185話 第四章 第三節 ゲート
「とりあえずゲートに向かいましょう」
「あぁ、そうだな」
ミサキが提案するとショウも同意した。ゲートには潜った履歴が残るのだと、ミサキが言っていた。これならあの少女の手がかりに繋がるのではと考えた。二人は宿屋をあとにしゲートへと足を運ぶ。
「なぁ、やっぱり宝くじはダメか?」
宿屋に出るとすぐに例の道具屋の前を通りかかった。宝くじ一等を持っているのにも関わらず、現物化ができない。もどかしいことこの上ない。
「もう、何回言ったら分かるのよ。ショウ君は有名になると不味いのよ。そんなことばかり言ってると、宝くじ破るよ」
ミサキが未練を無くすために破るとまで言う。どうせ現物化不可能な代物だ。破り捨てられた方がいいのかもしれない。しかし、もったいない。本当にもったいない。ショウのモヤモヤが止まらない。
「あぁ、分かったよ」
ショウが空返事で答える。ショウの頭の中に浮かぶのは、どうやって現物化しようかの文字しかない。
そして、二人がしばらく歩くと草原の村に繋がるゲートに到着した。門番に守られ大きな扉。ただ、前回来た時と違うところが見受けられた。門には鎖が巻かれ封印されているかのようだ。前回ここを潜った時には当然なかった。ファイアウォールのサービスが停止した日。あの日以来、ここに来ていない。
「なんだ、あの鎖は」
ショウがいち早く気がついた。尋常ではない物々しい雰囲気。
「開かないように鍵がしてあるのかな。とりあえず私がゲートのログ拾うから、ちょっと待ってよ」
「分かった」
ミサキがゲートへと近づく、すると門番が槍を構え制止を促した。
「現在、門を開けることはできない」
ミサキは決して潜るわけではない。ただゲートを調べるだけで通過が目的ではない。ゲートの通過ログを回収しようとするだけに過ぎない。しかし、それこそ怪しい人間だろう。ゲートを通過する以外の目的で近づく人などいないからだ。
「どうして、門を開けることができないの?」
ミサキが門番に質問をした。理由を聞くくらいなら、問題はないだろう。
「現在、門と通じる村は、モンスターの襲撃により復興中となっているからだ」
「復興中だからって、鎖で開かないようにするほどのことでもないでしょ? もしかしてモンスターが入ってくるとか?」
「モンスターが入って来るからではない」
「じゃあ、モンスターじゃない何かが入って来るのかな?」
ミサキが門番にカマを掛けた。門番が嫌そうな顔をする。
「とにかく、開けることはできない。早く立ち去れ」
「難民が流れてることは知ってるよ」
「……なぜ知っている?」
獲物が掛かったと言わんばかりにミサキがほくそ笑む。
「それって、言っちゃ不味いことでしょ?」
「……」
門番が黙り込んだ。相当不味いことのようだ。
「実は私、鎖の様子を見に来た技師なの。だから状況を把握してるのよ」
「そ、そうだったのか……。それで知っていたのか……」
門番が安堵の表情を浮かべた。身内で助かったと思ったのだろう。
「早速だけど、門を調べさせてもらうから」
「鎖ではなくて?」
「鎖も当然でしょ」
ミサキが危うくボロを出すところだった。しかし、疑っている様子はない。
「では、始めますね」
ミサキが門の前に屈み込む。華奢な背中で隠してはいるがキーボードを弾く音が漏れ聞こえる。どうやらログ回収に成功している様子だ。