65話 第三章 第七節 プルトーマイン
ショウは、第一サーバーはじまりの大地にあるダンジョン、プルトーマインの中を彷徨っていた。暗く狭い坑道を進むショウの姿を見ると、レベル40の魔道服を纏っている。
すでにレベルは99になっているショウであるが、初心者エリアで高レベルの装備をしていると、何かと助けを求められることが多い。そんな煩わしさを回避するため初心者のフリをして戦っていた。
高レベルであるショウが、はじまりの大地のダンジョンにいる理由。それは、最近実装されたばかりの炎の杖を求めてのことだ。ショウは炎系の魔法を好むがために炎の杖を欲していた。入手方法は、このダンジョンにいるモンスターを倒すことでのドロップ。
ショウはドロップ率を上げるための秘策まで用意していた。
――幸福の杖――それはドロップ率を二倍に引き上げる特殊アイテム。デメリットが存在するので使用には十分注意をすること――参考文献『ファイアーウォール武器の知識書』より――
ショウはその幸福の杖を手に握っている。やる気満々だ。今まで使われることのなかった幸福の杖は真新しく、新品同様だ。しかし、新品同様だったのは先ほどまでのこと。すでに、幸福の杖は焼け焦げている。高レベルの魔法に耐えられないという欠点があることをショウは知らなかった。
「全然出ないじゃないか」
ショウは一人で炎の杖を出すために戦っていた。一応レアアイテム、そうそう簡単にドロップするものではない。
「本当に出るのか?」
ショウのレベルは99。敵を倒した経験値などに興味は無い。目的は炎の杖の取得。それが適わなければまったくの無意味だ。
「ゴールデンアックスは出たんだけどな……」
ショウは先ほどの戦闘でゴールデンアックスを拾った。レア度はまずまずだ。レベル90からの装備などほとんどの者が装備できない。そして、斧だ。斧士を選択するキャラは少ない。需要が皆無と言っても良い。辛うじて素材としての用途があるくらいだ。何たって材質は金だ。素材として売ればそれなりの値が付く。それだけのアイテムだった。
そんなショウの目線には炎の杖を落とすモンスターの姿が現れた。ショウのターゲットだ。
「よし、いっちょやってやるか」
ショウは幸福の杖を構え、そしてモンスターへと杖を向けた。
第一クラス炎魔法――ファイアーボール――
ショウがファイアーボールを唱えた。魔法クラスは1、魔道士レベル10ほどで覚えられる弱い魔法だ。魔力の消費が少なく、連射が可能だ。今回のように敵のターゲットをいち早く取るのに打って付けの魔法。
ファイアーボールの攻撃をモンスターが受けるとショウを睨み、突進を始めた。
第七クラス炎魔法――フレイムバード――
ショウが次に魔法クラス7のフレイムバードを唱えた。するとショウの頭上には炎を纏った鳥が現れ、ショウの幸福の杖に止まった。
「しまった。杖が焦げてる……」
ショウは素早く杖を振り消火を始めた。幸福の杖の欠点である炎の魔法の上位が使えないことをすっかり忘れていた。
杖を振ったことで羽を休める場所を無くした炎の鳥がモンスターめがけて突撃し爆発する、するとモンスターはうめき声を上げ光と共に消滅した。
「早く、炎の杖を手に入れないと、杖が炭になるな……」
ショウは失敗をしていた。他の杖を持って来ていなかった。まさか幸福の杖にこんな欠点があるなんてショウ自身知らなかったからだ。杖が焦げることに気が付いたのは、ここで炎の魔法を放った時。それもショウがよく使うフレイムバード。と言うことは先ほどと全く同じミスをショウは繰り返したのだ。
ショウのアイテムボックスには大量の魔力回復用のポーションが詰められていた。少しでも多くポーションを運ぼうといつも使っている杖を置いてきていた。初心者用ダンジョンを甘く見ていたのだ。しかし、所詮は初心者用ダンジョン。レベル5程度の魔法があれば困ることがない。ボスが出たとしても、逃げればよい。あくまで、炎の杖を手に入れるのが目的なのだから。
「おっと、ボス出現か? 逃げるかな」
ショウの前方にボスキャラが出現した。赤い大トカゲ、レアモンスターだ。倒すことで初心者エリアでは珍しいアイテムがドロップできる。そのためボスキャラ目当てのプレイヤーも少なくなかった。しかし、ショウはボスキャラなど眼中に無かった。むしろ、狩りの邪魔となる。現在、ショウは上級の魔法が使えない。逃げるのが賢明だ。
「ターゲット取ったみたいだな」
ショウの目の前のパーティーがボスキャラのターゲットを取ったようだ。ボスキャラが倒されれば、この場を離れる必要が無くなる。ショウはボスが討伐されるまで、しばし観戦することにした。
ショウの見た七人組みのパーティーはそれほど強そうには見えなかった。せいぜいレベル60程度であろう。しかし、上級職の剣騎士がいるのは珍しい。それでもレベル50ほどだ。それがショウの感想だった。
「まぁ、少し苦戦はするだろうな。お手並み拝見と行こうかな」
そうショウが呟きながら観戦を始めた。