40話 第六章 第二節 戦闘終結
「おい、トウカ、だいぶ疲れてきてるんじゃないか? 動きが悪くなってるぞ」
「そうね、少しは疲れるわね」
戦闘が始まりしばらくたった。トウカは額に薄っすら汗が浮かべ、戦闘での疲れが隠しきれなくなっていた。ショウがそんなトウカに声を掛けた。
「でも、大丈夫っ!」
心配されたトウカは、余裕だと言わんばかりに剣技を振るった。
第三クラス剣技――ファイアースラッシュ――
トウカの持つ剣に火が灯り、火の粉を撒き散らしながらゴブリンに斬撃を加えた。ゴブリンは火に包まれ消滅した。
「トウカ、あまり無理するなよ」
「分かってるわ。あんただって剣技使えないんだから無理しない方が良いんじゃない?」
トウカは口角を上げ、自慢げに言う。
「まぁ、そうだな。お前と一緒なら何とかなりそうだな」
トウカはショウの背中合わせに戦闘を続けた。背中合わせの二人のコンビネーションは周りの村人の注目の的になっている。
「まだまだ、敵がたくさんいるな」
「そうね、何とかならないの?」
トウカが剣を握り締め、次の斬撃に備えようとした時だ。ゴブリンに矢が放たれ消滅した。
「ミサキも張り切っているみたいだな」
ショウが後方の矢倉を見上げる。ショウの目にはミサキが弓を引いている姿が映る。そして、弓からは光る矢が放たれた。光る矢の軌跡は、まるでほうき星を見るかのようだ。
「トモもがんばっているみたいだな」
トモはというと、倒れ村人に回復アイテムを分け与えていた。そして、少しづつではあるが、村人の元気が戻りつつある。モンスターの押し戻しに成功していた。
「ツバサの姿は見えないが、まぁ良いか」
「あんた、ツバサさんは、無視なの?」
「あいつは、これくらいの敵なら余裕過ぎると思うが」
トウカは目を細め寂しそうな表情を浮かべた。ショウのツバサへの信頼がうらやましく思っているようだ。
「あんた、あたしを守りなさいよっ!」
トウカ自身、ツバサに勝てない。こんな時くらいしかショウを独り占めできない。
「ああ、分かってるよ。それより反対側からすごい音がするだろ? あれ絶対にツバサの戦闘の音だぞ」
「えっ、まさかね?」
トウカは目を丸くして驚いていた。離れた所から聞こえる、大地を揺れ動かしそうな轟音。それがツバサの戦闘による音だとは予想していなかったのだろう。
ツバサはというと、黙々と敵を倒し続けていた。ショウやトウカは一体一体斬撃を加え倒しているのに対して、ツバサは、一振りで数体の敵を撃破している。斧を横に振れば多くの敵をなぎ倒し、縦に振れば地面が割れる。後方から見守る村人からは歓声が上がっていた。
そして、ショウもトウカも敵を斬り付け押し戻して行った。
「そろそろ、いいんじゃないか?」
「まだ、敵が残ってるわ」
トウカが残りの敵を気にしていると、だんだんと周りに村人達が集まって来ていた。村人の多くが回復し加勢に来ていたのだ。村人達は怒号を発しながら、一斉にゴブリンに駆け寄り斬り付けた。斬り付けるという言葉が正しいとは限らない。鍬を振り、スコップを振り、ピッチフォークを突き立てたのだ。次第にゴブリンの軍勢は光となり消えて行く。
「よし、終ったな」
「そうみたいね」
トウカが剣を下ろし、ほっと一息付いた。
「冒険者様、ありがとうございます。村が救われました」
村人らしき中年の男性がショウに声を掛けてきた。
「いえ、まだ、終わりじゃないので」
「と、言われますと。主を倒しに行かれるとのことでしょうか?」
村人は驚いた顔をする。
「そういうことです。この後その主とやらを倒す予定です」
ショウは真剣な顔をして答えた。
「村にずっといてもらえませんか、村の兵士達も負傷しておりまして、またゴブリンの軍勢が押し寄せれば村が危ういのです」
村を心配する中年の男性は、ショウに手を合わせ懇願した。
「そういう訳には行きませんので、良ければ負傷している兵士の回復だけでも行いますが」
「それは、ありがたい。なにぶん回復のアイテムも底を着きかけておりますので」
ショウが回復することを提案すると村人は大いに喜んだ。
戦闘が終わり、ショウ達は村の門の前に集合した。
「みんな、助かったぞ」
ショウが労いの言葉を掛ける。皆の顔が綻んだ。
「でも、ボス退治が目的よ」
ミサキは任務であるウイルス駆除を急いでいた。
「だけど、村の防衛も重要だろ?」
ショウが告げるとミサキが頷く。
「トモ? まだアイテムは残ってるか?」
ショウが質問するとトモがアイテムボックスを確認し始めた。
「うーん。だいぶ使っちゃったけど、まだ残りはあるよー」
「そうか、これから村の病院に行くつもりだから、さらに無くなりそうだな」
ショウが残りのアイテム数を聞き、ミサキに提案した。
「そうだね。村の防衛は最重要だからね。病院にいきましょう」
ショウとミサキとトモが次の行動を考えてる中、トウカとツバサは二人で話をしていた
「ツバサさん、すごいわね。一人でたくさん倒したのよね?」
「トウカさんも頑張ってたみたいですね。私なんて、ショウ先輩にほったらかしにされました……」
ほったらかしにされたツバサは、信用されて喜んでいいのか、それとも悲しんでいいのか、微妙な表情を浮かべていた。
「あたしなんて、あいつがいなかった危なかったわ。次も守ってもらうんだからっ!」
低レベルのトウカは、レベルが低いことを良いことに、守ってもらうことを強調した。
「そ、そんな……。トウカさん、ダメですっ! ショウ先輩は剣士じゃないので、力不足です。今度は私が守りますっ!」
ツバサがトウカを守ると言い始めた。どうやらショウとトウカを引き離したいらしい。
「あたしが近くにいると、ツバサさんの斧の衝撃に巻き込まれちゃうので……。遠慮しときますっ!」
トウカはツバサの戦闘の音を聞いていた。実際に見てはいなかったが、斧の衝撃に巻き込まれたくないと言う。
「トウカさん、そんなこと言わないでください。もう斧技は使いませんからっ!」
ツバサもショウとトウカを引き離すのに必死だ。敵を倒すのが第一目標なのに、斧技を使わないとまで自信を持って言い放つ始末だ。
「じゃあ、あたし迷惑になりそうなので、離れておくわ。斧技たくさん使ってください。あたしはあいつと一緒に戦うのから」
「そんなぁ……」
ツバサは肩を落としていた。ショウとトウカの引き離しに諦めらめていないようだが、これ以上言うことがなくなっていた。
そこへ、ショウがツバサに話し掛けた。
「おいツバサ。相変わらず強いな。じゃんじゃん敵を倒してくれよ」
肩を落としていたツバサは、急に元気になり、目をうるうるさせて答えた。
「はい、分かりました。じゃんじゃん斧技を使って倒しますねっ!」
さっきまで斧技を使わないと公言していたツバサであったが、もうすでに忘れているようだ。
「ちょっと、あたしだって頑張ったのよ。何か言いなさいよっ!」
トウカは、自分が褒めてもらえないのが気に入らないようだ。
「いや、お前は近くにいただろう? 別に今更いうことはないぞ」
「そんなこと言わなくてもいいじゃないっ!」
トウカはプンスカ怒り出した。
「お前は、褒めると調子に乗るからな。オレの傍そばを離れるんじゃないぞ」
ショウが離れるなというと、トウカがしおらしくなる。
「分かったわよ……。離れないんだからねっ!」
二人のやり取りを見た、ツバサが慌て始めた。
「私も、ショウ先輩から離れませんっ!」
「いや、ツバサは、敵陣に突撃して欲しいんだがな」
「そ、そうですよね……。私は……はうっ」
ツバサの希望は聞き入れてもらえないようだった。
「もう、3人とも満足したの?」
ミサキが話しに割り込んできた。
「満足も何も、何のことだ?」
ショウには何も理解が出来ていないので、ミサキに聞き返した。
「トウカちゃんも、ツバサちゃんも大変ね」
「ん? 何のことだよ」
「何でもないよ。ショウ君がそんなんだからだよ」
ショウは、何がなんだか分からず首を傾げる。
「じゃあ、病院とやらに行くとするか」
ショウが切り出すと、5人は村人に教えてもらった病院へと移動することにした。