34話 第五章 第七節 駆け出すショウ
「トウカのやつ遅いな」
椅子に腰かけるショウが貧乏揺りをし苛立っていた。帰りの遅いトウカが心配だった。夕焼け空が映る窓を見てトウカの帰りを、今か今かと待ちわびていた。
「そんなに心配することないよ。心配なわけ? 焼けちゃうよ」
ミサキは何も心配してない様子だ。そんな時だ。窓の向こう側に凄まじい炎が上がったのをショウが目撃した。
「あいつ、ファイアーウォールを使いやがったっ!」
「ファイアーウォールって、どういうことなの? まさかトウカちゃんに何か……」
ミサキはショウの一言から、トウカがピンチであることが分かったようだ。
「ミサキ、ちょっと行って来るっ!」
ミサキの返事も聞かずに、ショウが駆け出した。一刻も早くトウカの元へ。ショウは走った。その後ろをミサキが追いかけた。
窓の外から見えた炎の場所は宿屋から近かった。ショウはすぐに現場まで到着することが出来た。そこにはしゃがみ込むトウカと、倒れている何人の盗賊の姿があった。
「おい、トウカ、大丈夫か?」
しゃがみ込んでいるトウカに声を掛けた。
「あっ……うん……」
トウカはショウの姿を見て涙を浮かべた。顔は煤で汚れ、決して可愛いと言える顔ではなかった。
「おい、怪我けがはないか?」
ショウが、トウカの目元の涙を拭った。頬の煤が、涙で伸びた。
「うわぁあーんっ」
トウカはショウの胸の中で泣いていた。ショウはトウカの頭をやさしく抱えた。
「お使いは上手くいったみたいだな」
トウカは返事が出来なかった。
もう、どれくらいの時間が過ぎたのだろう。夕焼け色であった街の風景も、夜の闇に包まれていた。トウカはというと、ショウの胸の中にいた。
「ミサキ? いつもと違って静かだな?」
「ええ、いくら私でも、こんな時に冗談なんて言わないよ」
ミサキのことだ、茶化してくるかと思ったがそうではないようだ。
「もう、大丈夫」
トウカが顔を上げた。頬の涙で濡ぬれた煤が乾き始めていた。
「どうする? 宿屋に戻るか? オレは石造を買いに行くけど」
トウカは、ショウを見て言った。
「あたしもついてく」
そう言い、トウカが立ち上がった。
「じゃあ、少し遅くなったが、石造を買いに行くぞ」
ショウが歩き出すとトウカとミサキが後ろをついてきた。
「あんたっ! お守りのこと、ちゃんと伝えなさいよっ!」
トウカが不満をショウにぶつけていた。いつものトウカに戻ったと、ショウは安心した。ただ一点違うことと言えば、トウカがショウのマントの裾を掴んで離さないことくらいだ。
「ん? ピンチの時に使えって言っただろ? バッチリだったじゃないか?」
トウカは煤で汚れた顔をムスっとさせた。