31話 第五章 第四節 お守り
「ただいまー」
しばらくすると、トウカとミサキが戻ってきた。手にはショッピング袋を握られている。どうやら戦利品を得たようだ。
「ああ、おかえり」
ショウは魔封石を片手に素っ気ない返事をした。
「あんた、まだやってるの?」
トウカが腰に手を当て偉えらそうな口調で言う。
「そう言うな、結構、面倒なんだぞ」
トウカは、フンっと言ってそっぽを向いた。トウカが機嫌を損ねたようだ。
「ショウ君、トウカちゃんの変化に気が付かないなんて、鈍感ね」
「へ? 何だ?」
ショウはトウカをよく見た。すると服もそうだが、剣が新しくなっていた。今までの銀色の剣ではなく、赤い剣を腰に下げていた。
「それって、『炎の剣』じゃないか? レベル足らないだろ?」
――炎の剣――それはレベル40から装備可能となる属性特化のレアアイテム。通常攻撃に炎の属性を付与する。また炎スキルの効果を高める力がある。――参考文献『ファイアーウォール武器の知識書』より――
「あたしのレベルは、マントのお陰で40なのよっ!」
トウカはムッとした表情でショウに言った。
「そうか、マントの効果を有効に使ってるんだな」
ショウは関心した。ショウ自身、マントのお陰でレベルの低い装備しか出来ない。まったく恩恵を受けることがない。しかし、レベルが低いキャラからすれば、自分のレベルより高い装備を身に付けることが出来るようだ。
「ショウ君? そういうことじゃないよ」
「ん? どういうことだ?」
「うんとね、トウカちゃんは他にも剣はあるのにレアアイテムで高価な『炎の剣』に拘わってるのよ」
すると、トウカが慌て始めた。
「言わないでよ、ミサキさんっ!」
「トウカが何を選ぼうが、いいじゃないか。トウカの趣味なんだし」
ショウが、魔封石に魔法を込めながら、興味なさそうに言った。
「あらあら、トウカちゃん残念だったわね」
「何が、残念なんだ?」
ショウがミサキに質問したが、呆れた顔をするミサキは何も言わなかった。
「魔封石は、これくらいで良いのか?」
ショウの机の上には完成した魔封石をたくさん並べられていた。勤労の成果だ。
「そうね。これだけあれば足りそうだね」
ミサキが魔封石を一つ手に取ると、取り覗きこみながら言った。
「じゃあ、売りに行くか?」
「あたしが行って来るっ!」
するとトウカが急に行くと言い出した。
「何だ? 突然、どうしたんだ?」
「いいじゃない。あたしだって手伝いくらいできるわよっ!」
トウカは先程からずいぶんと不機嫌だ。そんなトウカには何を言っても無駄なことをショウは今までの経験で理解していた。
「んなこと言ったって、大金を運ぶことになるんだから、心配じゃないか」
トウカは心配と言われ、トウカの表情が少し緩んだようにも見える。
「でも、あたしだって、何かしなきゃ……」
トウカの声は、最後の方が小さくなり元気がなくなっていた。
「トウカちゃんが行ってくれるみたいだから、素直にお願いしようよ」
ミサキがショウの説得を始めた。それを聞いたトウカは、上目遣いで懇願した。
「あぁ、分かった。じゃあ、頼むことにする」
ショウが告げると、トウカは嬉しそうな顔をした。
「さっきトモが帰って来て、魔法レベル5の相場のメモをくれたからな。よく読んどけよ」
そう言うとショウがトウカにメモを手渡す。
「一番上が相場だそうだ。二番目が希望の売値、最後が最低価格だから、下回るようなら、別の店に行けって」
ショウはメモの説明をした。トウカがふんふんと頷いている。
「それと、魔封石を盗むんじゃないぞ」
「そんなことしないわよっ!」
トウカは、盗人呼ばわりされそうなことに腹を立てた。
「分かった、分かった。大金持ち歩くことになるんだからくれぐれも気を付けろよ」
「うん、分かってるわ」
トウカは頷くと、両手に魔封石を抱えた。
「あっ、そうだ。トウカ、これを持っていけ」
ショウは巾着袋をトウカに渡そうとした。だが、トウカの両手は塞がっていて、これ以上物が持てない。
「ちょっと持てないわよ」
トウカが両手が塞がってることをアピールすると、ショウがトウカの腰に巾着袋を結び始めた。
「ちょっと、あんた何してるのよ。エッチっ!」
トウカが腰をクネクネさせながら言った。
「そう言うな、お守りみたいなものだ。何かあったら足元で割りな」
トウカは、首を傾げ何を言っているか分からない様子だ。
「よし、お遣い頼むな」
ショウが告げると、トウカはニコニコしながら部屋を出て行った。
「ショウ君も、心配性ね」
ミサキがショウに話しかけた。
「あぁ、そうだな。あいつのことだ、魔封石をいくつか自分で確保するはずだから問題ないと思うんだがな」
ショウはトウカが魔封石を盗むのを前提として話しをしている。
「そうね。最悪、魔封石を使えば、危険はないよね」
ミサキも、ショウの意見に賛同した。