5話 第一章 第二節 戦闘
ショウに置いて行かれそうになるツバサも走り出す。モンスターが吠える場所へと向かった。
現場に到着すると、そこにはモンスターが10体ほど出現した。町の中であるのに関わらず。
「あれは、誰かがモンスターエッグを使ったんだよな」
「そうだと思います」
ショウの質問にツバサが答えた。
――モンスターエッグ――それはモンスターを任意に出現させることのできるアイテムの名称。通常の使い方としては、戦闘のトレーニングであったり、スキルの試し打ちのために使われることが多いアイテム。――参考文献『初めてのファイアーウォール中辞典』より――
しかし、しばしば悪用されることもあったのだ。テロ行為として町で出現させたり、ダンジョンであっても苦戦しているパーティーに敵をけしかけたりするプレイヤーが少なからずいた。いわゆるテロ行為だ。
今回の場合は前者であろう。町にモンスターを出現させて、プレイヤーを困らせるテロ行為。
もう既に、複数のパーティーが戦闘を行っていた。さすがに上級プレイヤーが集まるエリアだ。瞬時に回りでパーティーを組み出し応戦していた。低レベルのエリアでは、弱いプレイヤーをパーティーに入れてしまう可能性があるため、パーティー編成には慎重だ。しかし、このエリアにいるプレイヤーなら、誰でもそれなりの強さのはずだ。即席のパーティーでも十分戦える。この即席パーティーをきっかけに友達になったり、ギルド員になったりする人もいるようだ。
「ツバサ、パーティー編成するぞ」
「はい、お願いします」
ショウとツバサはパーティーを編成した。二人で加勢に向かったのだ。町を守るために。
「まずは、一体おびき寄せるんだ」
「じゃあ、手前の『リトルドラゴン』でいいですか?」
――リトルドラゴン――火山を根城とする小型のドラゴン。小型とは言え3mを優に越えるモンスター。炎の息を吐く、火を属性とする――参考文献『ファイアーウォール生き物図鑑』より――
リトルとは言うものの、人より大きなモンスター。普通の感性であればたじろぐはずである。しかしショウ自身、これの十倍ものドラゴンと対峙したことがある。ショウにとってはリトルと言われて納得のいくサイズであった。
「あぁ、そいつでいい」
「でも、相手は火属性ですよ。今でも、炎の杖を使ってるんですよね?」
先程の試合でもそうだ。今でもショウは炎の杖を愛用している。杖を見るツバサはニコニコと嬉しそうにする。
「水属性じゃないから、最悪って訳でもないし、良いんじゃないか?」
ショウにとって水属性は天敵だった。先程の試合の結果をみれば一目瞭然。炎系のダメージが水に対してはあまり望めない。基本職の火炎魔道士だから火属性しか使えない。ショウが上級職へ転職さえすれば全てが解決する。全属性の魔法使いに。
「属性に関してはそうですね。わかりました。『リトルドラゴン』のターゲットを取りますっ!」
「あぁ、頼む」
ツバサは斧を構え『リトルドラゴン』の元に駆け出した。そして、ツバサは斧を振り上げて切り掛かった。
「えーいっ!」
ツバサが斧の斬撃を与えると、リトルドラゴンはうめき声を上げ、首をツバサの方に向け睨んだ。そして首だけではなく、身体もツバサの方に向けたのである。
「ショウ先輩、援護お願いしますね」
「あぁ、分かった。援護は任せとけ」
ショウが告げると、ツバサは次の斬撃のため斧を構えた。
第五レベル斧技――パワーインパクト――
ツバサは飛び上がり斧を振るった。斧は金色に光り地面へと轟音を放ち吸い込まれた。光の残像がリトルドラゴンを捉えていた。リトルドラゴンがうめき声を上げる。
しかし、リトルドラゴンは、この一撃で倒せるような相手ではなかった。斧を振り下ろし、隙の出来たツバサに鉤爪を突き立てようとしていた。
第一レベル炎魔法――ファイアーボール――
ショウはすぐに反応した。リトルドラゴンの右腕がツバサに振り下ろされそうな時だ。魔法である『ファイヤーボール』をリトルドラゴンの右腕に当て、ひずめを弾く。
――ファイヤーボール――魔道士のレベル10ほどで覚えられる低レベルの魔法だ。速射性で言えばピカイチだ。相手を怯ませるにはもってこい。――参考文献『ファイアーウォール戦闘技術の応用と実践』より――
「おい、ツバサ。相変わらず隙が大きいぞ」
ツバサからは返事は無かった。戦闘にのめり込み過ぎている。そして次の斬撃のためツバサが再度、斧を構えた。
「おい、ツバサ。魔法の射線に入ってる。何とかならないか?」
ショウは、ツバサに忠告をしたが、ツバサはまったく聞いていない。それどころかツバサは斧を振り下ろしていた。
魔法攻撃は、絶対的な攻撃力があった。しかし、味方に当てないようにしなければならない。今の位置関係では、ショウの魔法が敵との間にいるツバサに当たってしまう。
第七レベル炎魔法――フレイムバード――
――フレイムバード――魔道士がレベル70相当で覚えられる魔法。魔法レベルは7。攻撃力が高いのもそうだがが、それよりも魔法が任意の動きをして敵に向かうのが特徴。――参考文献『ファイアーウォール戦闘技術の応用と実践』より――
ショウが呪文を唱えると、一羽の炎の鳥が現れた。そして、その鳥が羽ばたき、ショウの炎の杖の先端で羽を休めた。鳥はどす黒い赤色をしており、炎を纏っている。
そして、ショウが炎の鳥を乗せたまま杖を天高々と上げ、ゆっくりと振り下ろした。すると炎の鳥は飛び立ちリトルドラゴンへと向かった。しかし、まっすぐには炎の鳥は向かわなかった。大きく迂回しながらリトルドラゴンに向かったのである。まるでツバサを避けるように飛行した。そして、リトルドラゴンの横っ腹に炎の鳥が突撃し、リトルドラゴンがうめき声を上げた。
「ツバサ、聞いてるか? 範囲魔法が使えないんだが」
ツバサからは返事はない。戦闘に集中しておりまったく聞く耳を持っていなかったのだ。ショウは大火力の範囲魔法を使用したかった。しかし、大火力の範囲魔法は周囲を巻き込んでしまう。それはツバサとて巻き込まれてしまうと言う意味だ。返事も無く、敵に近づき過ぎているツバサがいる以上、使用できなかった。
第七レベル斧技――フォーレストダウン――
ツバサが斧を横に振りリトルドラゴンに斬り掛かった。まるで、きこりが木を切り倒すかのよう。すると、スキルを受けたリトルドラゴンは光となり消滅した。他に召喚されたモンスターも同様に倒され光となり消えていく。町に平和が戻ったのだ。
「ショウ先輩、倒しましたよっ!」
ピョンピョン跳ねながら近づいてくるツバサを見て、ショウは溜息を付いた。
「おい、ツバサ。もう少し人の話しを聞きな」
ショウの説教タイムである。
「でも、大丈夫だったじゃないですか?」
「斧は隙が多いんだから、もう少し考えて戦ってくれよ。あと魔法の射線上に入るんじゃない」
「もぉー」
ツバサは牛になった。