じゃあ、戻りましょう。あまり遅いとツバサに疑われちゃうわ。途中、銀行だけ寄って行くことにしましょ。ドロップアイテムを隠しとかないとね」
「マスターって、頭切れますね」
「そう? まぁ、そういうことだからみんな撤収よ」
そうローラが告げると一行はその場を離れて行った。