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37話 第五章 第十節 作戦会議

 一行は昼食を取ったレストランと同じところにやってきた。人数が昼の時より増えており、店の奥にある大きい丸テーブルを陣取った。

「おい、ミサキ、隣に来い」

「何で、ミサキさんなんですか!?」

 ツバサが、急に口出しをした。

「作戦会議だからな、仕方ないだろう?」

「そうですよね。ただの作戦会議ですよね? ただの……」

 ツバサは明らかに不満そうだ。そんなツバサの顔を横目にミサキがショウの左側にちょこんと座る。

「あら、反対側余ってるね」

 ミサキがふと呟く。反対側とはショウの右側の席のことだろう。そんなこと言うから、トウカとツバサが争いを始める。

「ショウ君、またステーキ奢ってくれる?」

 またしてもミサキが余計なことを言う。そんなことを言えば、仲間外れにされたツバサが文句を言うに決まっている。

 「ショウ先輩? ミサキさんとお食事したんですか? 私だってあまりないのに……」

 ツバサの声が段々小さくなっていく。

「トウカちゃんなんて、ショウ君と二人きりでお茶してたんでしょ?」

 ミサキがニヤ付きながら『二人きり』を強調して言う。ミサキがニヤリとする時は謀はかりごとがある証拠。今回のターゲットはツバサのようだ。

「私だって、私だって……はぅ……」

 ツバサの頭から湯気が出て、思考が停止した。

「お茶だか何だか知らんが、いいだろ? とりあえず座れよ」

 ショウにとっては、お茶もそうだが、席決めだって、どうでもいい話。気にもしていない。

「じゃあ、あたしがここに」

「待って。トウカさんはお茶したんで、ここは私に……」

 ショウの右側の席にツバサがちょこんと座る。無事、ショウの右側の席が埋まった。そして、席が決まると、皆が思いのままに料理を頼もうとしていた。

「また、ステーキにしようかな」

 ミサキはメニューを見ながら言う。

「おい、ミサキ? 野菜食えよ」

 ショウがミサキに野菜食え攻撃をした。効果は抜群のようでミサキは不機嫌な顔をする。ささやかなショウの反撃だ。

「いいでしょっ!」

「もう、オレが決める。鍋料理な」

 ショウがそう宣言すると、ウエイターを呼び海鮮大鍋を注文した。もちろん五人分。

「ショウ君? 肉っ!」

「海鮮に肉なんてないだろ? 諦めろよ」

「じゃあ、すき焼きか、しゃぶしゃぶに変えてよ」

「もう、注文したんだぞ。手遅れだ」

「もう、ショウ君って意地悪ね。トウカちゃんとツバサちゃんの気持ちがよく分かったよ」

 ミサキがそう告げるとトウカとツバサの顔つきが険しくなった。

「あたしは、何とも思ってないんだからねっ!」

「ミ、ミサキさん、もしかしてショウ先輩のことを……。はう……」

「トウカちゃん、ツバサちゃん、安心して。私は外野で観戦してる側だから」

「ん? 何の話しだ?」

「ショウ君が、そんなんだからいけないのよ」

 首を傾げるショウは理解できていない。

「まぁ、何でもいいか。で、やらなきゃいけないことがあるだろう? ミサキ?」

「そうね。まずはフレンド登録をしないといけないよね? あっ、トモは私とだけでいいよ。運営って立場があるからね」

 トモは『運営』と聞いて首を傾げたが、質問をしてこなかった。NPCになっているトモにとっては理解できないことワードなのだろう。

 ミサキの一言はツバサに違和感を与えないようにする処置であるとショウはすぐに理解した。フレンドリストが灰色文字では混乱を招く。ツバサのフレンドリストは白文字であるショウとトウカ、ミサキだけで十分だ。

 フレンド登録の利点はログイン中を理解するのもそうであるが、一番の利点が連絡が取りやすくなるということ。離れていたとしてもフレンドリーコールで通話が可能だ。リアルの世界での携帯電話みたいなものと考えるべきであろう。相手の電話番号が分からなければ電話が出来ないのと同じで、この世界でもフレンドリー登録をしておかないと通話が出来ない。

 皆がフレンドリストを表示した時にツバサが口を開いた。

「あれ? 私のフレンドリストが減ってます。それにショウ先輩のだけ白く光ってますよ」

 ツバサも、気が付いたようだった。NPCになっていても、フレンドリストは普通に作動するようだ。

「白文字はログイン中だからな」

「ショウ先輩? ログイン中って何ですか?」

 ショウは、NPCになってるツバサには白文字の意味が理解できないことを悟った。灰色文字では混乱してしまうので無いかと心配していたショウは、逆に白文字によってツバサに混乱を与えてしまう結果となった。

 ショウは困った顔をして隣にいるミサキに声を掛けた。

「なぁ、ミサキ? この世界のNPCのフレンドリストは灰色文字が普通みたいだぞ。白文字に違和感を感じているみたいだ」

「そうね、ツバサちゃんには私とトウカちゃんのフレンド登録はしない方がいいかもね」

「確かにそうだな」

 ショウが頷く。

「ショウ先輩? 何を話してるんですか? 何で白文字なんですか?」

 ショウは困り果てる。ツバサがログイン中と言う言葉が理解できない以上、説明のしようが無い。

「ん? まぁ、オレが特別って訳だ」

 ショウは、ログイン中が説明できなかった。そのため、特別ログインしているとは言わず特別とだけ伝え言葉を濁した。

「ショウ先輩が特別だなんて……はぅ……」

 顔を真っ赤にするツバサは何かを勘違いしているようだ。

「ショウ先輩のフレンドリスト見せてくださいっ!」

 ツバサがショウのフレンドリストを気にし始めた。自分の文字『ツバサ』が何色で表示がされているのかを気にしているようだ。

 自分の名前も白文字になっているであろうことを期待するツバサがショウのフレンドリストを覗き込んだ。

 しかし、ショウのフレンドリストにはトウカとミサキの文字は白文字表示で、ツバサの文字が灰色文字になっているのに気が付く。

「ショウ先輩っ! なんで私は灰色文字なんですかっ! 特別じゃないんですかっ!」

 ショウのフレンドリストのツバサの文字が灰色であることが気に食わないと言い出す。

「えっと……、ツバサの文字ももうすぐ白文字になるから……」

 ショウは、苦し紛れに言い訳をした。

「それって、みんな白文字になるってことですかっ! ユウさんの名前もですかっ!」

 早く白文字になりたいツバサ。しかし、誰もが特別では特別の意味がない。他の人も白文字になるのを気にし出した。

「あれ? ユウさんの名前が無い」

 その通り。ショウのフレンドリストにはユウの名前が消えていた。ツバサはユウの名前が無いことに顔が綻び、小さくガッツポーズをした。

 そして、ツバサのフレンドリスト白文字事件を中断させるかのように料理が運ばれてきた。ショウはタイミングの良さに感謝した。あまり突っ込まれると答えようがない。

「ショウ先輩、取り分けますね」

 ツバサがお椀に海鮮鍋を取り分け始めた。始めはショウに、次にミサキ、トモ、トウカの順番だ。

「ツバサ? 相変わらず気が効くな」

「前にいたギルドで慣れていましたので」

「ツバサさんギルド入ってたんですか?」

 トウカが質問した。

「はい、入ってたんですけど……」

「やめちゃったんですか?」

 ツバサにとってあまり聞かれたくないことのようだ。その様子を見たショウが悪役を引き受けるかのように言った。

「ツバサのギルド? オレが潰した」

「え? あんたが?」

 トウカは目を見開いて驚いた。ギルドを壊滅させられて、なぜツバサはショウと一緒にいるのか理解できないようだ。

「全員PKで倒してやった。あっ、一人残したんだったかな?」

「あんた、さっきPK初めてだって言ってたじゃない?」

「ん? 言ったか?」

「言ったわよ。運営の人を倒した時に初めてだって」

「まぁ、オレは悪いヤツだからな。トウカも倒しちまうかもしれないぞ」

「そ、そんなの、有り得ないわ。あんた、そんなに悪いヤツじゃないないし……。何か事情があるに決まってるわ。隠してるでしょ?」

 鋭いトウカの質問にショウが驚いた。

「まぁ、その話ならツバサに聞きな」

「はい、今度教えますね。それより早くいただきましょっ!」

 ツバサは詳細を避けるかのように、食事をしようと言い出す。

 ショウが海鮮鍋が取り分けられてたお椀を見た。海鮮と言うだけあり、魚や海老や蟹がお椀の中に収まっていた。

「ユウさんがいたら、蟹だけ取り分けてあげるんですけどね」

「あいつ、蟹食えないだろう?」

「そうですよー。だからです」

「そんなことすると、ツバサの前にチーズが並ぶことになるぞ」

「チーズ……。要りませんっ!」

 ツバサとユウが食事をすると、いつも嫌いなものを押し付けようとするところがある。そんなこんなで、ショウ自身も二人の嫌いな物を把握している。

 食事をしながら、ショウが口を開いた。

「ミサキ? ボス攻略はいつにするんだ? 今日はもう暗いから、明日にするか?」

 ミサキは、顎に手を当て考えていた。

「悠長なことも言ってられないよ。防衛のNPCも疲弊してるはずだし、最悪、門番のNPCが倒されちゃうかもしれないし。それにショウ君とトウカちゃんを早く元の世界に戻してあげないといけないしね」

 ショウは、門番NPCがいないとサーバー移動が出来ないのを知っていた。そして、この世界に閉じ込められているトウカを一刻も早く元の世界に戻してあげないといけない。ショウ自身は元の世界に戻ることが出来ない。どちらでも良かったが、ミサキに一応心配されているようだ。

「確かにな、でも今からだと夜戦ってことになるだろう? 危険が多いんじゃないか?」

 ショウは腕を組み悩みながら言う。

「ええ、まあ、そうなるよ。ただ、フィールドは起伏のない草原地帯。そして天候は晴天で満月にしてあるよ」

「それも、運営側が用意したステージなのか?」

「まあね。作戦部の戦闘が長引く可能性もあったから、夜間戦闘も出来るように設定がしてあるのよ」

「起伏の無い草原地帯なら、敵の奇襲は確かに無さそうだな」

「ええ、欠点としては、私とトモの弓による遠距離攻撃が不自由になることよ。さすがに月が明るいと言えども、限界があるから。暗いと遠くの敵は見えないからね」

 ショウは納得した。満月の月明かりがあれば、近づくことで相手は見えるであろう。しかし、遠い敵は月明かり程度では見えにくく、弓が大して役に立たない。

「この人数なら、味方への誤射の可能性も低いから、夜戦でも大丈夫よ」

「よし、分かった。飯が終ったら戦闘だな」

 ショウは、夜戦をすることを決心した。

「でも、その前にツバサの装備を整えないといけないよな」

 ショウは、ツバサの方を向いて言った。

「えっ、私ですか?」

「今、事情があってレベル40までの装備しか出来ないからな」

「あっ、それで、この服なんですね」

 ツバサは自分の服を見て納得した。鎧などの上位レベルの装備でなく、布をベースとして基本的な装備に胸当てをしているだけあったのだ。

「でも、私は鎧とか装備しませんよ」

「確かに、いつも軽装だよな」

「斧を使ってると、身軽じゃないと隙が大きすぎるし、命中率も下がっちゃうんです」

「そうか、作戦部の装備が出来れば丁度良かったんだが、男物ばかりなんだよな」

「ショウ君? あなたの周りが女だらけなのよ」

 ミサキに指摘され、ショウはテーブルの周りを見渡した。確かに女だらけだ。

「確かにな、これってホントに着れないのか?」

「ショウ先輩? 私に男物の服を着させるってことですか?」

「まぁ、試しにと思っただけなんだけどな」

「それって、私の胸が無いって言いたいんですかっ!」

「いや、そういう訳じゃないんだけどな……。すまんな」

「すまんって、何ですか! 私が惨めになるじゃないですか! ショウ先輩の、バカぁーっ」

 ショウの不用意な発言によりツバサが怒り始めた。話しを変えようとショウはトウカの方を見て言った。

「そういえば、トウカも軽装だよな」

「あたし? あたしも動きやすい服装がいいのよ」

 トウカが自分の服装を見て、ショウに返事をした。

「胸当てくらいすればいいじゃないか? それなりに防御力が上がるぞ」

 トウカは、ツバサと違い胸当てすら付けていなかった。

「胸当てすると、胸がきつくて苦しいの。だから嫌いなの」

 ショウの隣では黙って、胸当てを外すツバサの姿があった。

「おい、ツバサどうしたんだ?」

「えっ! あの……。胸が苦しくて……」

 ショウに指摘され、顔を赤くし俯くツバサがそこにいた。ショウは、胸が苦しいんじゃなくて、言い訳が苦しいんじゃないかと思ったが言わなかった。言ったら、また怒られのは間違いない。

「じゃあ、装備は揃えなくて良さそうだな。後は回復アイテムか?」

「そうね。ショウ君達も持っておいたほうがいいよね」

 ミサキが答えた。

「とは言え、オレのアイテムボックスは作戦部の装備でいっぱいだぞ。ツバサのアイテムボックスには空きがあるのか?」

「えっ、私ですか? 私のアイテムボックスの空きも少ないですよ」

 そうだった。ツバサのアイテムボックスには未だ使われることの無い『ゴールデンアックス』が入っている。

「なんで、お前はアイテムボックスがいっぱいなんだ?」

 ショウはツバサのアイテムボックスがいっぱいになっている理由が気になり、隣にいるツバサのアイテムボックスを覗こうとした。

「ショウ先輩っ! 勝手に見ないでくださいっ!」

「でも、なんだってアイテムボックスがいっぱいなんだ?」

「えっと、その……。『ゴールデンアックス』が入ってるからです……」

「『ゴールデンアックス』って確かレベル90からの装備だろう? まだ使えないし預けとけばいいじゃないか?」

 町には銀行があり、お金やアイテムを預けることが出来る。しかし、ツバサはお守りのように常に持ち歩いている。

「ショウ先輩? 『ゴールデンアックス』のこと覚えてないんですか?」

「ん? 何のことだ?」

「もう、いいですっ!」

 ツバサは、顔をフンと横に向け、不機嫌になった。『ゴールデンアックス』はツバサにとっては重要なことのようだ。

「あたしは、多少持てるわよ」

 役に立ちたい一身でトウカが話しに割って入った。

「じゃあ、多少持ってもらうことになるな」

「分かったわ。あたしが持つわっ!」

「ショウ君? トモの職業は商人だからアイテムなら結構もてるよ」

 トモの職業は商人である。通常の職業と比べれば、数倍のアイテムを所有できる。商人の背中には大きなリュックサックが背負われている。

「ボクのアイテムをトウカさんに渡しておくよ。空いたところは補充しするから」

 トモがリュックサックからアイテムを出しトウカに渡していく。そして渡されたアイテムが、トウカのアイテムボックスに収まっていく。

「じゃあ、トモ。回復アイテムを集めておいてくれないか?」

 ショウがトモに向いて言う。

「ボク、まだご飯中だからね。後で行って来るよー」

「そうだな、食べ終わってからでいいよ」

 全員食事が終った。トモは食事を早めに切り上げ、回復アイテムを買いにレストランを後にした。集合場所はゲートの前。四人がゲートへと向かう。


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