2話 プロローグ 第二節 デスペナルティー
「また逃げた出したのか?」
闘技場の薄暗い通路。そこでショウは青髪のシルバーの甲冑を着た男に声を掛けられた。
「なんだ、マカラズヤかよ」
「なんだとは、なんだよ」
「あぁ、悪かったな」
ショウがぶっきらぼうな物言いをした。悪びれた様子などない。
「試合の場合、殺やられたって装備は落とさないぞ」
キャラが死亡すると、デスペナルティーで装備と所持金を落とし、経験値まで失うのがこのゲームのルールであった。しかし、試合では免除されるとマカラズヤが言うのだ。
「それは知ってる」
ショウが淡々と答える。ショウが死にたくない理由が別にあるからだ。
「そう言えば、あいつはいないのか?」
「マスターのこと? マスターはトーナメント不参加だからな」
「そうか」
「今度、またマスターと一戦やってくれよ。この間なんて指輪を外させる作戦に成功したってはしゃいでたからな」
「どういうことだよ?」
「まぁ、内緒だ」
マカラズヤが広角を上げ微笑む。
「ところでショウ、特殊ミッションは順調か?」
「あぁ、功績をみれば分かるがこんなもんだろう」
ショウがメニュー画面を開く。特殊ミッションの討伐件数が示された。第3位と。
「すげーな。特殊ミッションって、時間関係ないだろう? まさか24時間張り付いてるってことないよな」
「まさか……」
ショウは言えなかった。24時間このゲームの世界で暮らしているなどと。もう1年近くはこの暮らしを続けている。
1年ほど前の記憶の中には、ドーンと言う音。そして暗闇。まるで何かの爆発に巻き込まれた情景が記憶されていた。それが、爆弾なのか、落雷なのか、はたまた交通事故なのか。気がついたら、このファイアーウォールと呼ばれるゲームの世界の中にあったのだから。
「で、そろそろ、うちのギルドに来ないか? うちは魔道士歓迎だから」
「いや、遠慮しておく。あのギルド名を冠に付けたくないからな」
「モリゾーのことか?」
マカラズヤの所属ギルドの名前はモリゾー。誰が付けたか知らないし、由来だって分からない。ショウからすればただのカッコ悪い名前でしかない。
「いいじゃないか、一緒にモリゾーしないか?」
「いやだね」
「だったら、ギルドは別にして、協力してくれよ」
「あの怪力女も苦手だからな」
「そう邪険にするな。いいやつだぞ」
「初心者っぽい服のままで、レベル99とか頭おかしいだろ。性格悪いに決まってら」
レベルが上がるに連れて、強力な武器や防具を装備出来る。外見だけである程度のレベルを把握出来るのが当たり前。それを偽るのには、理由があるに決まってる。
「おっとそろそろ、出番かな。また連絡してこいよな」
マカラズヤがそう言うと、闘技場のリングへと向かった。