182話 第三章 第三十二節 ツバサの悩み
「あとは、私、お嬢様に好かれちゃったみたいで……」
ツバサが難しい顔をし言葉を止めた。
「上手く行ってそうだけど、どうしたの?」
ミサキがツバサの顔色を伺うように質問する。
「このままだと式にまで行きそうで……」
「式って? もしかして結婚式?」
ミサキの質問にツバサが黙って頷いた。それほどまでに話が進んでいるようだ。
「どうしてそうなったの?」
「お嬢様って、男性恐怖症の気があるんです。それで私となら触れることができるって……」
「そりゃ、そうだろ。お前、女だもんな」
「そ、そうですよねっ!」
ショウの指摘に、ツバサが目を輝かせにこやかになる。
「それで、ミサキさんに相談があるんです」
「式の予約?」
ミサキが茶化しながら言う。
「違いますよっ! 断らないといけないのにタイミングが掴めなくて」
「断るの? せっかくの玉の輿よ。一国のお姫様からのアプローチなのに」
「断ります。でも、まだ言えてなくて……」
「あら、どうして?」
「男性の振りをして城に入ってるのに、バレたりしたら不味いと思って。でも、話は進んでっちゃうし……」
ツバサが任務を最優先に考えてる結果だろう。性別を偽って入城しているのが発覚すれば追い出されかねない。
「そういうことね。明日の襲撃さえ阻止できればお城ともお別れ。黙って去るのでいいんじゃないかなぁ?」
ミサキがあとは野となれ山となれと言わんばかりの横暴なアドバイスを送る。実にミサキらしい。
「それでいいんですか?」
ツバサが心配そうに言う。少なからず接した人たちに申し訳ない気持ちでいっぱいなのだろう。
「いざとなれば、代役立てるよ」
ミサキの広角が上がる。またよくないことを考えている様子だ。
「なんですか? 代役って?」
ツバサが首を傾げた。不思議そうな顔をして。
「ツバサちゃんの変わりに、ショウ君を代わりに献上するとか」
「それは、ダメですっ!」
ツバサが声を荒げていう。相当な不満な提案のようだ。
「なんだったオレが城に献上されなきゃいけないんだ?」
「ツバサちゃんが困ってるのよ?」
「ツバサが困ってるって言われてもな」
ショウが否定している一方でツバサが腕を組ぶつぶつ言っている。
「私の為……。でも、断って欲しいけど、私の為……」
「ツバサどうしたんだよ」
「あっ、何でもないですっ!」
ツバサが妄想の世界から黄泉帰ったようだ。
「だから、ツバサちゃんにはその髪型のまま執事をしていてほしいのよ」
「そうなんですね」
ツバサが自分のアップにされた髪をさわりながら言う。
「本番は明日だから、今日はもう終わり」
ミサキが部屋の時計を見ながら言う。もう夜も遅い時間になっていた。
「じゃあ、みんなでログアウトですね」
ツバサがみんなでログアウトを提案した。しかし、ショウはログアウトできない身だ。
「そうね。ログアウトしようか。ツバサちゃん最初にどうぞ」
ミサキがツバサに先頭を譲る。ショウのログアウトできない秘密を守るために。
「たまには、私がお見送りします。いつも先にログアウトしてるので」
「ショウ君には紳士の嗜みとしてレディーのお見送りをしてもらうから」
「でも」
「ショウ君に恥を掛かせちゃだめよ。私はすぐにログアウトするから」
ミサキがそう言うと、ログアウトのエフェクトに包まれ姿が消えた。
「じゃあ、私も失礼します。また明日も会いましょうね」
「あぁ、またな」
ショウがツバサに別れを告げる。にこやかな笑顔のツバサがログアウトのエフェクトに包まれ姿が消えた。
「また、一人か……」
宿屋の一室。にぎやかなメンバーが消えるのは寂しいものだとショウは思う。明日も同じように楽しくなればと。明日、城が攻められるのは間違いない。それまでにやることはたくさんある。明日に備えショウは床についた。