181話 第三章 第三十一節 覗き
「えーと、私はユウさんに言われて城に行ってきました」
ツバサが自分の服装を見ながら言う。執事服姿がそろそろ板に付いてきたようだ。
「その執事姿を見ればわかるよ。ところで頭のセットはどうしたの? ユウちゃんがやってくれたの?」
「ユウさんの行き着けの美容院でセットしてもらいました」
ツバサがアップにされた髪に手で触れた。
「それで、あなた達はどうやって城に入ったの?」
ミサキが聞きたいのはそこだろう。前回は偽ではあるが許可証があった。しかし今回は偽の許可証すらない。ミサキが不思議に思うのも無理はない。
「それは、ユウさんがやってくれたので私にはわかりません」
ツバサが申し訳なさそうに言う。ツバサ自身も、まさかハッタリと恫喝で城に入ってとは思いもしないだろう。
「おい、ミサキ。ユウのログを確認すれば、城へ入った方法が分かるだろ? 運営なんだから」
「ショウ君にはデリカシーて物はないのかしら? ユウちゃんだって常に監視されたくないだろうし。覗かれたりされたくないと思うよ」
ミサキのいうことも一理ある。人の行いを覗くことの出来る人間だからこその答えだろう。
「覗くって、音声がちょこっと出るだけだろ?」
「それだけじゃないよ。映像だって写し出せるから」
「映像?」
「ええ、そうよ。人の目すべてがカメラの役目をしているんだから」
「じゃあ、ユウが見ていた情景が分かるってことか?」
「それだけじゃないよ。耳はマイクになってるから集音もできるのよ」
「へぇ、そうなのか。特定の人の見た情景が映る……。じゃあ、覗くのとは少し違うんだな」
ショウが唸る。
「もしかしてガッカリした? ユウちゃんのシャワーシーンでも覗こうとしたんでしょ?」
「ミサキさん! そういうエッチなこと教えないでください!」
ツバサが話に割って入る。ミサキが言うには主観になるため自分の姿は映らないようだ。
「論より証拠。ショウ君? 昨日、ツバサちゃんシャワー浴びてたでしょ? そこの映像ログ見せてあげようか?」
「ミサキさん。私の見たところがすべて映るんですよね……。ダメです……」
ツバサが顔を赤らめた。視覚に身体の一部が写っている可能性があるのだからだろう。
「おい、ミサキ。ツバサが恥ずかしがってるだろ。やっぱり一部でも覗かれるのは良くないってことだな」
ショウが、ログの確認を容易に行うという考えを改めた。プライバシーというものが必ず存在する。
「ショウ君、良いこと教えてあげようか?」
「なんだよ、ミサキ」
この展開は、ミサキの罠である可能性が高い。しかし、ショウは話に乗ってしまった。
「もし、ツバサちゃんのシャワーのログを開示したとするじゃない? イメージしてみて」
ショウがツバサの視点をイメージし始める。
「ツバサちゃんはシャワーを浴びてます。浴室なので目の前に鏡があるでしょ?」
浴室の鏡は姿見のようになっていて長い。全身が写っていてもおかしくない。そんな情景にショウが顔を赤らめる。
「ショウ先輩! 何考えてるんですか! バカー」
ツバサが身体を手で覆う。決して見えているわけではない。ただの妄想だ。
「おい、ツバサ。別に何も考えてないからな」
「ない……って言いました?」
ツバサが自分の胸を見つめる。執事服で尚一層胸が強調されていない。
「ないって、考えてない――」
「もう、ショウ先輩のバカー!」
ショウが最後までいう前にツバサに被されてしまった。弁明する時間すらなかった。
「おい、ミサキ。余計なこと言うな」
ショウがミサキに当たる。当のミサキはお腹を抱えて笑っている。目には涙を浮かべるほど。
「ちょ、ちょっと面白過ぎて……」
「面白くねーよ」
「そういう訳よ。もし、ユウちゃんのログを探してた時に入浴シーンでも出てきたら困るでしょ? それを実際に体験してもらいました」
ミサキが今のやり取りを体験だと言いやがった。何が体験だ。たまたまそうなっただけだとうと、ショウは思った、が言わなかった。言ったところでミサキの報復が怖い。
「で、話は戻るが、城に入った方法はユウに聞くしかないってことか?」
「そうね。でも、大方予想はついてるから。メールだけは入れておくよ。確信だけは欲しいからね」
「大方って、だったら今までのやり取り要らなくないか?」
ショウは無駄死にとは言わないが、無駄怒られしなくて済んだはず。そう思うと腹に収まらない。
「ショウ君がいきなりユウちゃんのログ見るって言うからだよ」
確かにそうだ。ショウの発言からこの騒動は起きている。そういわれると辛いとショウが思った。
「で、ツバサ。他には城で何かあったか?」
ショウがツバサに話を振る。話題を変えるように。
「そうですね。あとは……」
ツバサが次の話を始めた。