187話 第四章 第五節 南京錠
「あった、あった。これに交換しなさい」
そういうとミサキがアイテムボックスから、手のひらをゆうに越える大きな南京錠を取り出した。今、鎖が縛られている鍵とは、大いに異なり。いかにも頑丈だと言わんばかりの代物だ。
「し、しかし……」
門番が戸惑う。急なダメだしからの、鍵の交換。門番の一存で鍵を変えることなどできないだろう。
「あなた、今、鍵は持ってるの?」
「いや、俺はもっていない。城で管理されているからすぐには変えられない」
どうやら門番も鍵を携帯していないようだ。現在、ゲートは完全に閉ざされている。行き来が頻繁にないのであれば必要などないと言うことなのだろう。ゲートを通る特別な事情があるときだけ鍵を用意すればよい。携帯して鍵を無くす方が心配だ。
「そう」
そういうとミサキが今度は羊皮紙を取り出した。花押が記された重要書類のようだ。そして、書類が門番に渡る。
「これは?」
「私も、私で仕事をしないといけないから、書類と鍵を渡しておきます。上の者が確認すれば分かるでしょう。鍵はセキュリティ上、ひとつしかないので、無くさないように。では」
ミサキが門番に鍵を無くさないようにと念を押した。
「ショウ君、行くよ」
「あ、あぁ」
ショウは、突然のミサキの真面目っぷりに、目を奪われた。いつも、真面目に仕事をしてくれれば言うことなどない。
「で、どこ行くんだよ」
門から少し離れたところで話を始める。行くよ、と言われたのはいいが、どこへ行くとは言われていない。
「ご飯食べに行こうか」
そう言えば、朝から何も食べていない。このゲームは仮想世界のはずなのにお腹がすく。いくら食べても太らないということを良いことに、食事を楽しむユーザーすらいるほどだ。だが、そういったユーザーはリアルの世界でも当然のように太っている。この世界で操るキャラが太っているのは言うまでもない。
「あぁ、分かった」
「どこに行こうね?」
「なんだ、決めてなかったのか?」
「エスコートくらいしてくれないかしら」
食事の場所はショウに委ねられた。ショウが決めるのならいつものところしかない。
「いつものところでいいか?」
「えぇ、奢りなら満足よ」
そういうとミサキがスキップしながら無邪気に笑う。食事代だけで機嫌が取れるなら安いものだとショウが思う。
「食い過ぎるなよ。太るぞ」
「あら、この世界なら太らないのよ」
ああ言えばこう言う。運営であるチート級のミサキを論破するのは難しそうだ。