44話 第六章 第六節 ボスとの遭遇
「何なのよ。あの大きいの……」
トウカが後ずさりをした。今までのモンスターの違いに驚いたからに違いない。目標までの距離、およそ100メートル。そんな遠くからでもしっかり視認ができる。身体からだの大きさで言えば、今までのゴブリンの十数倍は大きい。モンスターの特徴は、カマキリに似ていると言っていいだろう。色は緑ではなく灰色をしている機械的な様相だ。月明かりに照らされた身体からは物々しさを滲ませていた。
「真打登場ってことか? ミサキ、あいつでいいんだな?」
ショウがミサキに問う。
「ええ、あれで間違いないよ」
ミサキが言うなら間違いないだろう。何て言ったって運営側の人間だ。討伐目標を把握していて当然だからだ。
「じゃあ、やっつけるとするか」
ショウが目標を通称カマキリに定めた。そして駆け出す。
敵との距離が縮まる。初弾をショウが放つ。カマキリのカマをよけながら斬撃だ。そこにツバサも合流した。
「ツバサ、カマの動きが早い、気を付けろよ」
「分かってますよ」
ショウが注意を促すとツバサが頷く。前衛としての技術はツバサのほうが、よほど上だ。ショウに躱かわせて、ツバサが避けられないはずがない。
「トウカ、お前は後ろで待機だ。ミサキとトモは弓矢で援護を頼む」
トウカは、一歩下がって見守った。トウカの後ろからはカマキリに向けて矢が放たれた。
「よし、ツバサ。右から頼む。挟むぞ」
カマキリの右側をツバサが。ショウが左側から。挟撃を開始する。
第九クラス斧技――アースブレイク――
ツバサがクラス9の斧技を開始早々に繰り出した。ボスを捉えた斧が、そのまま大地を砕き地割れを起こした。さすがに一撃では倒すことが出来ない。しかし、それなりのダメージを受けたのかカマキリが羽を広げ怒り出した。
「ショウ先輩、敵がこっちを向きました。後ろからお願いします」
敵は今、ツバサの方向を向き、カマを振り上げていた。
「分かった、切り込む」
ショウが背後から、斬撃を行った。敵の正面のツバサはカマキリのカマを切り払う。
「よし、この調子ならいける」
ショウは勝利を確信した。挟撃で翻弄できる相手など所詮はその程度。このリズムで敵のHPを減らすだけでいいのだから。
「ツバサ、今度はこっちに来た。後ろから頼む」
ショウの斬撃が敵に当たると、次はショウをターゲットに捕捉したようだ。
「ショウ先輩、了解です」
ツバサは斧を構え、振り上げていた。渾身の力を込めて振り下ろした。
第五クラス斧技――パワーインパクト――
ツバサは斧技を使い打撃を与えた。ショウの攻撃などとは比べ物になら無いほどの攻撃力だ。
カマキリのダメージが蓄積されたのか、身体の色が黒くなる。すると、途端に動きが変わった。火事場の馬鹿力といえばいいのだろうか。最後の最後に敵は暴れ始めた。
「ツバサ、今度はそっちに行くぞ、動きが変わった。気を付けろ」
敵は最後まで諦めてはいなかった。敵のカマの攻撃がツバサを襲う。素早くなった敵の攻撃がツバサの二の腕をかすめた。
「うっ……」
ツバサのダメージは軽微なもの。しかし、ツバサの顔色が険しくなり、その場にしゃがみ込んだ。
「ショウ先輩……。状態異常があります……」
ツバサがバッドステータス、毒と麻痺を受けた。
「ツバサ、一度離れろ、麻痺の回復を待ってから援護を頼む」
その言葉を聞いたミサキが、ツバサに駆け寄り、敵からツバサを遠ざけるようにツバサ引きずる。
「ショウ君、ツバサちゃんは大丈夫よ。かすり傷程度だから、すぐ戻れるよ」
ショウは頷いた。一方、トウカは恐怖に怯えているようだ。あれだけのモンスターと今まで対峙したことがないのなら仕方がない。
「しまったな、初心者エリアに状態異常の攻撃を持っているヤツがいるなんてな」
ショウが呟いた。しかし、初心者エリアでは状態異常の回復アイテムなど流通していない。そもそも初心者エリアでは状態異常など起こらないからだ。この敵がいかに普通でないのかを物語っている。
そして多くの初心者プレイヤーがこの状態異常の餌食になった。初心者プレイヤーに、この凶悪なコンピューターウイルスを駆除しろとは酷な話だ。
ショウが、この状況を打破する方法を考えていた。やはり、ツバサの援護が必要だ。ここは、ツバサの状態異常が回復するまで、敵の攻撃をやり過ごすことに専念した。防戦一方でも構わない、ツバサが戻ってくれば、離れた所から魔法を敵に当てることさえ出来る。本職魔道士として大いに暴れられる。
ショウは、敵のカマを払い続けた。ショウの顔には焦りはまったく感じられなかった。切り払いのみに専念すればいい。ショウにとっては造作もないことだった。