20話 第三章 第十節 レストラン
宿屋の近くまで来ると、もう太陽は上がりきり昼を過ぎていた。
「お腹空いたー」
トウカがお腹を擦りながらショウに訴えた。
このゲーム内では、食事をすることが当たり前のこととなっている。食もこの世界の楽しみの1つ。皆が食事をする。
リアルでの習慣を忘れさせないための配慮だと運営は発表しているが、職業体験の一環だとも言われている。バーチャルの世界で子どもたちが安全に料理を行い、リアルで活かす。稀まれに料理人を極めるがためにゲームをしているプレイヤーもいるそうだ。
「じゃあ、ちょっと飯でも食べていくか?」
ショウが提案すると、トウカとミサキが頷いた。
「何にするかな?」
ショウは、周りを見渡すと小洒落たレストランに目線を向けた。あそこにしようと指を差す。
「そこでいいか?」
ショウの指差す方向を見て、二人が頷く。一行は店へと足を進めた。
店に入ると、美味しそうな匂いが漂っていた。カウンター越しに、コックと思われる男が細長い白い帽子を被っている。洋食店のような感じだ。
「へい、らっしゃい」
三人は、テーブルに着き、メニューを見た。メニューは何ページにも及び何でも揃ってる。そんな印象だ。
「ねぇ、あんた? よくこういう店にくるの?」
トウカは質問した。ショウには似合わない店だったようだ。
「まぁな、なんだ気に入らなかったのか?」
「そういうわけじゃないけど……」
トウカはショウの意外な一面を垣間見たのだろう。
「じゃあ、私はこれにするよ。どうせ奢りなんでしょ?」
そう言うと、ミサキはステーキを指差している。
「トウカちゃんも奢って貰えるんだから、何でも頼んじゃいなさいよ」
ミサキがトウカを煽り立てる。
「奢りだなんていった覚えはないぞ」
ショウが反論する。
「こういう時は、男性が奢るって相場が決まってるのよ」
ミサキに言われて、ショウはさらに反論した。
「さっきもコーヒーを奢らされただけどな」
「トウカちゃんに? 小さいこと言わないの」
ミサキに小さいことと言われて、反論をやめた。反論するだけ無駄だ。そうショウが思った。そして、三人が思い思いに注文をする。
「私、ステーキね」
ミサキをスタートにショウとトウカも注文を入れた。
三人の前には料理が少しずつ集まって来ている。ショウの前にはサンドイッチ、トウカの前にはスパゲッティー、ミサキの前にはステーキが並んだ。
「やっぱり肉には、ご飯よね」
ミサキはステーキとライスを頼んだようだ。それを聞いたショウは、今度は、牛丼で安く上げてやると、心の中で誓った。
そして、食事をしているとミサキがいきなり口を開いた。
「そういえば、二人は何? 付き合ってるの?」
その言葉を聴いたトウカは、ボーとなり手に握るフォークを皿の上に落とした。
「な、なんでこんなヤツと!?」
トウカは顔を赤くして怒り出した。
「ふーん。ちょっと気になっただけよ」
ミサキはニコニコして楽しんでいるように見える。
「いや、こいつは町でたまたま見つけたゲームの中に取り残されてたバカなヤツだ」
ショウは盗賊から救ったとは言わなかった。どうせ話が拗れるだけだ。はぐらかすのが賢明だ。
「バカって何よっ! この変態っ!」
トウカはバカと言われ、怒り出した。それを見たミサキはさらに楽しんでいるように見える。
ミサキがわざと言っているのを、ショウが感づく。絶対にやばいヤツだとショウは思ったが口にはしなかった。言ったところで上手いこと往いなされるに決まっている。無駄なことはしない。
食事が終ると、会計は言うまでも無くショウが済ませることになった。
「おい、宿屋に戻るぞ」
これ以上の出費を避けたいショウは、宿屋に真っ直ぐ向かうよう二人に言った