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50話 第一章 第一節 酒場でのひととき

「ムネさん、ノンアルコールカクテルを頼むよ」


 現在時間は午前3時。まだ外は真っ暗だ。そんな時間にショウは酒場のカウンターに座り時間を潰していた。ショウは現在、宿無しだ。ショウの借りた部屋は現在、ユウに占領されている。二人部屋なのでベットは余っている。だがしかし、そこに入って行ける勇気などショウは持ち合わせてなどいない。


「お客さん、もう三時ですよ。まだ飲むんですか?」

「あぁ、今日は飲みたい気分なんだ」


 飲むと言っても、ノンアルコールだ。ショウはちょっと大人ぶった発言をする。


「じゃあ、サービスしときますよ」


 バーテンダーの髭を生やしたムネは気前がいい。


 カウンターの奥に並べられている数ある酒のボトルの中から、ムネが数本のボトルを選び出した。それらを次々とカウンターに並べていく。全てノンアルコールの物であるのだろう。


 カウンターに並べられているボトルをムネが手に取ると手際よくシェイカーに注ぎ込む。そして、ショウの目の前でシェイカーを振り始めた。振るだけではなく、シェイカーがちゅうを舞う。これが、ここのスタイルだ。混ぜ終わったシェイカーがムネの肘で弾かれ、シェイカーのボディーとストレーナーが分離した。いよいよグラスに注がれる。カクテルグラスに注がれる液体は血のよう赤い。


「炎のカクテルですよ」


 ショウはここの常連だ。ムネも知っている。いつも炎の杖を携えているショウのことを見ていての配慮だろう。ショウが左手でカクテルグラスを手に取ると、赤い液体を口へと運んだ。左手薬指の金色の指輪がキラリと光った。


「ちょっと苦い感じだな」

「本来はカンパリを入れたいところなんですがね。アルコールが入ってるので、代替ですが」


 ショウが飲んでいるノンアルコールカクテルはほろ苦く、大人の味と言ったところだ。


ショウがノンアルコールカクテルに舌鼓を打っていると、フレンドリーコールが鳴った。


『ねえ、ショウ君? ログアウトしてないの?』


 声の主はミサキだ。ミサキはショウがログアウトしていないことに疑問を抱いたようだ。


「なんだ? ミサキか?」

『なんだじゃないよ。ログアウトしてないの?』

「あぁ、してないぞ。今、バーで飲んでる」

『ショウ君は未成年でしょ? お酒飲んじゃいけないよ』

「ノンアルコールだからな。何なら確認に来るか?」

『ショウ君が誘ってくれるんだ。行くよ。ふふふっ』


 ショウはしまった(・・・・)という顔をした。思わず余計なことを言ってしまった。話の流れでショウの天敵であるミサキを呼び出してしまった。ここで断らなければミサキはすぐにでも現れるであろう。


「いや、来なくていい」

『そう、言わないの。待ってて』


 ショウは溜息を付く。この後の展開が予想される。ショウにとってはあまりいい状況にならないと言うことだ。


「本当に来るのか?」


 ショウがミサキに再度確認する。あわよくば良い返事が返ってくるかもしれないというかすかな期待からだ。しかし、既にミサキからのフレンドリーコールの回線は閉ざされていた。


「お客さん、お連れさんが見えるんですか?」


 フレンドリーコールはリアルの世界での携帯電話と同じだ。そのため、ムネにはミサキの話したことは聞き取れてないはずだ。しかし。ショウの会話の流れから察したようだ。


「まぁ、そういうことなんだろうな。場所言ってないけど分かるのか?」

「この辺りだと、ここしかやってませんしね、分かるんじゃないですか?」

「そうなんだな」


 もう時間は午前三時をゆうしていた。こんな時間に空いている店はそうそう無い。


「お連れさんも来るみたいですし、少しサービスさせてもらいますね」


 ムネがそう言うとカウンターから離れ、スタッフルームのような場所に入って行った。


 ショウがサービス(・・・・)という言葉に首をかしげていると、バーのウエスタンドアが軋み音をあげながら開かれた。ドアの入り口には金髪の女性がたたずんでいた。入り口のくらがりに立っている女性は、顔までは分からなかったが、ショウにはミサキだということが察しがついた。


「ショウ君、お待たせ」


 ミサキがそうショウに伝えると、ササクサと歩き、ショウの左側の椅子に座った。


「早いな。暇なのか?」


 ショウがぶっきら棒にミサキに言う。ショウ自身ミサキなど歓迎していない。厄介やっかいごとの元凶げんきょうであるミサキを出来ることなら避けたいと。


「折角、美人のミサキちゃんが来たのにそんな言い方ないよね」


 ミサキは自分で自分のことを『美人のミサキちゃん』と呼んだ。なかなか肝が据わっている。確かに容姿は美人のたぐいであるとショウが見ても思う。しかし、自分で言うのはいかがなものか。


 ミサキがショウの横に腰掛けていると、ムネがスタッフルームから現れた。バラの花束を持っているのが不思議だ。


「お連れさん、もうお見えになられたのですか?」


 ムネはがっかりそうな顔をして、ショウに伝えた。


「オレもびっくりしてるくらいだ。あまりにも早いからな」

「そうですか、まぁ、お見えになられたのであれば……。この花束はこちらのお客さんからです」


 ムネの持つ花束が、ミサキの手に渡る。


「おい、そんな物、準備した覚えはないし、渡されたら困る」


 ミサキが来る前に花束の存在に気が付いていたとすれば、間違いなくショウは拒否していた。しかし、すでにミサキは店に到着している。拒否のしようがない。それどころかすでにミサキの手に花束が渡ってしまった。


「ショウ君? 私まで誘惑する気なの?」


 にこやかにミサキが言う。


まで(・・)ってどういう意味だよ? 誘惑なんてした覚えはない」


 ショウが疑問をミサキに投げ掛けたが、ミサキはニコニコするだけだ。


「マスター。私にも一杯いただけるかしら?」

「お客さん、何になさいます?」

「じゃあ、これと同じのを下さい」


 ミサキはショウの赤いノンアルコールカクテルを指差し伝えた。


「お酒は無い方いいですか」

「うーん。アルコールありでお願いね」

「かしこまりました。少々お待ちを」


 ムネがシェイカーを取り出しカクテル作りの準備を始める。先ほどショウには使わなかったカンパリのボトルに手を伸ばした。


「おい、お前本当に飲むのか?」

「いいじゃない。仕事終わりなんだし」


 ミサキがそう伝えるとムネがシェイカーにお酒を入れた。カクテル作りの始まりだ。お酒を入れたシェイカーをムネが振り始めた。そしてシェイカーが大道芸のように宙を舞う。


「すごい、すごい」


 ミサキが感嘆の声を上げた。不覚ながらショウは無邪気なミサキも悪くないと思ってしまう。


「ショウ君、なかなかオシャレなところ知ってるのね」

「まぁ、ずっとこの世界にいるからな。一通り店は回ったからな」


 ショウがそう言っている間にカクテルが完成し、ミサキの前にグラスが並ぶ。


「ショウ君、乾杯」


 ミサキはカクテルグラスを手に取るとショウの前に置かれたグラスに重ねた。グラスがカチンと音をかなでた。


「で、お前は、何でログインしているんだ?」

「私? さっき報告書が終ったのよ。仕事が長引いたのよ」


 ミサキは仕事のことを思い出したかのように不機嫌そうな顔をする。


「じゃあ、さっさとログアウトして、帰ればいいじゃないか?」

「ショウ君? 今、何時だと思っているの?」


 ショウが壁に掛けられている時計を見ると、既に午前三時半になっていた。


「三時半だな」

「そうよ。終電も終って帰れないのよ。始発待ちなのよ」

「ふーん。そういうことか」

「美女が終電逃したって言っても何とも思わないの?」

「全然」


 ショウが興味無さそうに首を振り言う。


「トウカちゃんもツバサちゃんもユウちゃんも大変だこと……」

「ん? 何か言ったか?」

「なんでもないよ。ショウ君がそんなんだからいけないんだよ」

「何のことだ?」


 ミサキは溜息を付くだけで返事をしなかった。


「そういえば、何でショウ君はログアウトしてないのよ?」


 ミサキが本題を切り出した。


「あぁ、そのことか? 言った方がいいよな?」

「何? 私に秘密があるの?」

「まぁな、秘密にしといた方がいいかもな」


 ショウはもったいぶるようにミサキに言う。


「そんなこと言うと、今日のこと、みんなに言っちゃうよ」

「それが何だって言うんだ?」

「女性と二人きりで夜の酒場だなんて、いやらしくない?」


 ショウがあせりの表情を浮かべる。いやらしいとか、エッチとか言われたくない年頃だ。昔、さんざんバカにされた苦い記憶がある。まさかこんなことを脅しのネタにされるとは思わなかった。ミサキの脅しは巧妙だった。


「じゃあ、今日のことを秘密にしてくれるってことか?」


 ショウは、取引を持ちかけることにした。なるべくなら火種は摘み取っておいた方がいい。


「ええ、そうよ。お互いの秘密を共有しましょうよ」

「分かった。しゃあ、言うか」


 ショウが、自分の秘密をミサキに告げることを決心する。


「オレはな、実はリアルの世界に戻れないんだ」

「どういうことよ? ウイルスは倒したわよ」

「そういうことじゃないんだ。それ以前からずっとリアルの世界に戻っていないんだ」


 ミサキが不思議そうな顔でショウを覗き込んだ。


「オレの身体からだは、抜け殻なんだ」

「何それ? セミか何か?」


 ミサキは抜け殻と聞いて、真っ先にセミを思い浮かべたのだろう。シリアスな話しがミサキの発言でぶち壊れそうになっている。


「セミじゃねーよ。一年以上前だったかな? オレは確か、何らかの事故に巻き込まれたようなんだ。それ以来このゲームの中に意識を移して暮らしている」


 ショウ自身、事故の記憶は不鮮明だ。おおよそ事故なのだろうとの認識に過ぎない。


「それ? 本気で言ってるの?」

「ああ、本当だとも。だから昨日の件も、ログアウト出来ないから残ってんだ」


 ミサキが珍しくあごに手を当て考え込む。


「私でもそんな話聞いたことないよ。確かに臨床研究部って言う医療系のよく分からない部署があるにはあるんだけど」

「そこに言えば戻れるのか?」


 ショウがミサキに活路かつろ見出みいだした。 


「部署間でのやり取りはほとんどないのよ。上に報告をして、話を通してもらうことしか出来ないよ」

「面倒なんだな」

「ところで、この話、他の子も知ってるの?」

「他の子?」

「ええ、トウカちゃんとかツバサちゃんとかユウちゃんとかね」

「ああ、あいつらか。ユウは知ってる」

「ユウちゃんだけ知ってるの? それって本命ってこと?」


 ミサキは顔をニヤつかせる。


「本命? 何のことだ? ユウは賢いからな。そういうのがさっしがいいんだ」

「そう? で、トウカちゃんやツバサちゃんには言わないでおくつもりなの?」

「今のところ話す必要がないと思ってるからな、いらない心配を掛けるのも気が引けるし言わないつもりだ」

「そう、案外いろいろ考えてるのね」

「まぁ、なるようにしかならないしな」

「で、何で宿屋に戻ってないのよ? 朝まで飲む気なの?」

「それなんだが、オレの部屋にユウが寝てるんだ。帰れないだろう?」

「襲っちゃえばいいじゃない?」


 ミサキは楽しそうに言う。


「バカなこと言うな」

「だって相手NPCなのよ。やりたい放題でしょ?」

「そんなことしてみろ、ツバサに殺されるだろう? オレは常に女の敵みたいだからな。ところで何でツバサはユウにあんなに敵意を向けるんだ」


 ミサキがやれやれという顔をする。


「ショウ君って、天然なの?」

「ん? 何のことだ?」


 ミサキからは溜息しか帰ってこなかった。


「そういえば、なんでユウちゃんがショウ君の部屋なの? ツバサちゃんが許すなんてね。もしかして部屋の前で通せんぼしてるとか?」

「許すも何も、よく分からんが。ツバサはミサキ達が借りた部屋にいるぞ。トモと同じ部屋だ」

「不思議なこともあるんだね」

「何が不思議なんだ?」

「ショウ君は、本当に何も分かってないの?」

「だから、何の話だ?」


 ミサキはため息を付く。


「でも、部屋分けの時に争いになったでしょ?」

「多少あったな。ツバサがオレの部屋で監視するって最初に言い出したんだが、ユウと話し合いをして、ユウがオレの部屋に来るのが決まったんだ」

「その時、何か話してなかった?」


 ショウが眉間にシワを寄せ思い出す。ツバサが『ショウ先輩が寝るまでベットから出ちゃダメです』と言っている光景を思い出した。


「そうだな、ツバサがユウに、オレが寝るまでベットから出ちゃだめだとって吠えていたのは覚えてるぞ。むしろ、起きてる時ならいくらでも拒否できるから、寝ている時の方が困るんだがな」

「確かにそうね。他には、変わったところはなかったの?」


 またしてもショウが考える。


「ツバサのことか? そういえば、オレの左手を取って『頑張って』ってつぶやいていたぞ」

「それって、ショウ君を応援してるってこと?」

「いやぁ、そうじゃないだろう? 何で左手にそんなこと言うんだ?」

「ふーん。不思議ね」

「だろ? 左手にそんなこと言うなんて不思議だよな」

「ショウ君? 本当に何も気が付いてないの? ツバサちゃんの行動すべてが不思議なのよ?」

「だから、なんだよ? 左手に『頑張って』が不思議なんだろ?」

「違うわよ。まず、ユウちゃんがショウ君の部屋に行くことを許したこと、そして、ショウ君が寝た後のことを考えていないことよ」


 ショウは確かにおかしいと思った。


「確かにそうだな。ツバサはオレが女と一緒にいるのを異常なほど嫌がるんだよな? 何でだろうな?」

「何でだろうじゃないよ」

「ん? どう言うことだよ?」


 ミサキからは溜息しか聞こえてこなかった。


「で、オレの部屋にいる下着姿のユウを何とかしてくれ」

「下着姿ってどういうことよ?」

「ああ、それな。前回の戦闘でマント羽織っただろ? 服が無いって言って服を着ないんだ」


 ショウは、黒い下着姿のユウを思い出し、少し顔が赤くなった。


「じゃあ、ユウちゃんは下着姿のまま宿屋まで帰ったってこと?」

「そうだな、そうなるな」

「あんな可愛い子、下着姿で歩かせるなんて、ショウ君、あなた頭おかしいんじゃないの?」

「いや、歩いて帰らせてないぞ。服が無いし、どうしても着ないって言うもんだから、オレがおぶって帰った」

「へー。ユウちゃんをおんぶねー。さぞかし良い思いをしたんでしょうね?」


 ショウは良い思い(・・・・)と言われて、顔がさらに赤くなる。いまだに背中に当たっていた双丘の感触覚えていた。


「ショウ君? 否定しないんだー」


 ショウは背中の感触に気をとられ返事を忘れていた。


「そ、そんなんじゃないぞ」

「よく言うわ。すぐに否定しなかったくせに。でも、おんぶして帰ったって、ユウちゃんお尻丸出しじゃない」

「辛うじて、マントを羽織ってたからな」

「そう? お尻見れなくて残念だったわね」

「全然、残念なんかじゃないな」


 ショウは素早く否定した。さっきみたいに勘ぐられてはたまらない。


「残念じゃなかったんだぁー。良い思いをしたってことね」

「なんで、そういう風に取るんだ? おかしいだろう?」

「おかしいと言えば、ツバサちゃんのことよ。ツバサちゃんの行動が不思議だよ」

「確かにな、ユウをおんぶしてるときは鬼のような顔をしていたんだがな。宿屋ではそんな感じじゃなかったからな」

「ふーん」

「で、ユウを何とかできないのか? このままじゃ部屋にも戻れないんだが……」

「そうね。ツバサちゃんとユウちゃんはログアウト状態にして、姿を消した方がいいかもね。トウカちゃんはログアウトして、この世界にいないのだから」

「そんなことできるのか? ぜひとも神に頼みたい」


 ショウが神頼かみだのみを始めた。


「そう、神ミサキに頼みたいのね。分かったよ」


 ミサキは、手元にキーボードのようなものを取り出しカタカタ叩き始めた。


「これでOKよ。ツバサちゃんとユウちゃんはこの世界から消えたよ。トモも一緒に消しておいたから。トモを襲おうとしてもいないからね」

「いや、襲わないぞ。何を言ってるんだ?」

「そう? 襲った方が面白そうだからだよ」


 ミサキはショウの困っている姿が気に入っているようだ。


「また、話が拗れるからな。勘弁してくれ」


 ショウがうな垂れた。


「ショウ君? 他に困ったことはない?」

「そうだな……」


 ショウは腕を組み考え始めた。


「そういえば、トウカやツバサやユウは、もうこの世界には来れないってことだよな? サービス停止中なんだもんな」

「なんだ、そんなこと? ショウ君寂しいの?」

「寂しくなんて無いさ。気になっただけだ」

「ショウ君は目の前の美女に気が付かないの?」

「美女? お前のことか?」

「ええ、そうよ。何か気が付かない?」


 ショウは何も思い付かずミサキに聞いた。


「何だって言うんだ?」

「私はログイン中なのよ? おかしいと思わない?」

「ん? どういうことだ?」

「だから、サービス停止状態なのに私はログインしているのよ」

「そういうことか? ログインできるようになっているってことか?」

「厳密には、少し違うよ。専用回線から入ってるからね。一般のプレイヤーは入れないよ」


 ショウががっかりした。サービス復旧が終っていると思っていたからだ。


「だからね、トウカちゃんとツバサちゃんとユウちゃんには専用回線から入ってもらうようにメールを入れとくことにするよ。そうすれば三人は夕方にでも来るんじゃない?」

「それは、ありがたいな」

「やっぱり、ショウ君は寂しがり屋さんだね」

「そんなんじゃないけどな」

「ふーん。まぁ、あの三人は特別だからね。テスターと言う形で入ってもらうよ」

「分かった。助かる」

「ショウ君? 他には何かあるかな?」

「そうだな」


 ショウは腕を前に組み考え始めた。


「昨日のウイルスの討伐はどう言う報告を上げてるんだ? スパイとかいたんだろ?」

「あっ、そのことね。とりあえず、システム部二人と協力者等で殲滅って報告してあるよ。作戦部はたまたまPKにあったことになってる。マントが消されたとかは、記載してないよ」

「じゃあ、マントが誰かの手にあるってことは、ばれているってことだよな?」

「そうね、誰かが持っているのは、上層部も分かってるよ」

「それって、ログを見るとばれるんじゃないか?」

 ショウは倒した相手の記録があった。と言うことは、倒された相手も記録が残っていてもおかしくないことだ。


「それね、作戦部が消されたのを覚えているでしょ?」

「そうだったな」

「消されたときに、ログもすべて消されたらしいの。分かっていることは、作戦部のプレイヤーの記憶しかないのよ」

「と言うことは、魔道士にやられたことは覚えてるってことだな」

「そうね。だから、しばらくショウ君は剣士のフリをしていて欲しいってのが、私の希望よ」

「分かった。そういうことなら、協力する」

「あと、残ったマントに付いては事態を重く受けてない感じだったよ」

「重く受けてないとは?」


 ショウがすかさず質問した。


「マントがあれば、確かにこの世界で動き回ることが可能だよ。だけど、一旦ログアウトしたら、この世界には戻れないからね。ログアウトしたら、問題なくなるからだよ。二十四時間ログインしているプレイヤーがマントを持っているなんて、上層部も思っていないから、問題ないよ」


「だけど、マントを持つキャラがNPC化して暴れたら不味いだろう?」


 PKを行うようなキャラがマントを持っているとすればNPCの思考は最悪だろう。そんなキャラがNPC化、しかも高レベルであれば問題が発生するはずだ。


「そこも問題ないよ。ログアウトしたキャラの情報を運営がチェックしてたからね。ログアウトした時にマントを持ってたら、没収。そうすればNPC化されることなく石化よ」

「オレがログアウトしていたら没収してたってことだな」

「そうね。まさかログアウトできないなんて思ってもいなかったから。都合がいいわ。もう少し協力してもらうことにするよ」

「まぁ、どうせ暇だしな。手伝い位ならしてやるかな」

「そうこなくっちゃ」


 ふとショウは気になった。トウカはログアウト時にマントを所持していた。運営に目を付けられるはずだ。


「トウカはマントを持ってただろう? 不味くないか?」

「あっ、そのことね。トウカちゃんはレベルが33だったでしょ?」

「そうだな」

「マントの効果が発生するのはレベル40を超えるキャラだけだから、運営もレベル40を超えるキャラ限定で調べてたよ。調べるキャラが莫大だったから、手間を省いたのよ。で、レベルが低いキャラはマントを持っていようが、もっていまいが、関係ないから調べないって訳」

「そういえば、キャラのNPC化については何か言ってたか?」

「それね、誰かがNPC化のシステムを動かしたらしいんだけど、詳細は掴めないみたい、これから調査するって」

「それも、スパイの仕業か?」

「まだ、分からないよ。とりあえず調査なんだって。で、NPC化に関してはしばらくテストを兼ねてこのままらしいよ」

「そういうことか、まぁ、誰もいないよりマシだな。しばらくNPCと戯れるとするか」

「ショウ君? 女の子と友達になってよ。その方が楽しそうだから」

「断る。もう、これ以上厄介ごとを増やしたくないもんでな」

「ふーん」

「まぁ、質問としては、こんなところかな? じゃあ、宿屋に戻るか?」

「私も?」

「決まってるだろ? お前もだ」

「ヤダ、ショウ君のエッチー」

「おい、そんなんじゃないぞ。ユウが、もしいたら、もう一度、姿を消す手続きをしてもらわないといけないからだ」

「そんなの分かってるよ」


 そう言うと二人は酒場を後にした。

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