62話 第三章 第四節 修羅場
女性陣三人が席に戻ると、男性陣との会話を再開した。ローラは今後のギルドの手伝いについての話しを始めた。これだけの強さの人たちだ。ぜひとも助けを乞いたいのだろう。
「ツバサちゃんって騎士職なんだよね? 武器は槍なの? 槍なら余ってるからあげるよ」
そんな中、ブラスト炎陣がツバサに声をかける。その横で、騎士のマカラズヤが口を開いた。
「ブラさん、俺にくれよ」
「なんでマカさんにあげなきゃいけないんだ? 俺学生、マカさん社会人。経済力が違うだよ? また課金しなよ」
「給料出るまで我慢なんだ。まぁ、出たら全部ぶち込むけど」
「なら、この槍はツバサちゃんに」
そう言うとブラスト炎陣がアイテムボックスから一本の槍を出すのだ。銀色に輝くシルバーランスだ。
「ブラさん、それ俺があげたやつじゃん!」
「俺、騎士になる気なんてないし、いらねー」
「じゃあ、もう課金武器あげんからな」
「もう、一通り揃ったから余裕っしょ」
課金武器あげないと言われたがブラスト炎陣は余裕げに答えた。
「新しい武器の実装があるかもよ? それでもいいの?」
マカラズヤが口角を上げ言う。
「そいつは不味い……」
ブラスト炎陣には少し考えが足らなかったようだ。日々増えるアイテム類、今、装備が充実していたとしても、今後のことまでは分からない。
「あのー、私は剣なんで大丈夫です……」
ツバサが申し訳なさそうに口を開いた。
「あっ、そうなのね、あはははは……」
ブラスト炎陣は、苦笑いをしシルバーランスをアイテムボックスにしまい込む。ツバサの一言でブラスト炎陣の体面は保たれたようだ。
その後も男性陣の質問はツバサへのものばかり、ローラの目尻はヒクついている。怒りは限界に達しようとしているように見える。その時だ、ローラの後ろから声がした。ブラスト炎陣と癒してくださいがピクリと反応した。
「あら、癒しん? 楽しそうね」
レベル1の見習い修道服を纏った黒髪の少女がニコリと微笑む。
「ヘ、ヘロちゃん!?」
悲鳴かと思うような声を癒して下さいが上げた。
「……炎陣? ……今日の予定」
レベル90を超える黒色で金の刺繍の施された修道服を纏った銀髪の少女が口にした。
「シルバー? 何故ここに?」
ブラスト炎陣は驚きの声を上げた。
「よう、ヘロ、シルバー、座るか?」
マカラズヤは、他の二人とは違う様子であった。
「じゃあ、仲間に入れてもらおうかな?」
ヘロがそういうと、二人は店内へと足を進めた。マカラズヤの言葉に甘えることにしたようだ。
ヘロはツバサの隣、癒して下さいの前に座る。シルバーはブラスト炎陣の隣だ。
ヘロは両肘を机に付け、頬に手を当て、癒して下さいに笑顔で視線を送っている。
シルバーはと言うと、皆の見えない机の下でブラスト炎陣の足をガシガシ踏んでいる。
「で、ギルドの同盟の件だけど……痛てっ!」
ブラスト炎陣はまじめな話をし始めようとしたのだが、シルバーに足を踏みつけられる。シルバーの職業は修道士。いわゆるモンクだ。打撃はお家芸。
「私達のギルドまだ弱いので支援をお願いしたいと思うのですが」
ローラが支援の申し出をする。
「俺達で良ければ、お手伝いしますよ……痛てっ!」
ブラスト炎陣はまたしてもシルバーに足を踏まれた。格闘のプロである修道士。こんなのに足を踏まれてはただでは済まない。
ここからは、たわいも無い話しを始めることになった。シルバーの攻撃を受けるブラスト炎陣は次第に口数が減って行く。あきらかにダメージを負っている。
ヘロはといえば、癒して下さいにお酌をし続けていた。もはや、癒して下さいはバットステータス状態、混乱の域に達している。
「まぁ、今日のところはこの辺りで、また連絡をください」
そう、ローラが告げると、合コンはお開きとなった。
ブラスト炎陣はお開きの合図を聞くと、すぐさま席を立ち、入り口へと逃げ出した。それを追うシルバー。後でどんな目に合うのかは想像が付く。そして、それを心配したのかマカラズヤが後を追った。
残された、ローラ、ジェイニー、ツバサが唖然となっていた。
癒して下さいは机にへばり付き泥酔状態だ。ヘロが叩いても、起きようとしない。
「癒しん? ねぇー」
癒して下さいは起きない。しょうがないのでヘロが抱えて店を後にすることになった。
「何なの、あの人たち?」
ローラの不満は爆発寸前のようだ。
「何なんでしょうね?」
ジェイニーも同意した。
「ちょっと、痛い目にあわせない?」
ローラが何かをたくらんでいるようだ。合コンをぶち壊されたのもそうだろう。ツバサの件も気に入らないようだ。ローラは憂さ晴らしに痛い目にあわせようと提案したのだろう。
「マスター、やめましょうよ」
ツバサは反対する。今までの出来事に不満など無いような口ぶりだ。
「私の言うことが聞けないの!」
ローラはツバサに怒鳴り付けた。ギルドの長を務めるローラが下っ端のツバサに否定されたのが気にいらなかったのかもしれない。とにかく一度怒ると手が付けられないのがローラだ。
ツバサは口を紡いだ。それ以上の発言をやめた。
「さっきの女の子、レベル1の修道服でしょ? もう一人の女の子は強そうだったけど……。あの子になら勝てそうね」
ローラが不敵な笑みを浮かべた。