195話 第四章 第十三節 住宅街
「宿屋の名前を言われても分からないから。じゃあ、座標送って」
ミサキがそう言うと、耳から手を話した。フレンドリーコールが切断されたのだろう。
「トモは何だって?」
ショウがすかさずミサキに訪ねた。概ねあの少女の居場所が分かったと言う連絡だろう。ショウは早く情報をくれと言わんばかりに急かすのだった。
「えーと、今、トモから座標が送られてくるからちょっと待ってて」
「あの子の居場所が分かったってことなんだよな」
「そうよ。あっ。来た来た」
ミサキがメニュー画面を表示させた。そしてマップを選ぶ。何やらマップ上に赤色の印が点滅する。重要な場所を表すかのように。
「ここって、住宅街だったよね?」
ミサキがショウに尋ねた。ゲームの世界のことに関してはショウの方が上手だ。
「そうだな、そこの区画は民家のエリアだ。みんながアジトに使ってるところだな」
このゲームの世界には特定のアジトはない。民家を根城に活動するギルドも少なくない。そういったギルドは比較的上位にいるものたち。アジトの奪い合いの戦闘が起こったり、賭けの対象がアジトになることもあり、アジトを保持していると言うことは力の象徴でもあった。
「じゃあ、民家で誰かがあの子たちを匿ってるってこと?」
「オレに聞くな。早く行って確かめるしかないだろ」
「そんな、簡単な話じゃないよね」
ミサキが簡単ではないと言う。一方ショウは早く行きたくて仕方がない。
「とにかく行かないと」
やっと発見した手がかりに、ショウの心がかき乱された。早く少女を救いたいと。
「第一に、敵の戦力が分からないよ」
「オレが何とかする」
「力ずくで何とかしようってこと?」
「あぁ」
ショウが力ずくを否定しなかった。確かにショウの戦闘力なら負けないだろう。
「敵が、あの女の子でも?」
ショウが嫌な顔をした。そんなこと考えていなかったと言わんばかりに。
「騙されてるだけに違いない。牢屋で話をしただろう? あの子にも事情があった。村を守るために来たって言ってたじゃないか、オレが説得する」
「そんなに上手くとは限らないよ」
「じゃあ、どうしたら良いんだよ」
ショウが拳を握った。やりきれない怒りを握りつぶそうとするように。
「説得するなら、説得するで構わないよ。でも、最悪な状況になる可能性も考えておくのよ」
ミサキが苦言を言うと、向きをくるりと変え少女のいるであろう目的地に足を進めた。
「あぁ、分かった」
ショウがミサキのあとを追う。これ以上ミサキが何か言うことはなかった。ショウの考えに乗ったのだろう。