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54話 第二章 第三節 宿屋

 ショウとトモは宿屋に戻った。部屋に入るとトウカが手前のベッド(・・・・・・)に寝ている。掛け布団を鼻まで被せ、目だけを出している。布団から出ているのは赤髪のツインテールと目、そして布団を握る両手のみだ。


「おい、トウカ? 寝てるのか?」

「お、起きてるわっ」

「奥を使えって言っただろう?」

「ま、間違えただけよっ!」


 声を大きくし否定するのはトウカだ。


「まぁ、何でもいいや。てか、起きろよ」

「うるさいわねっ! 眠ったいのっ!」


 トウカは病人のようにベッドから出ようとしなかった。布団に潜りながら喋るトウカの声音はひずんでいる。


トウカちん(・・・・・)、こんにちは。ボクがトモだよ。昨日はNPCとして、お世話になりました」

「トモさん、よろしくね」


 トモがトウカのことをトウカちんと呼ぶ。ショウに付けたあだ名に類似性るいじせいを感じる。一方トウカはいまだにベッドにこもったままだ。トモに対して失礼極まりない。すると、光と共にミサキが姿を現した。


「ショウ君? おはよう」

「あぁ、おはよう。ミサキどうしたんだ? 今日は振り替えで休みなんだろ?」

「休んでもいられないのよ。いろいろとね」


 ミサキは言葉をにごして発言をする。


「あれ? トウカちゃんはお休みかな?」

「トウカか? 起きてるぞ。ベッドから出ようとしないんだがな」

「そう? どうせそのベッド、ショウ君が使ったんでしょ?」

「ん? 何で分かるんだ?」

「だって、トウカちゃんは……」

「ミサキさん、言わないでよっ!」


 トウカがベッドから勢い良く身体を起こしミサキの発言を制止した。


「ん? ミサキ? トウカがどうしたって?」

「ショウ君がそんなんだからだよ」

「なんだよ? 何が言いたいんだ?」


 ミサキからの返事は無かった。真相は闇のままだ。


「そうそう、トモ? 私がショウ君たちの面倒を見るからログアウトしてもらってもいいよ」

「分かりましたー。では、ミサキさん、後はお願いします」


 トモがログアウトのエフェクトと共に姿を消した。それと入れ違えるように、ログインのエフェクトが発生した。中からはツバサが姿を現した。


「ショウ先輩、こんにちは」


 ツバサがペコリと頭を下げた。


「おう、ツバサか? 昨日は助かったぞ」


 嬉しそうにするツバサが口を開いた。


「なんだか、私、NPCになって戦ってたみたいですね」

「そうだったな。昨日のツバサはNPCだったな。ミサキから聞いたのか?」

「はい、メールで見ました」

「ツバサちゃんね。改めてよろしく。私が運営のミサキよ。そして、そこのベッドにいるのがトウカちゃんよ」


 ツバサは、ミサキの方を向いて挨拶をした。


「ツバサです。よろしくお願いします。トウカさんもよろしくお願いします」


 ベットの上で上半身をを起こすトウカにも挨拶をした。


「で、ツバサ? 昨日のことはある程度聞いているのか?」

「ミサキさんからのメールで少し見ました」

「何が書いてあったんだ?」


 ショウのツバサへの質問にミサキがニヤニヤしている。危険な香りがする。


「なんでも、私がNPCになってる時にもてあそんだって書いてありました」


 ツバサがにこやかに告げる。逆に怖い。ショウの顔が引きつった。ショウ自身そんなつもりは無い。しかし、ツバサがそう思っているのならまた怒られるに違いない。


「そんなことしてないぞ」


 とりあえずのところ身に覚えのないショウは否定をした。何もなかった。ショウの記憶の中ではそんな状況は一切思い出せない。


「ショウ先輩? ホントですか?」


 ツバサはショウを疑うような目で見た。論より証拠。ショウは証拠を確認してもらおうとツバサに提案をする。


「ツバサ? ログを確認してみろ。そんなことは一切無い」


 ショウは自信をもって答えた。ログが何よりの証拠だ。昨日のやり取りにツバサをもてあそぶなどという証拠が出ないことを確信しての発言だ。


「ショウ先輩が言うのなら……。分かりました。ログを見てみます」


 疑いの眼差しで見つめるツバサがログを確認し始めた。サービス停止からのログはNPC時の記録として蓄えられている。先ほどのトモの発言からでもそうであろう。ログを確認したと言っていたのだから。


そして、ログが表示され、ログから声がした。皆に聞こえるように声音モードでログを表示させた。


『ショウ先輩、どうしたんですか? どこ向いているんですか』


 これは、石化が解けたツバサとの最初のやり取りだ。ショウもふむふむと、うなずき聞いていた。


『ツバサ? 久しぶりだな』


 これは、昨日のショウの声だ。そんなこと言ったかまでは覚えていない。ログから聞こえてくるなら、間違いなく言ったのだろう。


『キャー! 私、服を着てない。ショウ先輩が脱がしたんですか』


 そのログの音声を聞いたツバサは耳まで赤くしている。そして、ログを止めたようでその後のログから音声は発されることはなかった。


「おい、ツバサ? 誤解だぞ」


 このショウの声は現在進行形の今の物。さすがにショウも不味いと思った。確かにNPC化したツバサとの最初の会話で間違いがない、始めからこんなやり取りだったかと思うとショウは焦りの色を浮かべた。


「誤解ってなんですかっ! 私の服、脱がしてるじゃないですかっ!」


 ツバサは頭から湯気を出し抗議している。


「おい、ツバサ、その先を読め、誤解が解ける」


 ショウは、途中で切られたログの続きを読むようにツバサに促した。これだけでは、誤解が解けないと思ったからだ。


「ショウ先輩がそこまで言うのなら、確認しますっ!」


 ツバサは怒り口調で言い放つとログを再開した。


『見ましたよね?』


 ログからはツバサの声がした。


『見てない』


 返答をするのは昨日のショウだ。


『見ましたよね?』

『見てない』

『見ましたよね?』

『見てない』

『何か言うことはありませんか?』

『似合ってたぞ』

『見たんじゃないですかっ! ショウ先輩のバカぁーっ!』


 ログの再生が止まった。空気は冷たく沈黙が流れた。沈黙を破ったのはショウだ。


「誤解だぞ」


 ショウが誤解だと言った。しかし、もはやショウの言葉はツバサには届いていないのようだ。ツバサは鬼の形相となっている。


「ショウ先輩のバカーっ!」


 ショウの誤解は解かれることはなかった。ログを見ろ発言は地雷でしかなかった。


 ショウは、助けを求めるかのようにミサキを見た。しかし、ミサキはお腹を抱えて笑っている。こんな状態のミサキなど役に立たない。ショウは諦めた。


「すまんな。それでだ、服が脱げた原因がマントを掛けたことなんだ」

「やっぱり服を脱がしたんですねっ!」

「あれは事故だ。悪かったよ。それで、お前が石になってたからな。マントを掛けて戻したんだ」

「マントって何ですか?」


 ツバサは不思議そうに首を傾げた。


「今な、レベル40を超えると石化するんだ」

「でも、私、石化してませんよ」


 ツバサは自分のレベルを思い出したかのように不思議そうに問う。


「この部屋にいる時はだな、レベル40になるようになってるんだ。そのまま、外に出ると石化だ」

「そうなんですか?」

「そういうことだ。でだな、特別なマントがあってな。マントをしてると外でも、レベル40表示になってだな。そのログは丁度マントを掛けた時で、レベル40超える装備が外れたんだ」


 ショウが『装備が外れた』と告げた瞬間にツバサの表情が変わった。


「だから、なんだって言うんですかっ! 服を脱がした事実には変わりありませんよね?」

「そ、それは、ミサキがマントを掛けたんだ。なぁ、ミサキ?」


 ショウはツバサに言い聞かせるのを諦めてミサキに助けを求めた。


「そうよ、マントを掛けたのは私。でも、裸を見たのはショウ君。だって私、後ろにいんだもん」


 ツバサの目つきが鋭くなった。


「いや、見てないぞ」

「ショウ先輩、何か言う事はありませんか?」


 ショウは、頭をフル回転させた。前回と同じ質問だ。『似合っている』と言う言葉で前回ツバサに怒られたからだ。


「すまなかったな」


 ショウは素直に謝ることにした。


「じゃあ、今回だけですよ」


 ショウは前回と違い、回答に正解したようだ。


「で、そのマントってヤツはこれだからな」


 ショウは一枚のマントをアイテムボックスから取り出しツバサに渡した。


「これが、そのマントですね」

「あぁ、そうだ。忘れずに付けろよ。石化しちまうからな」

「はい、分かりました。ところで何で、レベル40を超えると石化するんですか?」

「何か、今、レベル40を超えるプレイヤーもモンスターも動かないようにする処置がしてあるみたいなんだ。モンスターが動かないようにするためみたいだ」

「うーん。分かりました。要するにマントをして外出すればいいんですね」


 ツバサは、顎に指を当て考えている様子で合ったが、とりあえず納得したみたいだ。


「そういうことだ」

「ところでトウカさんは、何でベッドにこもってるんですか?」

「あぁ、こいつか? 昨日は遅くまで宿題をやってたみたいで、眠たいんだって」

「そのベッド、ショウ君が使ってたからだよ」


 ミサキが微笑みながらツバサに伝えた。


「えっ、トウカさん、ダメです。ダメですっ!」


 ツバサがトウカの掛け布団を剥ぎ取ろうと引っ張る。トウカも剥ぎ取られまいと必死で布団を掴んでいる。まるで綱引きをしているかのようだ。


「まぁ、ツバサ? ログを全部読んでおいてくれ。昨日の事件を把握しておいて欲しいからな」

「でも、まだトウカさんがベッドに……」


 布団を掴みながら発言するツバサは首をショウに向けるだけだ。


「もう少し寝かせてやりな」

「もうー」


 不満そうに唸りながらのツバサはつかんでいた布団を離した。


「とりあえずだな、ログの続きを確認しな」

「分かりました。ログ読みますね」


 ツバサの目の前に黒いディスプレイが出現した。ログから声が聞こえないところをみると、読んでいるので間違えがない。声音モードはやめたようだ。ツバサはログを読みながら表情をころころ変えていた。喜んだり怒ったり恥ずかしがったり、まるで阿修羅像のようだ。


「おい、トウカ? まだ休むか?」

「どうしたのよ」

「いや、買い物でも行こうと思ってな」

「なら、行くわ」

「ショウ先輩? 私も行きますっ!」


 間髪いれず答えるのはツバサだ。


「お前は、ログを読んでおいてくれ、後、ミサキにも説明してもらいな」

「ショウ君? 私も留守番なの?」

「そりゃそうだろう。ツバサに説明しないといけないことがたくさんあるはずだからな」

「ふーん。そんなにトウカちゃんと二人きりがいいんだ」

「どういうことだ?」

「ミサキさん、どういうことですかっ!」


 言葉の意味を知りたがるツバサがミサキに詰め寄った。


「言葉の通りよ」


 詳細を語らないのはいつも通りのミサキだ。


「まぁ、なんだって良いだろう? 昨日は、トウカにも頑張ってもらったんだしな。お礼くらいしないといけないからな」


 ショウに礼をと言われ、トウカは嬉しそうな顔をする。


「と言う訳で、トウカ? 行くぞ」

「うん」


 トウカは返事をしてベッドから起き上がった。そして、ショウは羨ましさを隠せないツバサと悪巧みを考えるミサキを置いて部屋を後にした。

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