57話 第二章 第六節 選択番号
ショウとトウカは宿屋に戻った。部屋の扉を開けるとツバサとミサキが話をしている。なかなか意気投合しているようだ。
「ただいまー」
トウカが帰宅を告げると、ツバサが返事をした。
「おかえりなさい」
トウカがウキウキして部屋に入るのをツバサが不思議そうに覗き込んだ。
「トウカさん? 良いことあったんですか?」
「あいつと、宝くじ買ってきたわ。運試しよ」
「えっ、ショウ先輩も買ったんですか?」
「あぁ、トウカに買わされたぞ」
ショウが宝くじを手にして振って見せた。
「トウカさんだけズルイですっ! 私も買いにいきます。どこで買ったんすか?」
「すぐそこの、道具屋よ。九十九の数字から四つ選ぶヤツよ」
「ショウ先輩。私は宝くじ買いに行って来ます。ちょっと待っててください」
「あっ、あぁ。気をつけてな」
ツバサが脱兎の如く部屋を飛び出した。
「で、ミサキ? ツバサへの説明は終ったのか?」
「ええ、まぁね。ショウ君に昨日説明したのと同じよ」
「どういう話をしたんだ?」
「討伐の対象がコンピューターウイルスだとか、現在、キャラがNPC化しているとかね」
「だったら、そんなに時間掛からなかったな」
「そうね、大半はツバサちゃんの恋愛相談みたいになっちゃったよ」
「まぁ、あいつも女だからな」
「そんなこと言ってていいの?」
「どういうことだ?」
「ショウ君がこんなんだからいけないんだよ」
「ん?」
ミサキは溜め息を付いていた。
「何だよ、その溜め息は?」
「胸に手を当ててじっくり考えなさい」
「別にやましいことなんてないぞ。まるでオレに心当たりがあるような言い方して」
胸に手を当てろと言われ、罪人かのような言われ方にショウが反論した。
「とりあえず、胸に手を当ててみなさいよ。そして反省しなさい」
「何で、オレが反省しなきゃいけないんだ?」
「まぁ、いいから。胸に手を当てて考えないなら今朝のこと、トウカちゃんに言っちゃうよ」
目を細目含み笑いをするのはミサキだ。
「ミサキさん、今朝何かあったの?」
トウカが急に話に割り込んできた。ミサキの言う今朝とは、酒場から部屋に戻ってきた時の話に違いない。あんなゴタゴタを知られたくないショウは話を遮るしかない。
「トウカ、何もない。今から考え事するから少し静かにしてくれないか」
そう言うとショウは、胸に手を当て考え始める。考えたところで答えなど何も出ない。無音の時間が1分ほど経過したであろう。ショウは瞑想から目覚め、口を開いた。
「おい、ミサキ? 何も思い当たらないんだが?」
「ホントは、全然考えてなかったでしょ? 寝てたの? 死んでたの?」
「酷い言いぐさだな」
「ショウ君への罰よ」
「何で罰を受けなきゃならないんだ? まあ、それは置いてだな。ミサキ? 運営の力で宝くじを大当たりにできないのか?」
「また、話を逸らして」
「まぁ、いいから。それで出来るのか? 出来ないのか?」
「それくらいできるけど、何?」
「トウカが一等のティアラが欲しいって言ってるんだ。なぁ、頼むよ」
「それくらいのことは出来るよ。だけどそんな不正認められないよ」
「そうか? 良い方法だと思ったんだけどな」
「そんなにトウカちゃんにプレゼントしたいの? そこまで言うならやらないことはないけど」
「え、ミサキさん。やってくれるの?」
トウカが期待するかのように目を輝かせた。
「んー。ショウ君次第ね」
「どう言うことだよ」
ショウが不服そうに言う。
「ショウ君がトウカちゃんにプレゼントするために当てたい! って言うなら考えなくもないって言ってるのよ」
「別に、オレの宝くじ当てなくてもいいだろ? トウカのを当選させればそれで済むんじゃないか?」
ミサキからはまたしても溜め息が発せられた。
「何だよ。その溜め息は?」
「ショウ君のやる気が全く感じられないので、当選は無し。運でなんとかしなさい」
「なんだってオレのやる気が必要になるんだ?」
「あんた、どうしてくれるのよ。せっかくティアラが当たりそうだったのに」
トウカはすごい剣幕でショウに詰め寄る。
「じゃあ、トウカが頼めよ。何だってオレの宝くじを当てようとするんだ。トウカのを当選させたって、結果は同じじゃないか?」
「同じじゃないわ!」
トウカがプンプン怒る。ショウには意味が分からない。同じ様にティアラが手に入るのならショウが当てようがトウカが当てようが関係ないはずだからだ。
そうこうしていると、ツバサが帰ってきた。ツバサは息を切らしている。相当急いで行って来たのであろう。
「戻りましたー」
「あぁ、お帰り。早かったな」
「はい、急いで戻ってきました」
「あれだけ数字があると、迷わなかったか?」
ショウは不思議そうにツバサに質問した。いくら急いで店に行ったとしても宝くじの番号を選ぶのを迷うはず。ショウ自身も番号選びに迷っていたからだ。
「全然ですよ」
ツバサは簡潔に答えた。迷いなど無かったようだ。すでに自分のラッキーナンバーがあるかのように清清しく答えた。
「じゃあ、三人共、宝くじ買ったのね?」
「まぁ、そうなるな」
「ちょっと、見せてよ」
「何だ? 当選させてくれるってことか?」
「まぁ、いいから」
ミサキは、三人の宝くじを手に取った。宝くじを見比べ、フムフムを頷いている。何かに気が付いたようだ。
「ショウ君の誕生日は11月28日ね?」
「なんで、ミサキが知ってるんだ?」
「だって、トウカちゃんもツバサちゃんも同じ番号を選んでるんだから」
「えっ、ツバサさんも!」
「トウカさんも!」
トウカとツバサは向かい合い目をぱちくりさせる。
「で、何でオレの誕生日なんだ?」
ショウはまたしても不思議そうに唸る。
「言葉の通りだけど」
ミサキは詳細を語らなかった。いつものミサキだ。
「そうだ、ツバサ? トウカのトレーニングに付き合ってやってくれないか」
話を変えたのはショウだ。このままよく分からない会話に終止符を打つためだ。
「えっ? 突然どうしたんですか?」
「まぁ、いいから。頼むよ」
「ショウ先輩がそこまで言うのなら。分かりました。トウカさん行きましょう」
「そうね。あたしも強くなりたいし。お願いするわ」
トウカとツバサが部屋を後にした。
「で、ミサキ? 昨日と何か変わったことはあるのか?」
「そうね。運営としては、魔封石の回収の話が来てたよ。なにやら魔封石のレベル5を売りさばいた不届き者がいるそうなの。それで、魔封石は王国軍が買い取るって話が出たみたいだよ」
「それって、オレのことか?」
「ええ、そうよ」
「すっかり悪者になってるな」
「まぁ、報告書に犯人不明であげてあるからね。ショウ君だってバレてはないよ。今のところショウ君の存在は知られたくないしね」
「どういうことだ?」
「下手すると、ログアウトさせられちゃうかも知れないよ。ログアウトは困るでしょ?」
「そうだな。で、オレはこのままでいいってことなのか?」
「しばらくは、現状維持かな?」
「でも、オレは悪いヤツかもしれないぞ。このレベルなら王国を攻め落とせるだろうし」
「ショウ君は、そう悪い人にはみえないからね」
「そうか? 運営の人間をPKしたり、ツバサのギルドを壊滅させるヤツだぞ」
「そういえば、前に言ってたよね。ツバサちゃんのギルドを壊滅させたって」
「そうだったな」
「何があったか、教えてよ。理由があるんでしょ?」
「別に言わなくてもいいだろう?」
「言えない理由でもあるの? それなら過去ログ漁るけどね」
「何でもお見通しって訳か?」
「えぇ、私はこの世界では神なのよ」
「黙ってても分かることか……。あれはな二、三ヶ月ほど前のことだったかな」
ショウは天を仰ぎ思い出しながら口を開いた。