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29話 第五章 第二節 仲間の捜索

 宿屋に戻るとフロントでミサキが部屋を借りようとしている。どうやら、ここに泊るらしい。

「一部屋おねがいしまーす。二人部屋で」

 ミサキがフロントスタッフにお願いする。すると、部屋に空きがあるようで、すんなりと借りることが出来た。

「あたしも、部屋を借りたいわっ! さっきキャンセル待ちの予約したのよ」

 先程、ショウと部屋を借りた時は部屋の空きの関係で相部屋となってしまった。しかし、ミサキがすんなり部屋を借りれるところを見るとキャンセルが出てるのだろう。トウカはキャンセル出ているなら、別で部屋を借りたいと思ったようだ。

「すみません、あいにく、満室でございまして」

 フロントスタッフの男性にそう言われると、トウカが肩を落とした。

「予約の意味ないじゃない!」

 トウカがフロントスタッフにいちゃもんを付けるが、無いものは無い。仕方がない。

「ちょっとっ! やっぱりあんたと一緒の部屋なの?」

 トウカ不満げな顔をしてショウに言い放つ。

「でも、満室だって言ってただろう。我慢しろよ」

 ショウがトウカに言う。部屋は空いていない。どうしようもない。

「トウカちゃん、私が代わろうか?」

 ミサキがトウカに提案した。渡りに船、こんな幸運はない。トウカの顔が明るくなった。

「えっ、ホント?」

「でも、そうすると。私がショウ君の部屋に行くことになるかなぁ?」

 ミサキは恥ずかしがらずというか、また悪巧みを考えていそうな顔でトウカに言った。その言葉を聞いたトウカが、またしても不満そうな顔になる。

「あたし……、我慢するわっ!」

 トウカがそう言う。それを見たミサキは、視線をショウに向けニヤリと笑った。

「おい、ミサキ? 何だよ、その目は?」

 ミサキからは返事は返って来なかった。

 借りることの出来た二部屋は共に2階。軋む階段を上り各々の部屋へと向かった。そして各々の部屋へと入っていった。

「あんたは、ここから入ってこないでよ」

 部屋に入ってのトウカの第一声が境界作り。ベッドとベッドの間を指差す。この勢いなら境界杭をも打ちかねない

「あぁ、分かった分かった」

 ショウが空返事で答える。そうこうしていると、ショウとトウカの部屋にミサキとトモがやってきた。

「じゃあ、この後だけど」

 そうミサキが口を開いた。

「まぁ、仲間の騎士を探す準備だったな」

「そうなるわね」

 ミサキが頷く。

「でも、このサーバーにいるって決まってる訳じゃないのよね?」

「確かに、ここに指輪を作りに来ると言ってたけど、確証はない」

 第一サーバー、はじまりの大地には指輪の名工がいる。そこにツバサは指輪を作りに行くと告げていた。

「ふーん、指輪ね」

 ミサキは、またおもちゃを探し出したかのような目でショウを見た。まだ、騎士が女キャラという話はしてないが、ミサキは鋭い勘を持っているようだ。

「指輪は忘れろ。まずは、石造を探す方法だ」

 ショウは指輪から話題を逸したかった。朝の呪いの指輪の一件を詮索されたくなかったからだ。

「探す方法って言っても、店を全部回ることくらいしか思いつかないよ?」

 ミサキが人海戦術で全ての店を探そうと提案する。しかし、すべて店頭に並んでいるとは限らない。倉庫に在庫として置かれている可能性すらある。

 するとトモが口を挟んだ。

「ボクの職業は商人だから、商人ルートを使えばすぐ分かるよ」

 ショウは感心していた。こんな時に商人のスキルに助けられるとショウは思っていなかった。

「じゃあ、トモさん。頼みたいんだけど、いいかなぁ?」

「はい、了解でーす。そうそう、ボクのことはトモでいいよー」

「分かった。トモ。お願いするよ」

 トモは、活躍できるのが嬉しかったのか、ニコニコし返事をした。

「で、騎士の情報だけど……」

 ここで女キャラであることを言うとミサキがまた暴走を始めるのではないかと懸念した。しかし、捜索の為だ。仕方なく言うことにする。

「騎士は斧を装備してるポニーテールの女の子だ」

 そうショウが言い切ると、ミサキはおもちゃを発見したかのように広角を上げた。

「分かったよー。行ってきまーすっ!」

 トモは素直だ。ミサキが何でこんなにひねくれてるんだろうと、ショウはため息を付いた。

「ねぇ、私に教えてよ。ショウ君とその女騎士とはどういう関係なの?」

 うわっという顔をショウがした。別に特別な関係ではない。やはりミサキに伝えるべきではなかったと後悔した。

「友達だ、友達だ」

「指輪が何とかって言ってなかった?」

「気のせいだ、気のせいだ」

「じゃあ、信頼できるって?」

「友達だ、友達だ」

 ショウは呆れはて、受け答えも適当になる。

「じゃあ、その子、彼女ねっ!」

 ショウは噴出した。突然のミサキの言葉にショウが動揺する。ショウの横ではトウカが元気なさそうにしている。

「ちょっと待て、どうしてそういう話になるんだ?」

「そうね。そうだったら面白そうだからだよ」

 とにかく、おもちゃを欲っするミサキにとっては面白いことなら何でも良いようだ。これではダメだと、詮索されるのを恐れたショウが話題を変えようと必死になった。

「で、戦力的にボスに勝てそうなのか? ミサキもトモも討伐メンバーって言うくらいだから物凄ものすごく強いんだろ?」

「まぁ、そんなには強くないよ。私達はシステム部だから、二人共レベル60くらいよ」

「討伐部隊って言うくらいだからもっと強いと思ってたぞ」

「作戦部は強いはずよ。レベル80くらいはあるんじゃないかな? でも、私達はシステム部だから戦闘する予定無かったし」

 確かにそうだ。作戦部がモンスターの殲滅。そしてシステム部がシステムの復旧。組織として役割を分けることは当然のことだ。

「で、ボスってやつは強いのか?」

「まぁね。ところで騎士の彼女はレベルいくつなの?」

 すでにツバサはショウの彼女扱いにされている。ショウは否定するのも面倒で受け流す。

「確か、今朝、会った時はレベル81って言ってたな」

「そう、今朝も会ってる仲なのね。お熱いこと」

 何かとミサキが茶化して始める。一方、トウカがブツブツと呟つぶやく。

「レベル81なんて、あたしじゃ、勝てないじゃない……」

「ん? トウカ、何か言ったか?」

「何でも無いわよっ! もうっ!」

 トウカが何かに怒っている。ショウはトウカの怒りの原因に気がついていない。ミサキは笑みを浮かべている。ミサキはそれなりに原因を把握しているようだ。

「それで、ボス戦はどうなんだよ」

「うーん。ギリギリだよ」

「前衛がトウカと騎士で、オレが後衛で、サポートが二人ってことだな」

「ええ、騎士の彼女が見つかったらだけど」

 ミサキは運営二人がもはや戦力に入っていないことを普通だと思っているのだろう。

「まぁ、まず騎士に関しては間違いなくいる思うが、それよりトウカが心配だ」

「どう言うことよ?」

 ミサキが不思議そうに質問した。

「トウカのレベルは33だ。さすがに敵の前で戦ってもらうのはどうかと思う」

「騎士に援護してもらえばいいよね」

「いや、攻撃も援護もやらせるのは、正直、効率が悪い。だから、オレが剣士としてトウカの援護をして、騎士には戦闘に専念してもらう。そのほうがいいだろう?」

 ミサキが不敵な笑みを浮かべ、トウカに話しかけた。

「トウカちゃん、よかったわね。ショウ君は騎士の子じゃなくて、あなたを選んでくれたみたいよ。うふふ」

「えっ……」

 トウカは顔を真っ赤にし、頭から湯気がふぁっと上げる。返事どころではない様子だ。

「で、前衛にオレが入って、後ろにトウカってことでいいな?」

「でも、別で魔法が使えるメンバーがいれば、それでもいいかもしれないけど、後衛が誰もいないよ。いいの?」

「なら、トウカを留守番させて、前衛一人、後衛一人、サポート二人にするか?」

「ちょっと、何であたしが除け者なのよっ!」

 留守番と言われたトウカはプンスカ怒り出した。

「いや、そう言われてもな」

「その騎士が良くて、あたしが良くないのは納得いかないわっ!」

 名も知らない騎士に対して敵意を向けている。

「分かった、分かった。連れてくから……」

 トウカを置いて行くのを諦めざるを得なかった。

「出来れば、トウカちゃんには近くにいてほしいってのが運営側の希望だよ。ボスを倒したら、すぐにリアルの世界に戻れるようにしたいからね」

「まあ、ミサキが言うならその作戦で行こうと思うんだけど、やっぱり魔は別でいた方がいいか?」

 ショウがユウに顔を思い浮かべながら、ミサキに質問した。

「ええ、知り合いにいるのなら、ぜひ頼みたいよ。それが女の子だったらなおさら」

 ショウは、ミサキに女の子だったらと言われピクリとなった。しかし、事態が事態なので、スルーする。

「魔法系の知り合いはいるが、たぶん第三サーバーにいるはずだ。今朝、会ったときはミスコンに出るって言ってたしな」

 ショウは性別を悟られないように魔女と言う職業は隠した。魔女と言えば女性専用職、すぐにバレてしまう。魔法系とだけ伝えることにしたのだ。しかし、余計な情報をミサキに与えてしまった。

「ショウ君は、今朝、別の女の子とも会っていたの? いやらしいわね。二股、密会。ふふふ」

 ミサキはミスコンに出ると聞いた時に、性別を把握したようだ。

「密会とかじゃねーよ。二人共、一緒にいたんだからな」

 確かにその通り。指輪を巡ってトラブルになっていた。

「ショウ君? それって修羅場? ハーレム? そこにトウカちゃんまで巻き込んで、いやらしいわ」

「そんなんじゃないぞ」

 ショウの横でトウカの顔が今度は青白くなっていた。

「で、ボスってヤツは、どんなの何だ?」

 ショウは、これ以上追求を拒むように、話しを元に戻した。

「報告を聞く限りだと、接近格闘の虫みたいなボスだね」

 ミサキは急にまじめな顔となった。

「なら、接近戦で仕留められそうだってことだな」

「そうね、最悪、ショウ君と騎士の子で何とかなるかしら」

 勝算はあるらしい、ショウはそっと胸を撫で下ろす。

 そんな話しをしていると、トモが戻ってきた。

「ただいまー、それらしい騎士が見つかったよー」

「おかえりなさい」

 ミサキが答えた。

「で、トモ? どこにあったんだ?」

 ショウが質問した。

「近所の骨董屋に並んでるって情報を聞いたから、見てきたんだよ。たぶんこの子で間違いと思うんだけど」

 トモは一枚の写真を出し、ショウに見せた。

「ああ、間違いない。石化してるが、確かにツバサだ。

 ショウの横からミサキが覗のぞき込んだ。

「なかなか、可愛い子じゃない」

 ショウは、着眼点が違うのではないのかと思ったが、指摘はしなかった。

「じゃあ、その石造、手に入れに行こうか」

 ショウが提案したのだが、トモが難しそうな顔をした。

「でも、値段が高いんだよ」

 ショウが写真を注視する。よくよく見ると、ツバサの石像に値札が掛けられていた。値札の数字を見てショウが目を丸くした。

「うげ、高っ!」

 ショウは驚いた。美術品に普段触れることの無いショウでも、美術品が高いってことは常識的に知っていた。まさにツバサの石像は美術品のような扱いを受けていたのだった。

「オレの財産叩いても買えそうに無いぞ」

 ショウがミサキを見て訴えた。

「私も、お小遣いはないよ」

 ショウに見つめられたミサキが財布を開けて逆さに振っている。中に何も無いことをアピールしている。

「運営の力で、所持金増やせないのか? 残高に0を増やして、一桁増やすみたいに」

 ミサキが腕を前に組み考えていた。

「無理ね。そんなことしたらこの世界の経済が破綻しちゃうよ」

「どういうことだよ」

 ショウがミサキに質問すると。

「あのね、偽札とか残高増やすことは理論上可能よ。なんたって私は神なんだから。でも、この世界の経済は狂っちゃうのよ。インフレとか聞いたこと無い?」

「それくらいなら聞いたことあるぞ。でも、これくらいの偽札そんなに影響しないだろう?」

「この町の流通量からすれば、小額に過ぎないかも知れないけど、もし偽物が横行したらどう? 貨幣の信用がなくなるのよ」

「信用がなくなるとどうなるんだ?」

「信用が無くなれば他国の通貨を使うことになると思わない?  自国の通貨を他国の通貨に換金する。みんなが一度に行ったら、下手をすれば自国の通貨の価値がなくなるのよ」

 ミサキの言った経済の仕組み、経済について勉強などしていないショウには分からないことだった。

「よく分からんが、偽札で悪い影響が出るのは理解した」

 ショウは、善悪の部分だけで、良くないことだと判断した。難しいことを言われても分からない。その方が懸命だと思ったからだ。

「じゃあ、どうする? バイトでするか?」

 ミサキが考えている。今度は腕を前で組むだけでなく、顎において真剣な様子だった。

「良いこと、思い付いたよっ!」

 ミサキの言う良いことがもはや信じられないショウであったが、この際聞いてみることにする。

「で、何が良いことなんだ」

「それはね。魔封石よっ!」

 魔封石とは、魔法を貯めることが出来る石のことだ。封じ込めた魔法を石を割ることで発動させるインスタントアイテム。

「おい待て、それってオレに魔法を詰めさせるってことか?」

 ショウが早い段階で理解してくれたことにミサキは驚いた顔をしていた。

「ええ、そうよ。魔法を詰めた魔封石を売るの。現在クラス4程度の魔法しか市場に出回って無いから、儲かるわよ」

 魔法にはクラスが存在する。魔法クラス1なら魔道士のレベル10に相当する。そして、魔道士のレベル20なら魔法クラス2という区分けだ。現在レベル40を超えるキャラが行動できないので、必然的にクラス4の魔法までしか存在しない。ショウのレベルは90以上、最上位であるクラス9の魔法も使える。レベルの高い魔法が高価なら商売するに越したことはなかった。

「で、どれほどの魔法を詰めればいいんだ?あまり高位の魔法は疲れるんだがな」

 ショウは少しでも楽をしたいと思い、高価になると思われる上級魔法を初めから込めるとは言わなかった。

「そうね、クラス5程度の魔法がいいんじゃないかしら?」

 ミサキのことだから、クラス9を入れろだとか、無茶なことを提案してくるかと思っていたショウは、肩透かしを食らっていた。

「で、何でクラス5なんだ? クラス6や7の方が、高値で売れるだろう?」

「そのことね。もし、そんな強力な魔法が市場に出回ったらどうなると思う?」

「どうもこうもないだろう? モンスター討伐とかの役に立つだろう?」

「まぁ、モンスター相手に使ってくれれば、問題ないよ。でも、人に使ったら、どう? 悪いNPCが王国の転覆を企てる可能性もあるのよ」

 ミサキは今度は国家転覆を指摘してきた。経済もそうだが、国家転覆まで考えているミサキを少しばかり、ショウは見直した。

「色恋ばかりのヤツだと思ってたが、少しばかり見直したぞ」

「そう? 当然よ」

 ミサキが手を腰に当てて、自慢げに言った。

「じゃあ、トモは空の魔封石を集めてきてもらえないかしら。あと、魔道士の女の子の石造も一緒に探してきてくれると助かるよ」

 ミサキはトモと話し終わると、次はショウに顔を向けた。

「ショウ君? 美人の魔道士の特徴は?」

「美人って、いきなり決め付けるなよ」

「どうせ、ショウ君が選ぶ子なんだから、美人なんでしょ?」

 美人であることは否定しない。しかし、ミサキに指摘されると腹が立つ。

「まぁ、そうだな。美人だな。黒髪ロングの魔女だ。魔道士では無く、上級職の魔女。石造になってたら分からないか。あとは装備は、レベル90以上の魔道服を着てるはずだ」

「今度は、レベル90!?」

 トウカは、隣で吠えてた。今度は勝てないとは言わなかった。

「なんだ、トウカ? 顔色が悪そうに見えるぞ」

 ショウが、トウカに話しかけた。

「何でも無いわよっ!」

 そうショウは怒られてしまった。

「トウカちゃんには、ライバルが多そうなこと」

 ミサキが意味深なことを言っていたが、ショウは無視した。

「じゃあ、魔封石に魔法を詰めるから、今ある分だけでもくれないか?」

 ショウがそう伝えると、魔封石が集まってきた。

「魔法は何にすればいいんだ?」

 ショウはミサキにアドバイスを求めた。

「いろいろな魔法を入れたほうが売値は良いかもしれないけど、鑑定に時間が掛かるよね。同じ魔法を量産した方が良いかも」

 ミサキはやはり経済に詳しいようだ。

「分かった。じゃあ炎の魔法クラス5――ファイヤーストーム――でも入れておく」

「じゃあ、それでお願いするよ」

 ミサキの承諾を得たショウは、作業に移ることにした。

「これから魔法を詰めてるから、邪魔をするんじゃないぞ」

 ショウは魔法に集中するために席を外した。

「なら、トウカちゃん? ショウ君はお仕事するみたいだから、買い物でも行きましょうよ」

 ミサキはトウカを誘って買い物に行くようだ。先程まで金策の方、むしろショウに労働をさせてる傍らミサキは浪費をしようとトウカを誘うのだ。めちゃくちゃな提案だ。

「無駄使いはするなよ」

 ショウが一応、釘を刺す。しかし、ミサキ相手には効果はないだろう。


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