32話 第五章 第五節 トウカのお使い
トウカが魔封石を売るため露天の道具屋に到着した。すでに夕刻を過ぎ、日が傾きかけていた。
「ちょっとおじさん、もう少し高く買ってくれないかしら? これは珍しいクラス5の魔法が入った魔封石なのよっ!」
トウカは魔封石の売値の交渉を行っている。そしてトウカは貴重なクラス5の魔法が入ってる魔封石であることを懸命に訴えている。そのため、店の周りには人だかりが出来ていた。
「そうだ、そうだ。高く買ってあげないと、このお嬢ちゃんが可哀想だよ」
ギャラリーも味方する。
「そう言われても、おじさん困っちゃうんだけど……」
トウカの勢いに押されているのは店の店主だ。
「この値段じゃないなら、他の店に行っちゃうよ。いいの?」
トウカはいよいよ脅しを始めた。
「いやいや、ちょっと待ってよ。お嬢ちゃん」
そう言うと、店主がパチパチとそろばんを弾き始めた。
「えー、どうしようかなぁ。他に行っちゃおっかなぁ?」
トウカは、別の店に行くそぶりを見せ、心理戦を行う。クラス5の魔法の入った魔封石はそれほどまでに貴重であった。
「分かったよ。おじさんの負けだ。大サービスだっ!」
店主が泣きそうになりながら買い取りに応じた。トウカの勝利が確定した。
「おじさん、ありがとね」
トウカがお礼におじさんにウインクのサービスをする。次回も贔屓してくれそうだ。
「ただ、鑑定もしないといけないから、ちょっと時間を貰うよ」
店側も商売だ。偽物を掴つかまされては商売あがったり。鑑定には慎重だ。
「これは、確かにクラス5で間違いないな、次のは……」
一つひとつ確認している店主。そんな姿にトウカは腕を組み、指をピコピコ動かす。苛立ちを隠せない。
「早くしてよ、どれも同じよ。早くしないと日が暮れちゃうわ」
時刻は、もう夕方。もうすぐ日が暮れる時間になる。
「分かってるよ。急ぐけどね」
店主が答えながら鑑定を続けた。始めは全数検査をしていたが、途中から二つに一つの鑑定になり、そして三つに一つの鑑定になった。抜き取り検査に変わった。同じ魔法を込めたことで、鑑定の時間を短縮する作戦は成功したようだ。
「お嬢ちゃん、お待たせ。じゃあ、これが支払いの金額だよ」
トウカの抜群の交渉術により、目標金額を遥はるかに超える収入を得ることができた。しかし、その金額が不服なのかトウカが考え込む。
「おじさん、2つだけ売るのやめてもいい?」
トウカが店主に提案した。魔封石を2つ手元に残すようだ。
「ああ、いいけど、支払い金額を引かせてもらうよ」
「うん、構わないわ」
トウカは魔封石を2つ受け取った。それでも、目標額に十分達していた。
「じゃあこれが引いた後の支払いだよ」
トウカは麻袋に詰まったお金を受け取った。
「ありがとね、また来るね」
トウカはそう言うと店を後にした。