1話 プロローグ 第一節 ショウと言う男
「さぁ、魔法クラスの準々決勝の開催です!」
闘技場の客席からは大歓声が上がる。MMORPGファイアーウォール。このゲームの名物トーナメント戦。カテゴリーは魔法。ランクはAクラス。そこに出場しているのがショウだ。黒髪に黒い魔道服、右手には炎を灯す杖を携えての登場だ。対する相手は上位ギルドの上級職の魔女。小柄な女の子と言うのが第一印象。金髪ヘアーに紫のロングドレスの女の子だ。
「BLITZ所属、職業上級職魔女、レベル99、ぷうか選手の入場です」
名前が告げられると、闘技場からは、またしても大きな完成が上がる。上位ギルドの人気は大したものだ。
「対するは、無所属、職業基本職火炎魔道士、レベル99、ショウ選手です」
ショウが紹介されると、闘技場がざわつく。そして「ブー」っと、ブーイングに変わる。ショウにとっては、慣れっ子だった。今さら何か言われるくらい何とも思わない。ブーイングの中に混ざり「ショウ様がんばって」の黄色い声が聞こえた気がしたがショウは無視をした。
「相変わらずの反応なのね」
ぷうかがショウに声をかける。どうやらこの子はショウを嫌ってはいないようだ。
「オレも、あまり表に出たくはないんだがな」
訳ありで大会などという表舞台に登場だ。ほんとは目立つことはしたくはない。
「そろそろ、うちのギルドに来たらどうですか?」
「やめとけ、ギルドの評判が下がるだけだぞ」
「そうなの? 残念」
二人の会話にレフリーが咳払いをした。そろそろ話をやめろと言わんばかりに。
「二人とも準備はよろしいですか?」
レフリーの声に反応し、二人が杖を構えた。そして、試合開始を告げるドラムがならされた。
第四レベル炎魔法――ファイアーフィールド――
ショウが呪文を唱えフィールドを火の海へと変えていく。
「火炎魔道士では、火の魔法しか使えないですよね?」
ぷうかが自分のロングドレスを掴むと裾を上げる。チラリと見える靴はガラスのように光を放った。これは氷の靴。対火炎装備だ。どうやら、ショウの攻撃などお見通しのようだった。
「私は上級職。火炎を防がれたあなたになんて負けないから」
ショウが舌打ちをする。常識を知るものなら誰でも気がつく相性の悪さ。
「それにしても、あなたはレベル40の低ランク武器に、なぜこだわるの? いくら特化と言えどもレベルにあってないよね? それより早く上級職に上がるべきだわ」
ショウの武器は炎の杖。レベル40から装備可能な特化武器。火属性としては最強かもしれないが、他に関してはからっきし。上位ランクが所持するには適さない。
「それに、左手薬指のアイテムスロットがフリーですし」
右手、左手合わせて最大10個の指輪を装備し、能力を高めることが出来る中、ショウは9個しか使っていない。装備が少ないと言うことは、それだけ性能が落ちると言うのにだ。
「そこは、付けない。冷やかされるのが嫌だからな」
「でしたら」
第八レベル水魔法――ウォーターポリボロス――
ぷうかの魔法が発動する。天から無数の水の槍が降り注ぐ。
「おっと危ない」
ショウが飛び避ける。炎の海を転がるショウは、まるで鉄板を転がるソーセージのようであった。
「自分の炎でやけどするよ?」
「まさかな、対炎対策はバッチリさ」
ショウの答えなど無視してぷうかの怒濤のラッシュ。水の槍を複数作り出すとショウの元へと走らせた。
「げっ、不味い」
第一レベル炎魔法――ファイアーボール――
ショウがファイアーボールを連発して打ち落としながら回避する。どう考えても劣性だ。そんな中ショウが叫んだ。
「降参だ」
会場からはブーイングの嵐。「また、あいつ逃げるんだな」とか「仲間を見捨ててもあいつ逃げるんだぜ」「あんなんだから無所属なんだ。どこのギルドにも入れてもらえないだよ」「不死鳥フェニックスの二つ名はこう言うことだったんだな」など、言いたい放題。
「なぜいつも、逃げるの?」
「オレは死ねないんだ」
そう、ショウは死ねない身体になっていた。キャラ死亡のデスペナルティー、ログアウト。それが出来なかった。ログアウト先の身体などないに等しい。