53話 第二章 第二章 レストラン
ショウとトモは昨日、作戦会議に使ったレストランへとやってきた。今回は二人だ。昨日とは違い手前の小さなテーブルを陣取った。トモはメニューを見ながらどれにしようかとにらめっこだ。
「トモ? 何にするんだ?」
「ボク? うーん、カレーにしようかな?」
「そうか、そうか。じゃあ、オレも同じのにする」
ショウは、単純に決めるのが面倒であった。トモと同じものを注文するれば手間が無い、ただそれだけだ。決して心理学的ミラーリングなど考えてはいない。他人と同じ行動をすれば好意が得られるというものだ。
ショウがウエイターを呼びカレーを二つ注文した。
「で、現状、ゲームは元に戻ってないんだよな?」
「そうだよ。今のところ復旧の目処は立ってないよ」
「何で復旧しないんだ?」
「それはね、昨日、ゲームから戻れなかった人がいたってことが影響してるよ。現状、どれだけの人がゲームの取り残されたのかは分からないから、それを把握するまでゲームは中断だよ」
「まぁ、そうなるな。結構、取り残されていた人がいたってことか?」
「ボクが聞いたところでは、トウカちゃん以外は確認できていないみたいだよ。だけど、もし残っていた人が確認できたら大変だからね。今は調査中みたいだよ」
「ふーん。とりあえずそれほど大きな問題にはなってないみたいだな」
「復旧が数日掛かってたら、それこそ問題だったからね。トウカちゃんが今日、学校に行けないようだったら、間違いなく問題になってたよ」
「まぁ、早く解決できてよかったな」
「そうだね。ただ、このゲーム『ファイアーウォール』が機能してないから、ウイルス駆除が出来なくて、リアルの世界はちょっと混乱中だよ」
「ウイルスが駆除できないってことだな?」
「そうそう。だから運営としても早い復旧を急いでるのは事実だよ」
そうこうしている間に、注文していたカレーが二つテーブルに届いた。トモがスプーンを握りライスの壁を崩した。
「これ、おいしいねっ!」
トモが舌鼓を打つ。ここのレストランは第一サーバーで一番の店だ。味がよくて当然だ。
「そうだな、ここの料理美味いからな」
「変態さんもよく来るの?」
昨日の話のことだ。トモはショウの名前を『変態さん』と呼んでいた。
「まだ、その名前で呼ぶのか?」
「ログに残ってたからね。ねっ? 変態さん」
ショウは溜息を付いた。確かに昨日はそう呼ばれていた。事の発端はミサキだ。ミサキがトモに紹介したときに変態呼ばわりしたのが原因だった。
「別の呼び方はないのか?」
「ショウちんって、呼ぶね」
「その方が、まだましだな」
「じゃあ、ショウちんね」
「何か、昨日と性格変わってないか? NPCって本人と性格が同じになるんだろ?」
「仲良くなったからだよ。あだ名くらい、いいでしょ?」
「そうかそうか、分かった」
ショウとトモは食事を続けた。
「あっ、そうだ。トモ? フレンド登録がまだだったな」
「そうだね。何かあった時に連絡したいから、登録してこうよ」
ショウがフレンドリストを開きトモに申請する。
「はい。これでいいね」
トモがフレンドリー申請を許可し、登録が無事に終った。
「で、トモの今日の仕事は何なんだ?」
「今日はパトロールってことになってるよ。現状、上からの具体的な指示が出てないから」
「そうか、そうか、何かあったら協力するからな。言ってくれよ」
「わーい。ありがとう。その時はミサキさん経由で連絡が行くと思うよ」
「何? 何であいつ経由なんだ?」
「一応、現場監督はミサキさんだからねー」
「オレは、トモの方がいいんだけどな」
「そう言わないでよ。ミサキさんは案外ショウちんのこと気に入っているんだよ」
「まぁ、おもちゃとしてお気に入りなんだろうけど」
「そういうことだよ」
「そういうことなんだな……」
ショウはため息を付くしかなかった。おもちゃとして気に入られているということは、これからもおもちゃ扱いするということなのだろう。先が思いやられる。
その時であった。ショウのフレンドリーコールが鳴った。
『ちょっと、あんたっ! 今、どこにいるのよ?』
「ん? トウカか? 今、トモと飯を食ってる」
『何であたしを誘わないのよっ!』
「お前、さっきまでいなかったじゃないか?」
『そうよ。今、来たんだから。で、どこでご飯食べてるの?』
「昨日のレストランだ」
『あたしも行くわっ!』
「いや、もう食い終わるぞ。すぐに戻るから待ってろよ」
『待ってるだけじゃ暇なのよ』
トウカは行動的だ。ただ待っていろと伝えるだけでは言うことを聞かない。そう思ったショウは、機転を少し効かせた言い方をすることにした。
「そういえば、お前、昨日、遅かっただろう? ちゃんと寝たのか?」
『そんなに、寝れなかったわ。昨日、帰ってから宿題したんだから』
あのあと帰って宿題をしたらしい。学生の鏡というべきだ。
「だったら、ベッドで寝てな。すぐ戻るから」
『何よ、あんた! 宿題したのよ。他にいうことないの?』
「言うことって、何だよ」
『もういいわ。で、あんた? ベッドを使ったの?』
ショウがベッドを使うのは当たり前だ。何たってこのゲームの中でショウは24時間営業中。しかし、事情を知らないトウカは単純にベッドを使ったか、使ってないかの質問してきた。
「ん? 使ったけどな。手前の方。入り口側のだ」
『そう、手前方ね。分かったわ』
当然のことだろう。誰かが使ったベッドを使いたいとは思わない。そうショウが思った時だ。
『ちょっと、あんた。手前のベッド女の子のにおいがするわよ』
「お前は、手前のベッドを使おうとしてるのか?」
『いいじゃな。うるさいわよっ!』
「なんで、手前のベッドを使おうとしてるんだ?」
『ま、間違えただけよっ! じゃあ、奥の方を使うわ」
「あぁ、そうしてくれ」
『てっ、こっちも女の子のにおいがするじゃないっ!』
「それ、ユウが使ったからじゃない?」
『ユウさんが? あんたユウさんと一緒だったの? いやらしいわね』
「そんなんじゃないぞ」
『信じられないわ。あんた変態だもん』
トウカからの評価は未だに変態のようだ。
「分かった、分かった。とりあえず寝てろよ。そっちに行ったら起こしてやるから」
『分かったわ。待ってるから』
ショウは、言い訳するのを諦め、トウカに待っているようにだけを告げた。
「トモ? トウカがログインしたみたいだ。飯食ったら、宿屋に戻るぞ」
「分かったよ。ごちそうさま」
トモはカレーを平らげてご満悦のようだ。