191話 第四章 第九節 トレハンのスキル
「なぁ、ミサキ? 位置情報が分かる何か方法はないのか?」
「それが、あったら苦労してないわよ」
ミサキが簡潔に答えた。めんどくさがりなミサキがわざわざゲートまで足を運んで調べているほどだ。もっと簡単に分かるのなら、ミサキだって簡単に答えを出しているだろう。
「発信器でもつけてあれば、分かるんだけどね」
「そんなアイテムがあるのか?」
ショウが耳慣れないアイテムの存在に興味を抱いた。
「運営用のアイテムだからね。一般には流通させてないよ。そんなアイテムがあったらストーカーが悪用しそうだし」
ミサキの発言に、ショウが唸る。
「そういえば、ストーカー事件ってのが昔あったな」
「それって運営で把握してる件?」
「その聞き方からすると、把握してないってことだよな?」
「ショウ君? 質問に質問で返すのはよくないよね?」
割りとミサキが怒っている。少女の捜索が上手くいってないのがいけないのだろう。それでも人に当たるのはよくない。
「まぁ、誰だとまでは言わないが、アイテムから付きまとわれたって話だ」
「アイテムって? 発信器的な?」
「いや、違う通常アイテムの事だ」
ミサキが腕を組み、考え始めた。
「通常アイテムをどうするのよ?」
「トレハンのスキルで探すってことだ」
「トレハンって、トレジャーハンターのこと? 盗賊の上級職の?」
「あぁ、当たりだ。トレハンにはアイテムを察知する上級スキルがあるんだ。それを使うとマップ上にアイテムが表示される。もし、その探したいアイテムに所有者がいれば、その人を間接的に表示させられるってことだ」
ミサキがへーっと言わんばかりに納得した。
「じゃあ、その女の子の持ち物を表示させればいいってことね」
「そういうことだ」
「あの女の子の持ち物って?」
「スリープダガーを持ってた」
「それだけ?」
「……」
ショウが言葉を詰まらせた。スリープダガーなど、誰が持っていてもおかしくない。マップに表示しようものなら、そこら中に表示されてしまうだろう。
「いや、待て。今、あの子の視界が映ってるんだよな?」
「えぇ、そうよ」
「だったら、その視界に入ったアイテムも含めて少しずつ位置を特定するなんて、どうだ?」
「それなら、いけそうね。トモに監視させて、トレジャーハンターのスキル使ってもらおうかしら」
「トモを使うのか?」
「もちろん、運営権限でスキル単体なら使うことができるけど、複数のアイテムをスキルで表示させて解析をしないといけないでしょ? だったら、本部で解析したほうが早いし」
「あぁ、分かった。それで、場所の特定にはどれくらい時間がかかるんだ?」
「そんなこと、始めてみないとわからないよ」
「そうか」
ショウが不満そうに、眉間にシワを寄せた。一刻も早く少女を助けたく苛立つ。
「なら、無くなった魔封石もトレジャーハンターのスキルで表示させればいいんじゃない?」
ミサキが思い付いたかのように、ポンと手を叩いた。
「それは、確か無理だ」
「どうしてよ」
せっかく閃いた案に口を挟まれムスッとした。
「魔封石は、どこにでも使われてる。目当ての魔封石の場所だけを特定するのは不可能だ」
「確かに」
ミサキがレストランの室内を見渡す。壁に掛けられている照明用のランプには火の魔封石が光を放ってる。厨房の蛇口には水の魔封石。いろいろな所に魔封石が使われているのを確認した。
「あと、補足すると、レアアイテムには使えない」
「どうしてよ?」
「それは、運営が規制したからだろ? レアアイテムにも反応した時代。強盗だらけになったから、運営が規制したんだよ」
「そうだったかしら?」
ショウのゲーム歴は割りと長い部類に入る。いろいろな事件や事故を見聞きしてきた経験があった。
「まずは、トモに連絡しておくよ。この作戦を伝えるためにね」
そうミサキが言うと、フレンドリーコールの回線を繋いだ。トモと打ち合わせをするために。