183話 第四章 第一節 少女の履歴
朝日が射す宿屋の部屋。まさにデジャブと言わんばかりのシーン。ただしロールバックは関係ない。
「ショウ君、朝だよ」
そこには弓の先でショウの頬を突くミサキの姿。ショウが眠りの中、不快感を示すように眉間にシワを寄せた。
「早く、起きなよ」
ミサキは笑顔のまま弓で付く。さきほどより力が強いのか、ショウの頬にさらにめり込む。
「あぁ、ミサキか? おはよう」
「のんきなものね」
ショウが頬に刺さる弓を手で退け起き上がる。今日も寝癖でアホ毛が立つ。
「この前も言っただろ? 弓で刺すなよ」
「忘れたの? 今のショウ君は爆発物なんだから」
ミサキが腰に手をやり、自分の行いを真っ当だと言うかのような態度を示した。
「なんだよ。爆発物って?」
「その指輪よ」
ミサキが指を指した方向へショウが目線を落とした。ショウの左手薬指。ツバサの作った呪いの指輪だ。
「あぁ、これのことか。だったらミサキの力で外してくれよ。簡単だろ」
「簡単だけど、簡単じゃないのよ」
「どういうことだよ」
ミサキが呆れ顔で首を振る。ないも分かってないんだと言いたいように。
「物理的に外すのは簡単。でも、恨みを買いそうだから」
「恨みってなんだよ?」
ミサキがため息を付く。答える気など更々《さらさら》ないと。
「で、ショウ君。昨日の話だけど。女の子を助ける話」
「あぁ、そうだったな。どうやって探すんだ」
「そうね」
ミサキが顎に手をやり考え始めた。
「なんだよ。考えてなかったのかよ」
「そう言う、ショウ君こそ考えてなかったの?」
ミサキの見事なオウム返しが炸裂した。考えなどないショウは痛いところを付かれぐうの音もでない。
「そういえば、昨日カメラの話してたよな」
「カメラって? 視覚情報がカメラになってるって話?」
「それそれ。あの女の子の視覚情報を取得すれば、どこにいるかが分かるんじゃないか?」
「ショウ君にしては冴えてるね。ただ、その子の視覚情報を手に入れるのは難しいかも」
「どういうことだよ? 視覚情報を取ってないってことか?」
「違うよ。全員分の視覚情報なら記録してるけど。量がたくさんありすぎてお目当ての情報が手に入りにくいってこと。リアルの世界の監視カメラだって、そう。どのカメラの情報が欲しいのかを切り分けしないと」
ショウが腕を組み考え始めた。
「そういえば、前に地下牢であの子にあったときに、視覚データとか入手しなかったのか? 履歴みたいのがあるだろ?」
ショウが以前、地下牢でのやり取りから推測した。ミサキのことだ。調べていてもおかしくない。
「ショウ君? 場所がどこだったか覚えてる?」
「覚えてるも何も、さっき言っただろ? 牢屋だって」
「そうじゃないよ。城だってことよ」
「城だからって、それがどうしたんだよ」
「うーんと。これは運営側の話になっちゃうけど。城の中でのデータは取りにくいのよ」
「取れないのか?」
「私の権限では取れないってのが正解かな。城の中はなぜか厳重なセキュリティが敷かれてて、上に伺いを建てないといけないのよ。城の中でフレンドリーコールが使えないのも、それの絡み」
ショウはフレンドリーコールが使えないことを言われ理解した。それほどまでに特殊なエリアのようだ。
「で、話は戻るが、あの子の視覚情報は得られないのか?」
「今は、城にいないはずだから取得はできるはずだけど、名前だけだと特定が大変かもね」
「そんなことないだろ? 初心者サーバー出身だとか。そうか、ゲートの通過履歴とかも調べられないのか?」
「今日のショウ君、冴えてるね。ゲートの通過履歴なら取得できるよ。Nシステムのようなものだから」
「Nシステム?」
「自動車のナンバープレートを撮影してる機械のことだよ。どこを通過したか記録するシステムのこと」
「そんなのがあるんだな」
「えぇ、通過した履歴さえわかれば、そのNPCの情報を取得できるから。そこから視覚情報も追えるはず。それより、起きたらどう? 頭ぐちゃぐちゃだよ」
ベッドに腰かけるショウが寝癖をおさえる。今日も寝癖全快だ。
「オレは、シャワー浴びてくるから、ロビーにでも行ってろよ。捜索はそれからだな」
「あら、シャワー浴びてくるなんて」
ミサキがニヤリと表情を変える。
「何が言いたいんだよ」
「何でもないよー」
何でも無いわけがない。ミサキがまた良からぬことを企んでる表情だ。そんなミサキの表情など無視してショウが浴室へと移動した。