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36話 第五章 第九節 復活の儀式

 骨董屋からの帰りは、ツバサの石造を3人で抱え宿屋に戻ることになった。運搬中ショウは、決けして重たいとは言わなかった。もしミサキに聞かれたりでもしたら、ツバサに吹き込むに決まっている。現に、ミサキはショウをずっと見ており、今か今かとその言葉を待ちわびていた。

 宿屋に着くと、早速、ツバサの復活を行うことにした。

「じゃあ、マントを掛けるぞ」

 ショウが提案すると、ミサキが口出ししてきた。

「ショウ君は前に立ってて、知らない人がいると、この子可愛そうでしょ?」

 ショウはこの言葉に覚えがあった。天空界でトモの復活のときに嵌られたのだ。しかし、今回は違った。ツバサの石造は下着姿でなく、服を着ている。


「そうか、分かった。じゃあ、ミサキがマントを掛けてくれ」

 ショウはマントをミサキに手渡し、ツバサの前に立った。

「じゃあ、掛けるわよ」

 ニヤ付くミサキがツバサの後ろからマントを掛けた。ショウは気が付くことはなかったが、明らかにミサキは悪巧みを考えている。

 すると、ツバサの身体は、石の色から生き物の色へ変化していく。それと同時に音がした。

『ゴトン、バサッ』

 ショウは思い出したのだ。自分自身全く同じ体験していた。ゴトンは斧を落とす音、バサッは服が落ちる音だ。

「あれ? ショウ先輩、どうしたんですか? どこ向いてるんですか?」

 トウカはというと、口をポカンと開け、声が出ない。

「おっ、おう。久しぶりだな……」

 そっぽを向いているショウは頭が回らず、今朝あったばかりなのに適当な返事をした。

 状況が読めないツバサは、先程の音がした方向を向く。そこには斧と服が落ちていた。やっと、ツバサは自分の置かれている状況に気付いたようだ。

「キャー! 私、服着てないっ!」

 ツバサは服が脱げた、白い下着姿になっていた。

「ショウ先輩が脱がしたんですかっ!」

 ショウは、ミサキを睨うとするも、ツバサの後ろに隠れている。視線を向けることが出来ない。

「ショウ先輩の、バカぁーっ!」

 ショウはツバサに怒られた。全てはミサキの策略によるもの。ショウ自身、何も悪くない。

 トウカが慌てて、アイテムボックスをあさりだした。レベル40以下の服が見つかったようでツバサに渡す。さっきまで着ていた服であろう。トウカから服を受け取ったツバサは素早く着替えを済ませた。

「ショウ先輩? 見ましたよね?」

「いや、何も見てない」

 顔を赤くし、目つきが鋭くなったツバサが首を横に振るショウに一歩近づく。

「ショウ先輩? 見ましたよね?」

「いや、何も見てない」

 またしても、ツバサが首を横に振るショウに一歩近づく。

「ショウ先輩? 見ましたよね?」

「いや、何も見てない」

 もう、ツバサはショウのすぐそばだ。それ以上の接近を諦めたようだ。

「ショウ先輩? 何か言うことはありませんかっ!」

「えーと、だな……」

 ショウは頭をフル回転させた。そういえば、前に同じ言葉を聞かれたことを思い出した。その時は、ツバサが少しだけ髪型を変えた時だった。『特に何もない』と言ったら怒られたのだ。正解は『似合っている』だったことに後から気が付いた。

 この状況を乗り切るためにショウは選択した言葉は。

「似合ってたぞ」

 ツバサの肩が震え始め、耳まで赤くする。

「やっぱり見たんじゃないですかっ! ショウ先輩のバカぁーっ!」

 ショウは回答を間違えたようだ。

 トウカは、ショウとツバサのやり取りをポカンと口を開けて見ていた。ミサキは腹を抱えて笑っている。

「ショウ君? 自己紹介をしましょうか?」

 笑い終ったミサキは笑い過ぎたことで浮かべた涙を拭いながらショウに言う。

「あぁ、そうだな、って、お前が余計なことするから、拗れるんだぞ」

「苦情は後よ。まずは自己紹介ね」

「あぁ、分かった」

 ショウは渋々ではあるが了承した。そして、ツバサの方に皆が注目した。

「あ、はい。ツバサです。よろしくお願いします」

 トウカもミサキも自己紹介をした。

「トウカです。よろしくお願いします」

「ミサキよ。よろしくね」

 ツバサは、先ほどのショウとのやり取りを見られていたのを思い出したかのように恥ずかしそうにしていた。

「ツバサちゃんね。ショウ君とは仲が良さそうね」

 ミサキは、新しいおもちゃに興味津々な様子だ。

「そんなこと……はぅ……」

 ツバサは、両手を頬に当てて顔を赤くした。ミサキの掴みは成功したようだ。

「おい、そんなことはいいだろう。この後、どうするんだ?」

 ショウは話題が変えたくてしょうがなかった。すると、ミサキがショウに耳打ちした。

「あの子。NPCか確認しておかないといけないでしょ?」

 ミサキにショウが答えた。

「さっきの言動は確かに、ツバサそのものだったからな、一応確認しておいたほうが良いな」

 ショウがそうミサキに言うと、ツバサの方に向き直した。

「なぁ、ツバサ、明日の予定って何かあるか?」

「ショウ先輩、いきなりどうしたんですか。明日は、一日中暇ですよ」

 ショウは、ツバサのリアルの動きを知らない。明日がリアルの世界でも休みの可能性もある。念のため次の日も確認することにした。

「明後日あさっての予定はどうなんだ?」

「明後日ですか? 明後日も予定ないですよ」

 ショウは、ツバサが連休の可能性を思い浮かべた。もう少し質問してみた。

「じゃあ、その次の日はどうだ」

「ショウ先輩、どうしたんですか? デートなら……はぅ……」

 ショウは予定を聞いただけであったが、ツバサは何かを勘違いしているようだ。ショウもツバサの様子がおかしいのに気が付き、これ以上質問するのをやめた。

「おい、ミサキ。たぶんNPCで間違いない。この時期に三連休はおかしい」

「ショウ君、あなたの質問がおかしいのよ」

 ミサキは険しい目つきでショウに言った。ショウは何がおかしいのかが分からなかった。

「あんた、あたしは夕方なら空いてるわっ!」

 トウカが乱入してきて、余計に訳が分からなくなっていた。

「おい、トウカ。ツバサがNPCなのかの、確認だぞ。何を言ってるんだ?」

「そ、そう? 何でもないわっ!」

 トウカが恥ずかしそうに、ソッポを向いた。

「そうだ、ツバサ。プレゼントの件、覚えてるか?

 ショウがプレゼントと言うと、ツバサがニコニコし始めた。

「はい。覚えてますよっ!」

 ツバサは、元気いっぱいに答えた。

「この斧は、お前が使え」

 ショウは作戦部から奪った漆黒の斧を取り出し、ツバサに手渡した。その様子をトウカがうらやましそうに覗き込む。

「わぁ、新しい斧が欲しかったんですっ!」

 ツバサは笑顔で斧を受け取った。

「ラッピングなくてすまんな」

「いえ、ショウ先輩からのプレゼントならなんでも嬉しいです」

 ツバサは斧を抱き抱え、頬ずりしていた。

「ステータス的には、たぶん最強の斧だから、前みたいに落とすなよ」

 以前、ツバサはモンスターに負けて、武器と防具を落として裸で帰還したことがあった。

「もう、あのことは言わないでくださいっ!」

 ツバサはプンスカ怒り出した。トウカは自分の知らない話をされ、面白くなさそうな顔をしている。

「それにしても、この斧、強すぎませんか? 今まで見た斧の中で一番強いですよ」

「ああ、だから落とすなよ」

 ツバサが頷いた。そしてツバサがトウカに視線を移した。

「トウカさんの『炎の剣』もショウ先輩のプレゼントなんですか?」

 ツバサがトウカに質問した。

「えっ、あの……」

 トウカは自分で選んだなんて言えないようだ。

「あぁ、こいつはさっき自分で選んできてたぞ」

 ツバサは、炎属性の剣をショウの趣味で渡したと思っていたようだが、トウカ自身が選んだと聞いた途端、顔に元気が無くなった。

「トウカさん、もしかして、ショウ先輩とお揃いを……はぅ……」

「おい、どうしたんだ。朝の指輪の時みたいな顔をしてるぞ」

 ショウは、思い出させてはいけない指輪の話をしてしまった。

「ショウ先輩っ! まだその呪いの指輪をしてるんですかっ? 不潔ですっ!」

 ツバサは今度は怒り出した。

「あぁ、まだ外れないんだよ。そうだ、ミサキ? これって運営の力で解除できないのか?」

 ショウはミサキに懇願した。

「どういうことか説明してよ」

 ミサキが理由を聞いてきた。理由によっては呪いの解除をしないような口ぶりをした。正当な理由が無ければ呪いを解かないとでも言いたいようだ。

「いや、これな。左手、薬指の指輪なんだが、いきなり付けられて困ってるんだ。しかも、呪いが掛かってるみたいで、外れないんだ」

「誰に付けられたの?」

 ショウは、ドキッとした。ここで本当のことを言ったら、ミサキに間違えなく拒否される。上手言い回しを考えていた時であった。

「ショウ先輩を誑たぶらかす、魔女ですっ!」

 早く外れるならと思ったであろうツバサが、助言を入れた。この言葉が逆効果になることをツバサはまだ知らないようだ。

「そう、魔女ねー。呪いは取れないわよー。残念でしたー」

 ミサキはまじめに答えていなかった。ショウはミサキがまじめに答えない理由に気が付いていたのでカマを掛けてみた。

「じゃあ、指輪は諦めるとして、マントの呪いは解けるのか? トウカが外れないって騒いでたぞ」

 ショウから奪ったマントをトウカは未だにしていた。

「出来るよ」

 ショウは、呆れた顔をして頼んだ。

「出来るなら頼むわ」

 ミサキは頷くと、手元にキーボードを取り出しキーをカタカタ叩き始めた。

「ショウ君、OKよ。これでマントが外せるよ」

 ミサキがニコやかに告げた。

「ちなみに、マントの呪いも指輪の呪いも一緒なんだよな」

「そうよ」

「じゃあ、指輪の呪いも……」

「却下よ」

 ショウは最後まで言葉を発する前に却下された。やっぱりマントの呪いが取れるなら、指輪の呪いも取れるのだとショウは察した。

「マント外せるなら、シャワーが浴びれるわね。あたし、マントしてからシャワーも浴びれなくて困ってたの」

「おい、トウカっ! 今のお前の装備レベルが……」

 トウカは、マントが外せることに大いに喜んでいた。ショウの忠告も耳に入っていなかった。女性にとってシャワーはとても重要なことのようであり、トウカはマントに手を掛け外した。

『ゴトン、バサッ』

 聞きなれた、音がした。ゴトンは剣を落とす音、バサッは服が落ちる音である。マントを外してレベル33扱いになったトウカは、レベル40の装備を落としたのである。

「もしかして……」

 トウカは足元を見た。剣と服が地面に落ちていた。現在、トウカはピンクの下着姿になっていた。慌てたトウカはバランスを崩し倒れた。倒れた先にいたショウを押し倒す格好になってしまった。

「おい、トウカ。大丈夫か?」

 ショウはトウカを支えようとしたが、触る場所がなかった。トウカはそのままショウの上に倒れ込んだ。

「あ、あんた……」

「お、おう、大丈夫か?」

 ショウは、また怒られるのを覚悟した。

「まぁ、事故だからね……。事故だからね……」

 顔を赤くしたトウカがしおらしくなっていた。その様子を見たツバサが慌てて、トウカを抱き起こした。

「トウカさん、ダメです。ダメですっ!」

 ショウは、何がダメなのか全然理解していなかった。しかし、危機は脱することが出来たに違いない。相変わらず、ミサキはお腹を抱えて笑っている。何かと楽しんでいるようだ。

 ショウは、起き上がりマントの埃を払いながら、ミサキに言う。

「マント外せるだけじゃ、全然意味ないな」

「そうね、楽しましてもらったけど、意味はなさそうね」

「楽しむって、どういうことだ?」

「言葉の通りよ」

 ミサキは詳細を語らなかった。

「レベル偽装ってやっぱり必要なのか?」

「ええ、必要よ。強い敵が出てきたら困っちゃうから。そうだ、この部屋だけレベル偽装を施そうか?」

 確かにその通りだとショウは思った。今朝、戦った『モンスターエッグ』に入っていたモンスターはレベル60近くのモンスターであった。そんなモンスターが町に出現するようなら、レベル40以下しかいないこの町は大混乱に陥るであろう。

「じゃあ、頼む。ミサキ」

 ミサキはまたしてもキーボードを取り出し、カタカタとキーを入力していった。

「ショウ君、これで大丈夫よ」

 ミサキは自信満々に言い放った。

「じゃあ、ミサキお前が実験台だ。マントを取ってみな、石になったとしても元に戻してやるから」

 ショウは、ミサキの言うことがもはや信じられなかった。ミサキに実験台になるように言う。

「やだぁ、ショウ君のエッチー。動けない私をもて遊ぶ気でしょ?」

 ミサキが変な言い方をする。それに反応するかのように、ショウを見るトウカとツバサの目つきが鋭くなる。

「まあ、分かった。オレが試しにマント外してみるよ。石になったら、マントを掛けてくれよ」

 ショウは仕方がないので自分で試すことにした。ミサキは最悪の場合の保険にする。

 ショウがマントに手を掛け、意を決して取り払った。

「一応、問題ないみたいだな」

 ショウは石化することはなかった。しかし、レベル偽装の工作はこの部屋内に限られている。うっかりマント無しで外に出ようものなら、たちまち石化してしまう。

「なぁ、ミサキ? レベル偽装はどのレベルにも出来るのか? 出来るなら、ツバサをレベル95に偽装して新しい斧技を覚えさせたいんだが」

 ショウはミサキに言うと、アイテムボックスから皆伝書取り出した。


  ――皆伝書――それは技やスキル、魔法などを習得できるアイテムの名称。このゲームの中でのスキルは、レベルを上げることによって覚えたり、皆伝書と呼ばれるアイテムを使うことで会得することができる。――参考文献『ファイアーウォール戦闘技術の応用と実践』より――


 ショウは、少しでも戦力アップをさせたいと思い、レベル95から覚えられる斧技である『アースブレイクの皆伝書』をミサキに差し出した。

「それは、無理よ。レベル40を超える偽装をしたら即石化よ」

 その通り。レベルを40を超えるようであれば、忽ち石化してしまう。

「でも、マントを外したオレは石化してないぞ。レベル99表示されてるってことだよな?」

「あんたっ! レベル99なのっ!」

 トウカが叫びだした。

「言わなかったか?」

「言って無いわよっ! あんた、さっきレベル60って言ってたじゃないっ!」

「あぁ、それか。剣士のレベルで聞かれたと思ってな。剣士としてだとレベル60くらいだったからな」

「ショウ先輩? 剣士をしてるんですか?」

「いろいろあってな。今度話してやるよ」

「私に秘密なんて、もぉー」

 ツバサは牛になった。

「お二人さん、いいかな?」

 ミサキが口を挟んだ。

「ショウ君は、勘違いしてるよ。マントを外したからって、レベルは40のままよ。この部屋の中にいるんだからね」

「そうだったな。マントが外せたからレベルが元に戻ってると勘違いしちまったわ」

 ショウが頭を掻きながら言う。

「そういうことだから、レベルの偽装は出来ないのよ。それにしても、ショウ君はレベル99だったのね。作戦部を全滅させるくらいだから強いと思っていたけど予想以上だったよ」

「まぁな。で、『皆伝書』を使うのは無理だってことなんだな」

 ショウが諦めの溜息を付いていると、ミサキが何かに閃いたかのように、手を叩いた。

「じゃあ、その皆伝書のレベルを偽装しちゃおうか?」

「どういうことだ?」

 すかさず、ショウが質問する。

「この皆伝書はレベル95からでしょ? だったらこの数値をレベル40にしちゃえばいいのよ」

 なるほどな、とショウは頷いた。

「じゃあ、早速頼むわ」

「分かったよ」

 ミサキが頷くと、再び手元にキーボードを呼び出し、カタカタ叩き始めた。

「これでOKよ」

 ミサキが偽装が終わったことを告げると、皆伝書がミサキの手から、ツバサの手に渡った。

「ショウ先輩? いいんですか?」

 ツバサは申し訳無さそうにショウの方を見て言った。

「良いも何も、斧技は需要が無いからな。変わり者しか貰い手がないしな」

「もう、私を変わり者扱いしないでくださいっ!」

 ツバサが怒っている横でトウカがうらやましそうに眺めていた。

「あたしにも皆伝書、ちょうだいよねっ!」

 トウカも欲しくてしょうがない様子だ。

「お前は、剣技だろ? みんな欲しがるから手元にないぞ。ツバサみたいなのが変なんだ」

 このゲームの中には剣士がたくさんいる。人気職だからだ。そのため剣技の皆伝書は需要が高く、高値で取引されている。逆に斧技は安いというより買い手が付かないゴミアイテムであった。いつかツバサが成長したときに渡そうと思っていた物をショウは保管していた。

「じゃあ、あたしも斧にするわっ!」

「おい、トウカ。やめとけ。あんな使いづらい武器、装備するもんじゃないぞ」

 斧は使いづらいことで有名だ。確かに攻撃力は最強の部類に入る。しかし、斧の取り回しからくる命中率の低さ、攻撃後の隙、前衛のはずなのにタンクとしての機能が不十分な役割だった。

「で、でも、ツバサさんは使ってるじゃないっ!」

「ああ、それなんだが未だによく分からないんだ。初めて会ったときは、剣騎士だったはずだったんだけどな」

「そうなの? そうなんですか? ツバサさんっ!」

「あっ、あの……。そうですけど……はぅ……」

 ツバサにとって斧に変えた理由は聞かれたくないことのようだ。

「ショウ先輩っ! 皆伝書使いますよ」

 これ以上追求されるのを拒むかのように、ツバサは話しを変えた。

「あぁ、使ってくれ。試し斬りとかで、オレを斬るなよ」

 ショウは冗談交じりにツバサに伝えた。

「もちろんそんなことしませんよ。他の女の子に手を出さなければですけどね。ふふふっ」

 ツバサの目が笑っていない。

「そうよ。他の子に手を出すようなら首をチョンパよっ!」

 トウカもツバサに賛同した。

「はいはい、二人共、もうおしまいよ。

 ミサキが間に入り手を叩く。斬首刑からショウは救われた気がした。

「ツバサ、さっさと皆伝書使えよ」

「はい。分かりました」

 目をキラキラさせているツバサは皆伝書を開き読み始めた。

 そして、ツバサが皆伝書を読み終わると、ツバサの身体は光に包まれて、スキル取得が完了したことを告げた。

「これでOKです」

 ツバサは、斧技クラス9――アースブレイク――を取得した。名前からして恐ろしいスキルである。直訳すると『地球ぶっ壊し』、ネーミングセンスを疑わざるをおえない強力スキルだ。

「ねぇ、あんた? あたし用のスキルは?」

 トウカが猫撫で声で訴える。しかし、無いものは無い。諦めてもらうしかない。

 そう、ショウとトウカが話しをしているとトモが帰ってきた。

「ただいまー。あれ、新しいお仲間さん? ボクにも紹介してー」

 トモがツバサの前にヒョイっと顔を出した。

「また、女の子……。もう……」

 ツバサが難しい顔でブツブツ言う。小声でショウには聞き取れていなかった。

「ボクは、トモって言います。よろしくね」

 トモはツバサの難しい顔にもお構い無しに、挨拶を始めた。

「あっ、私、ツバサです。よろしくお願いします」

「そうだ、トモ? 魔女の件は、どうだったんだ?」

 ショウがトモにユウの石造について尋たずねた。

「ボクも探してみたんだけど、無さそうなんだよ」

 トモが、困った顔で答えた。

「魔女って、ユウさんのことですか?」

 ツバサが質問する。ユウのことを知るのは、この中ではショウとツバサの二人だけだ。

「ああ、そうだ。このサーバーにいないかと思ってな」 

 ショウは、残念そうにツバサに言った。

「ユウさんって、第三サーバーでしたからね」

「今、事情があって第三サーバーの行き来が出来なくなってるんだ」

「そうなんですか」

 ツバサが、小さくガッツポーズをした。

「まぁ、この戦力でボス退治するから、ツバサ頼むわ」

「がんばりますっ!」

 ショウが、ツバサに期待すると、ツバサは嬉しそうに微笑んだ。

「作戦会議だけど、飯でも食べながらでいいか?」

 ショウが他のみんなに提案した。皆、同意する。

 一行は、マントを忘れることなく付け、部屋を出た。一階に着くと剣士の石造が置いてあるのにショウが気が付いた。

「ミサキ? レベル偽装は部屋だけでよかったな。この建物全体に施したら、こいつ動き始めてたな」

「そうね。全然考えて無かったよ。今、思えば、NPCが石造を持ってくる可能性すらあったってことね。勝手に元に戻られたら、大問題だったよ」

「ショウ先輩? 何を話してるんですか?」

「ん? また今度話してやるよ」

 事情を話してもNPCになっているツバサには理解できないと思いショウは説明をやめた。

「もぉー」

 やっぱりツバサは牛になる。


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