58話 第二章 第七節 トレーニング
トウカとツバサは、宿屋の裏庭へとやってきた。芝生が敷き詰められる裏庭からは新緑の香りがトウカとツバサを包み込む。宿泊者向けのトレーニングスペース、剣を振るうに十分な広さ。ここなら心行くまで剣を交えることが出来る。そう考えツバサはこの場にトウカを招いたのだろう。
「ツバサさん、トレーニングよろしくね」
「はい、分かりました。どの剣技にしますか?」
「ツバサさんは剣技どれくらいあるの?
「うーん。私は剣士をレベル80までしましたから、レベル8の剣技の前半なら使えますよ」
「剣士からの転職で騎士なの?」
「そうですよ。騎士になったらレベルが1になっちゃいましたけど……」
肩を落としながらツバサが言う。
「そうなの? オススメの剣技はある?」
ツバサは顎に手をやり考え始める。
「何がいいでしょう? そういえばショウ先輩は雷の魔法を使わないので、雷系の剣技が役に立つかもしれませんよ」
「じゃあ、それでお願いするわ」
トウカは迷うことなく返事をした。
「じゃあ、雷切にしますよ。これならレベル4の剣技なんので」
「でも、あたしまだレベル34よ。足らないわ」
「大丈夫ですよ。師弟関係があれば早めにスキルを覚えることもできますから」
「そうなのね。分かったわ」
「でも、雷切は漢字の技なので、洋刀には向かないですよ」
「ヨウトウ?」
「洋菓子の『洋』ですよ。外国の剣のことですよ。漢字の技は和刀の方が効果が高いんですよ」
トウカは自分の握る炎の剣を見ながら口を開いた。
「そういうのがあるのね。でもあたし炎の剣が気に入っているからこれにするわ」
「トウカさん? 和刀に変えませんか? 絶対そっちの方がいいです!」
ツバサは和刀への変更を力強く勧める。
「これがいいのっ!」
トウカも負けじと炎の剣を力強く握り締めながら反論する。
「でも、それ、ショウ先輩とお揃いだし……はぅ……」
ツバサの剣を変える作戦は失敗したようだ。
「ところで、何でツバサさんは剣から斧に変えたの?」
トウカの質問にツバサはピクリと反応した。
「そ、それはですね……。秘密です……」
ツバサにとって内緒の話のようだ。恥ずかしそうにする。
「じゃあ、ツバサさんのギルドってあいつが壊滅させたって件、あれは、どういうことなの?」
「そのことですね……。分かりました。それなら……」
ツバサが昔のギルドについて語り始めた。