22話 第三章 第十二節 運営のちから
「へぇー、お二人さん、同じお部屋なんだねー」
ミサキがニコニコしながら茶化し始めた。
「こ、これは、たまたま、ここしか空いてなかったのよっ!」
トウカが大きな声で反論する。トウカの言うことに嘘偽りなどない。しかし、ミサキにとってはそんなことなどどうでもいいのだろう。同じ部屋で寝泊まりする。その事実だけを受け取りトウカの反論など聞いていない素振をする。一方ショウは、また始まったのかと思っただけで、特に何も言わなかった。言っても無駄だろうと。
「で、天空界の調査の件だけど」
ショウが本題に入ることにした。
「もう、本題に入るの?」
ミサキは茶化し足りないのか、不満そうな顔をする。
「そう悠長なことも言ってられないだろう? 仕事をしろ、仕事を」
ミサキにとっては仕事だ。ショウとトウカとは立場が違う。
「仕事、仕事って、言わないでよっ!」
仕事と言われ、ミサキは憤り溜息を付く。
「天空界だけど、トウカは留守番ってことだよな」
ショウはそう言い放つとトウカが口を挟んだ。
「あたしも行くわよっ!」
「いや、お前『神の称号』が無いだろう?」
「何よそれ? レベルが足りないって言いたいの?」
「いや、レベルは関係ないんだけどな」
「じゃあ、いいじゃない。連れてってよ」
初心者プレイヤーであるトウカは『神の称号』の意味も取得条件も理解していないようだ。
「なぁ、ミサキ。トウカに無理だって言ってやってくれ」
ショウは、トウカに言い聞かせるのを諦め、ミサキに助けを求めた。
「トウカちゃん、そんなに行きたいの? 連れてってあげようか?」
ショウは驚きの表情を浮かべる。ショウ自身『神の称号』を取るのにどれだけ苦労したことか。
「うん、行きたい!」
そうトウカが言うと、ミサキが頷き手元にキーボードのような物を取り出した。ミサキがキーを叩き始め、しばらくすると手が止まった。
「よし、これでOK。トウカちゃんは今から神よ」
ミサキが言葉をいい終えると同時に最後のキーを指で押す。するとトウカの体がスキル取得のエフェクトに包まれる。突然の発色にトウカがキョロキョロする。
「どういうことだ。ミサキ?」
「どうもこうも、運営の権限でトウカちゃんを神にしたのよ」
ミサキは自信を持って告げた。ショウの今までの苦労は運営のチート技によって水の泡となったの。
「さすが運営様だな」
ショウは皮肉たっぷりの言葉をミサキに言い放った。
「まぁ、これも作戦での必要事項だったから丁度いいよ」
「必要事項って?」
「始めの集合場所が天空界になっていたのも作戦の一環だったってことよ。後は機密事項よ」
ショウは、また機密事項かよ、と思ったが、それより先を聞く気にはならなかった。
「じゃあ、トウカちゃんも神になりましたので、天空界に行くよー」
ミサキは張り切って部屋を後にした。その後をショウが追う。何が起こっているのか分からない様子のトウカは呆然としていた。しかし、置いて行かれそうになっていることに気が付くと。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
トウカの言葉が虚しく部屋に響いた。