59話 第三章 第一節 ギルド
三ヶ月ほど前に遡る。それは、ツバサのレベルが53。剣騎士をしていた時の物語。
「マスター、お茶が入りましたよ」
ここは、ツバサが所属しているギルドのアジト。第一サーバーはじまりの国、東の宿屋の一室。ピンクの壁紙にぬいぐるみファンシーな部屋。借り物の宿屋が見事なまでに魔改造されている。
ツバサがマスターと呼ぶ人物の元へお茶を運んでいる。マスター、それはギルドマスターのことだ。ギルドのリーダー、ローラに話し掛けた。茶色の短い髪の女盗賊。
「もう少し、上手に入れられないの?」
ローラはお茶に口を付けると眉を潜め感想を述べた。
「すみません」
ツバサはお盆を抱き抱え平謝りをする。
「ところで、レベル上げは順調なの?」
ローラが湯のみを置くとツバサに質問した。
「はい、まぁ。やっとレベル53です」
「全然じゃない。それじゃあ、全然戦力にならないわ」
ローラのレベルは60だ。ローラからすれば、ツバサのレベルなどまだまだといえるレベルのようだ。
そこへ、青髪のロングの少女が部屋に入ってきたのだ。
「ローラさん。ちょっとお話が……」
「ジェイニー何かしら?」
青髪の少女はジェイニーと呼ばれた。ギルドの補助役を担うのが聖職者ジェイニーだ。
「ツバサ、席を外してちょうだい」
「はい。分かりました」
ローラに退室を命じられると、ツバサが部屋を後にした。
「ジェイニー、何かあったの?」
「今度の、合コンの打ち合わせを」
ローラのギルドのメンバーは7名。全員が女性メンバーで構成されている。浮いた話もあるのだろう。女性ならではのイベントだ。
「今度は、ちゃんとしてるんでしょうね」
ローラは目を細目ながらジェイニーに尋ねた。以前、合コンに失敗したような口ぶりをした。
「はい、もちろんです。今度のメンバーはレベル99の人がいるみたいですよ」
その言葉を聞いたローラはニコリと微笑んだ。レベル99の人と知り合えることはそれだけ珍しいことだ。
「そう? だったら、付き合いがあっても悪くないようね」
「だと思います」
ジェイニーはレベル99がいるメンバーとの合コンを企画したようだ。この世界での合コンはリアルの世界とは少し異なる。男女の出会いはもちろんではあるが、レベルの高いプレイヤーと知り合うことを目的にする場合も多い。火力支援を頼めば難しいエリアの攻略を容易に出来るからだ。
「で、なんて名前のギルドなの?」
「ギルド名は確か、『もりぞー』と言う名前だったと思います」
「何? そのふざけた名前は?」
ギルド名がふざけているとローラは思ったようだ。ギルド名は設立時に決めるものだ。設立に携わったものがこのギルド名に決めたのだろう。ギルド名で全てが分かるとは思わないが、品性が問われると言われてもおかしくはない。要するにギルド名とはギルドの顔だ。
「ただ、強いとのことです。付き合いがあっても悪くないと思いますよ」
「そうね、分かったわ。で、いつセッティングしてあるの?」
「こちらの都合に合わせるとのことです」
「そう? じゃあ、早速今晩でもどうかしら?」
「はい、その旨を伝えておきます」
「で、相手は何人なの?」
「三人と聞いてます」
「なら、ツバサも連れて行くことになるかしら?」
合コンは基本的には同じ人数を用意するようだ。相手は男性三人。ローラも三人揃えるようだ。
「あれは、お茶汲みで役に立ちますからね」
ジェイニーがツバサのことをあれと呼ぶ。
「そうね。連れてくことにするわ」
「では、先方に連絡しておきます」
「じゃあ、お願い」
ジェイニーは部屋を後にした。