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188話 第四章 第六節 天使と悪魔

 お昼を向かえたレストランは大いに賑わいを見せていた。厨房からも、テーブルからも美味しい香りが沸き上がる。席は満席に近い。


「奥が空いてそうだ」


 ショウが言うと、椅子をかき分けるように進む。夜間の酔っ払いがいる時間とは違い椅子が転んでいるわけでもなく、人が寝ていることもない。比較的スムーズに奥の席にたどり着く。


「ミサキ、何にする」


 ショウが聞くと、ミサキがうなる。


「これにしようかな。それともこれも付けようかな。これも、一緒に頼もっと」


 ミサキの選ぶという概念がおかしい。どれかを選ぶのではなく、あれもこれも選ぼうとする。そんなミサキにショウが。


「おすすめ聞いてやるよ」


 このままでは、ショウの財政が破綻しかけない。ミサキのせいで、エンゲル係数がうなぎ登りなのは言うまでもない。


「お肉だったらいいよ」

「とりあえず聞いてみる」


 ミサキは相変わらず肉としか言わない。肉食恐竜の二つ名を与えるにふさわしい人材だ。おすすめ料理が肉でなければ、大暴れをしそうだ。


「今日のおすすめは?」


 ショウがウエイトレスに聞く。すると、ウエイトレスが胸に抱えたメニューをテーブルに広げ指を差す。


「サゴシのムニエルがオススメですよ。新鮮な物が上がったばかりですから」


 ウエイトレスの指を差すメニューにはサワラと書いてある。それを不思議とサゴシと呼んだ。


サワラとあるが」


 ショウでもサワラくらい読める。どうやらウエイトレスが間違えたようだ。


サワラは出世魚なので、今日はそれより小さなサイズのサゴシを出してます。違う魚を代用する時は、正しく言わないと怒られますから」


 景品表示法と言うものが、この世界に適応されるかは知らないが、正しく伝えなければ詐欺に当たるのはどこの世界でも同じなのだろう。


「じゃあ、それをもらうか」

「ちょっと、ショウ君。それお肉じゃない」


 ミサキが不満そうに、フォークとナイフを手に持ち机をドンドン叩く。ミサキはすでに、いつ肉が来ても大丈夫なよう完全武装だ。


「あぁ、分かった。好きな物頼めよ」

「まぁ、嬉しい。じゃあ、これと、これと、これと」


 ミサキがあれもこれも頼む。まるでオススメなど無視している。せっかくのウエイトレスのオススメが台無しだ。


「オレは、オススメをもらうことにするよ」


 ショウは、ウエイトレスのオススメを受け入れた。選ぶことが苦手なショウにはちょうどいい。


「かしこまりました」


 そう言うと、ウエイトレスがメモを取り厨房へと向かう。


「早く出てこないかな」


 今度はミサキが対肉用の完全武装を解き、指に何を掛けクルクル回し始めた。とても落ち着きがない。


「それなんだよ」


 ショウがミサキの指に回る何かを指摘した。回転が早くて分かりにくいが、どうやら鍵のようだ。


「これ? ゲートの鍵」

「ゲートってさっきのやつか?」

「ええ、そうよ」


 ミサキは悪びれた顔一つせず、合鍵があると言う。


「さっき、門番には、鍵は一つしかないから無くさないようにって言ってただろ?」

「ええ、言ったよ。言葉がちょっと足らなかったよね。厳密に言えば、あなた達に渡せる鍵(・・・・・・・・・)は一つしかないから無くさないように、が正しいね」

「……」


 ショウは呆気あっけに取られ、言葉も出ない。さっきのウエイトレスが正直者の天使ならミサキは嘘つきな悪魔だ。正しい説明をしないのはよくない。


「で、何だって合鍵があるのさ」

「あの女の子の件よ」


 ようやく少女の話となった。

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