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19話 第三章 第九節 運営との遭遇

 民家の中でショウとトウカが目にしたのは、椅子に腰掛ける金髪の女の姿。女は本を耽読しているのか、ショウとトウカに気がついてない。女の武器は壁に立て掛けられた長弓だろう。不用心にもほどがある。装備を手元に置かないところを見ると、戦闘の素人か、そもそも戦闘になるとは考えてないようだ。

「あのー」

 トウカが金髪の女に声を掛けた。その言葉に女が気が付き本をパタリと閉じた。

「あなた達が、作戦部の人たちなの?」

 女が椅子から立ち上がり口を開く。ショウとトウカが同じ黒いマントをしていることに気が付いたのだろう。

 ショウがトウカに首を向け、話しを続けるよう合図した。トウカは何を話せばいいのか打ち合わせをしておけばと後悔しいるようだ。

「あ、あたしは、普通の一般人よ。このゲームに閉じ込められてるけど……」

 トウカは、普通と一般を同時に使い、いかに普通なのかアピールした。だが、文法上はおかしいことだ。

「じゃあ、あなた達は、ゲームに取り残されたプレイヤーなの?」

「そうよっ! あなたもそうなの?」

「いえ、私は運営の人間。システムの復旧のためにこの世界に派遣されたのよ。今、他の仲間達と合流するためにここで待っているのよ」

 ショウは女の言葉から気が付いたことがあった。この女は、仲間を待っていると言った。仲間が倒され居ないことを知らないようだ。ならば報復を恐れる心配はない。そして運営の人間と名乗った以上、敵意はないと判断したショウが魔法を解除し、杖を下ろた。

「さっき言った作戦部って何のことだ?」

 ショウはPKした相手に『システム部の人間か?』と聞かれたことを思い出した。それに類似する質問が気になった。

「企業秘密があるから詳しくは話せないけど」

 女は少し考えて、話せるところを探してるようだ。

「じゃあ、簡単に説明するから。モンスターがこのファイアーウォールの世界で暴れてるの。一度、ゲームを隔離してモンスターを倒したら復旧する予定。で、モンスターを倒すのは作戦部の仕事。システムの復旧は私達システム部の人間がやるのよ」

 どうやら、ショウは運営である作戦部の人間を倒したようだ。

「ところであなた達、なんで私達と同じ『偽装マント』をしているのよ?」

 ショウは、一番聞かれたくないことを聞かれて、少し戸惑った。しかし、理由を話さなければ先に進めないと思い、打ち明ける。

「いや、これはサービス停止前にゲームの中に残ってた人をPKした時に手に入れた物だ」

 ショウがそう告げると、女の顔に焦りの表情が浮かんだことに気が付いた。

「ちょっと待って! 作戦部の人を殺っちゃったの!?」

 女は驚き、顎が外れているように見えた。

「ああ、サービス停止の前にログアウトしないと危ない気がしたからな。まさかこんな理由があるなんて、すまんな」

 ショウは、頭を掻きながら謝罪をした。

「で、作戦部の人を何人殺っちゃったのよ?」

 1人や2人、作戦部の人間がいなくとも問題は無い。そう判断したのであろう女は、今後の作戦のために戦力を把握しようと考えているようだ。

「ん? 全部で12人だった気がする。別で1人、勝手に消えた・・・・・・。合わせると13人かな」

 ショウが答えると、女が青ざめる。

「あぁ……。二部隊が壊滅なのね……。私が唯一の生き残りだなんて……」

 女は膝を折り、その場にしゃがみ込んだ。

「いや、すまんな」

 女はショウを睨んだ。

「すまん、じゃないよっ!」

 ショウは見知らぬ女に怒られた。そして、女は立ち上がると、腕組をして何かを考え始めた。

「うーん」

 女は首をかしげているが何も浮かばないようだ。そんな女にショウが話し掛ける。

「じゃあ、オレ達でモンスターを倒せばいいんじゃないか?」

 ショウは、それしかないと思い提案した。それが手っ取り早い。

「それが出来れば苦労しないのよっ!」

 女が怒り口調で答える。相当機嫌が悪そうだ。

「そんなに強い敵なのかよ? 二部隊14人も必要なくらいか?」

 ショウが疑問に思ったことを口にした。

「いえ、そんなに強いわけじゃないよ。私達運営もギリギリの戦力で攻めようとは思わないから」

 それはそうだ。ショウも攻撃三倍の法則という言葉を聞いたことがある。戦闘において攻撃側が有利になるには防御側の戦力の三倍を必要とする考え方だ。

「なら、仲間を増やせばいいじゃないか?」

 ショウが簡単なことを提案した。数が足りないのなら増やせばいいのだと。

「そうは言っても、モンスターがいる場所が第五サーバーなのよ。レベル40以下じゃないと入れないの。レベル40程度じゃ、太刀打ちできないのよ」

 ショウは疑問に思った。レベル40以下のエリアのモンスターをどうやって倒す予定だったのか。そして、PKした相手はどう考えてもレベル40以下だとは思えなかった。

「ちょっと、待て。その作戦部の奴らはみんなレベル40以下だったってことなのか?」

 ショウの質問に、女はハッとする。機密事項に触れたようだ。

「分かったわよ。ちょっと補足する。あなた達の羽織っているマントに秘密があるの」

 ショウはマントに秘密があると言われ、今までのことを思い出す。マントを装備すると服が脱げたりする現象のことだ。

「そのマント、『偽装マント』ってアイテムで、装備したプレイヤーのレベル表記が40になるのよ」

 ショウは納得した。なぜマントを装備した瞬間に服が脱げてしまったのか。それは自分のレベルが40になり、高レベル用の装備が出来なくなったからだ。そして、トウカにマントの効果が発生しなかったのは、元々レベル40以下の装備しかしていなかったから外れなかったのだと。

 ショウは一応確認のために女に尋ねた。

「そういうことか。ちなみに、レベル40を超える装備はどうなるんだ?」

「ええ、当然、装備不可能になるよ。そのために私達はレベル1の装備を作ってきたんだもの」

 ショウは装備していた大剣を思い出した。女の言う通りレベル1から装備ができるチートアイテムであった。さすが運営側の人間だ。やりたい放題出来るようだ。

「えっ、あんたの武器ってレベル1から装備できる訳? あんた嘘付いたわね」

 トウカが先程のプルトーマインでのやり取りを思い出したのであろう。あの時ショウはレベルが上がれば装備できるんじゃないか的な話ではぐらかしていた。

「そんな、チートアイテム教えれる訳ないだ」

「何で教えれないのよ。装備できるなら私に頂戴よ」

「だから教えなかったんだよ。欲しがるからな」

 あれだけの立派な大剣、ステータスを見なくとも欲しがるに決まっている。それが装備できるとなれば、なおさら欲しくなるに決まっている。

「お二人さん、いい? そのアイテムは運営の物なの。2人でやるやらないの話してもしょうがないのよ」

 2人の間に女が口を挟む。

「で、話は戻すけど。私達は第五サーバーに行ってモンスターを倒すことを目的にしていたのよ」

「じゃあ、現状レベル40を超える仲間を集めても、モンスター退治に行けないってことだな?」

「その通りだよ。そもそも、上の指示によると、レベル40を超えるキャラは行動不能にするって聞いてるから」

「ん? どういうことだ?」

「それはね、レベル40を超えるキャラもモンスターも動かないようにするための処置みたいよ。レベルの高いモンスターが行動すると脅威になるから。上がそう言ってたのよ」

 女は、運営という組織の人間である。上司の指示であろうとショウは察した。

「じゃあ、レベル40以下のキャラはどうなるんだ?」

「レベル40以下に関しては、何も聞かされていないわ。あなたたち以外はログアウト中でいないんじゃないの?」

「いや、さっきレベル40以下のキャラが普通に歩いているところを見たんだ。なぁ、トウカ?」

「へっ?」

 トウカは話しをいきなり振られて、焦っているようだ。

「ええ、さっき友達に会ったわ。でも、ログインしてる感じじゃなかったの。隣のショウと話したんだけど、あの子、NPCになってるんじゃないかって」

「えーと、この子がトウカちゃんで、あなたがショウ君でいいのかな?」

 ショウとトウカは挨拶をまだしていないことを思い出した」

「ああ、すまなかった。オレがショウで、こっちがトウカだ」

 トウカは、ちょこんと頭を下げた。

「私も、挨拶がまだだったわね。運営のシステム部のミサキよ。ミサキって呼んでよ」

 ミサキはそう言うと、話しをまた戻すことにした。

「で、さっきのお友達の件だけど。本当にNPCだったの?」

「あたしが話したんだけど、話し方とかは本人そっくりなのに、リアルの世界での生活が無い感じがしたの」

「生活感がないとは?」

 ミサキが疑問に思い聞き返した。

「その子、ケイって子なんだけど、24時間この世界にいるみたいで……。夜はこの世界で寝てるみたいなことを言っていたわ。それに明日、学校があるのに狩りに行くって言うし……」

 トウカの話しを聞き、思い当たる節があるのかミサキが考え込んでいた。

「実は、キャラのNPC化についは、以前に聞いたことがあるよ。でも実装されたとは聞いてないのよ」

 ミサキはさらに険しい顔をして考え込んだ。

「それにしても、よくあなた達、キャラがNPCになってるって気が付いたわね」

「ああ、それなんだがフレンドリストを見た時に気付いたんだ。今、現状フレンドリストには3パターンが存在するんだ」

 ショウが3パターンというとミサキが不思議そうな顔をした。今、ショウが知っているのは白文字のパターン、灰色文字のパターン、そして黒文字、消されているパターンのことだ。

「3パターンってどういうこと?」

 ミサキは少し考えていたようであるが回答にいたらず、ショウに質問した。

「一つ目は白色文字のパターンだ。ログイン中で意識がこっちにあるパターンだ」

 ショウがそう告げるとフレンドリストを開き、ミサキにフレンド申請をした。

「フレンド登録すると分かるってことね。ちょっと待ってよ」

 ミサキがフレンドリストを開き、申請を許可した。するとミサキのフレンドリストには白色文字で『ショウ』という文字が浮かび上がる

「確かに、白文字になってるみたいね。次のパターンは何なの?」

「ああ、二つ目のパターンは灰色文字のことだ。今までだと灰色文字はログアウト中、即ちキャラがこの世界にいないことを現すものだったはずだよな?」

「そうね、その通りよ」

「だが、ログアウト中のはずの灰色文字のキャラにトウカがさっき会ったんだ」

 ミサキはそんなことは無いのだと、ショウに疑いの目を向けた。

「偶然ログインしたとかの可能性は?」

「いや、それは無いはずだ。相手の目の前でフレンドリストを開いたんだからな。しかも現在ログインは規制されているはずだし」

「それも、そうね。納得したよ。で、最後のパターンは?」

 ミサキは二つ目のパターンである灰色文字について納得したようだった。

「最後のパターンだが黒文字っていうか、フレンドリストから抹消された人がいるってことだ」

「抹消された人がいるってことは、抹消されていないって人もいるってことだよね? トウカちゃんのお友達のパターンね」

 ミサキは鋭かった。ショウの口ぶりから抹消されていない人がいることにすぐに気が付いた。

「その通りだ。これはオレの推測なんだが、レベル40を超えたプレイヤーが抹消の対象に当たると思うんだ」

「理由は?」

「オレのフレンドリストにはレベル40以下は存在していなかった。だからフレンドリストが空になった。そして、低レベルと高レベル両方のフレンドがいるトウカは、高レベルのフレンドだけ消えてしまった」

 ミサキは顎に手をやり考えていた。ショウが言う抹消された人とされていない人の境に納得がいっていない様子であった。

「でも、それだとレベル40だと言いけれないよ」

「これはオレの推測に過ぎないが、レベル40を超えるプレイヤーは行動不能になるんだよな? だったらそこで線引きをするのが普通じゃないか?」

「まぁ、言いたいことは分かるよ」

「それで、行動不能になってるキャラはどういう扱いになるのかが気になる。フレンドリストから消えたってことは、キャラのデータが抹消されたのか?」

「それはないと思うよ。システムさえ復活すれば、元通りにする予定だったから。キャラのデータを消されたらみんな怒るでしょ?」

「確かに怒るな。じゃあ、次は行動不能キャラについて調査しないといけないってことだな? もしマントでレベル偽装が出来るなら戦力になるし」

「そうね。やっぱり二部隊14人で行く作戦だったのだから、それくらいの戦力は欲しいところね。それで、作戦部が落としたマントは持ってるよね?」

「ああ、持ってるとも。今、トウカと二人で使っているから残りが10枚だ」

「えっ? 私のマントを合わせても13枚で1枚足りないよ?」

「さっき言っただろう。12人は倒して、1人は消えたって」

「そんなこと、言ってたっけ?」

「言ったぞ。よく聞いといてくれ。サービス停止ギリギリの時だったんだが、魔法を当てる前に消去されたみたいに見えた。他のPKで倒した相手からは、装備が落ちたんだが、その1人だけ装備ごと消えちまった」

「まさかね、やっぱり悪いことが起きてるのかも……」

 ミサキは口ごもったのを、ショウは聞き取れていなかった。

「ん? 何か言ったか?」

「いや、何でもないよ」

「ところで、何で運営の人間はバラバラに配置されていたんだ? 固まっていたら、オレでも対処できなかったんだぞ」

「あぁ、それね。何か、作戦の阻止を狙った組織が……って、しまった!?」

 ミサキはうっかり口を滑らした。

「それも機密事項か?」

「もういいわ。この際、何でも話してあげるよっ!」

 怒り口調でミサキが言った。

「まず、一つ知っておいてほしいことがあるの。このファイアーウォールというゲームを潰したがっている組織があるのよ」

「なんだそれ、商売敵ってことか?」

「そんな単純なことじゃないよ。このファイアーウォールは、国防の要なのだから」

「国防の要? どういうことだ?」

「まぁ、公にされてないから知らないと思うけど、特別ミッションで出るモンスターは全てこの国を襲おうとするコンピューターウイルスなのよ」

「な、何? オレ達はコンピューターウイルスと戦っていたのか?」

 ショウが驚きの表情をした。

「そうよ。海外からアクセスされるデータは一度ファイアーウォールのサーバーにフィルタリングされるの。そこでウイルスが発見されると、ゲーム内にモンスターとして具現化されるって訳」

「じゃあ、まさか第五サーバーにいるってモンスターも……」

「ええ、そうよ。コンピューターウイルスよ。だから運営として討伐部隊が結成されたの」

「それで、24時間365日いつでも、ミッションがあったってことか……」

「だって、敵さん気まぐれなんだよ」

 そりゃそうだ、とショウは納得した。

「でも一般市民に戦わせなくてもいいだろう? 運営もいるんだから」

「私達も24時間討伐にいけるほど余裕は無いのよ。24時間ログインできる人がいたら見てみたいよ」

 ショウはその希少な一人なのだがあえて言うのをやめた。

「じゃあ、NPCに倒させればいいじゃないか、王国のNPC戦士ならそれなりに活躍するんじゃないか?」

「それは、それで少し問題があるの。現在の状態だと戦力の割り振りまでNPCは考えられないのよ。全軍突撃とかは出来るけど、守りがいない王国が落ちたら、それこそ大惨事になるの。だから現状、NPCは守りに集中するようにプログラムされてるのよ。それに新しいウイルスが進入した時はNPCだと心もとないのよ。やっぱり人間の頭脳で考えなきゃね」

 敵の戦力に合わせての戦力調整、そして新種のウイルスへの対応。ショウが納得する。

「で、そこに一般市民がいるんですよ! 誰かがログインしていれば討伐が成功する。ミッションの報酬をチラつかせれば、24時間休みなしに戦ってくれる便利な人たちなのよ」

 ショウも報酬目当てに、モンスターを倒しに行ったことがある。裏の事情を聞くとがっかりした。

「まぁ、ウイルス退治をさせられていたことは理解した。この後はどうする? 敵を倒しに行くか?」

「まだ、情報が足りないよ。PKを行ったって場所に行って調べてみない? 何か手がかりがあると思うよ」

 ミサキは提案するとショウは頷いた。

「分かった、じゃあ、天空界に行ってみよう。その前に宿屋に戻るかな」

「じゃあ、宿屋まで着いて行くよ。一人でいてもつまらないし」

 ミサキが着いて行くと言うのでショウは承諾する。そして、三人は宿屋に戻るため、倉庫のような場所を後にした。


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