17話 第三章 第七節 情報収集
ショウとトウカが町の広場まで移動した。真上まで上がった太陽は地面をジリジリと焼いている。
「やっぱり、この世界のことをもっと知らないといけないよな?」
ショウが告げるとトウカが頷く。
「トウカは、どこで情報を集めたほうがいいと思う?」
トウカは、首を傾げ考えて始めた。
「やっぱり情報といえば新聞よね?」
この世界にも新聞が存在する。新しいアイテムが出来たことや、最近の情勢など、ニュースはもっぱらファイアーウォール内についての記事だ。
「じゃあ、新聞でも買うか?」
「そうね、あたしが買ってきてあげる」
道具屋は目と鼻の先だ。広場のお客相手に商売をしている道具屋だろう。移動販売が出来る店は馬に繋がれていた。そんな道具屋にトウカが駆け出した。道具屋に着くとトウカは新聞を探した。町の道具屋はとても便利だ。リアルの世界で言えばコンビニのようなものだろう。武器、防具、アイテムなんでも揃っている。しかし、そこには普段置かれていない物があった。トウカが目にした物は石造だ。剣を携えた男性の石像のようだ。そんな石像がなぜか売られていた。しかし、トウカの目的は新聞だ。石造のことは無視し新聞を買った。
「ただいまー。新聞買ってきたよ」
「あぁ、サンキューな」
ショウはお使いのお礼を言う。そして、二人は広場の中心、噴水の脇のベンチに腰を掛け新聞を見た。ショウが新聞を持ち、トウカが覗き込む形だ。トウカの石鹸の香りにショウはドキッとした。
「それにしても、おかしいわね。今朝のゲームのサービス停止が記事になってないわよ」
一番のビックニュースのはずのサービス停止が載ってないことにトウカは気が付いた。リアルの世界で言えば朝刊で記事が無いのかもしれないが、この世界の新聞といえばリアルタイムで更新される。魔法の新聞だ。
「確かに、その通りだよな。この世界が昔から何も変わって無いかのようだ」
ショウは不思議に思いながら、新聞に目を通していった。
「こういう時って、あれよね?」
「ん? あれって何だ?」
ショウはトウカの言葉に疑問を抱いた。トウカが勿体ぶる。
「新聞の広告欄に謎が隠されてるってアレよ。前に読んだ本ではそうなってたわ」
トウカは膨よかな胸をポンと叩き自慢げに言った。
「いやぁ、まさかそんなことあるか……」
ショウは新聞の下にある広告欄に目を通した。すると、ショウが驚きの表情を浮かべた。
「黒いマントの同士よ、集合場所は、はじまりの国、民家X‐Y……」
ショウは記事の一文を読んだ。謎の黒いマントの手がかりのようだ。トウカも同じ記事に視線を移した。
「X‐Y? あたし数学苦手だから、二次関数みたいでいやな感じ」
不快な顔をしているトウカは数学が苦手のようだ。
「そういうことじゃないだろ? 民家の住所は数字のはずだ。これじゃあ、分からないぞ」
その通り。民家の住所は数字になっている。先ほどケイに貰ったメモにも住所も伝える数字であった
「あれ? ちょっと文の横見てよ」
トウカは何かに気が付いたようだ。
「ん? なんだ?」
「文の横に小さな字が書かれているわよ」
『Xはマントの防御力、Yは重さ』
「そういうことか!?」
ショウも横の文章に気が付いた。これで住所が分かる。そしてショウはマントのステータスを確認した。
「えっと、マントの防御力が10、重さが1」
「じゃあ、はじまりの国、民家10‐1ってことね?」
トウカは要約した。次に目指す場所ははじまりの国、民家10‐1だ。
「だけど、罠って可能性もあるよな?」
ショウは不安に思い口にした。マントを手に入れた状況がPKによるものである以上、報復をするための犯人探しなのかもしれなかった。そんな事情を知らないトウカは単純に答えた。
「そのマントの仲間がいるかも知れないわ。話だけでも聞きに行きましょ」
「いやぁ、このマントの仲間がいることが不味いことなんだよな」
「何それ、どういうことよ」
事情が飲み込めないトウカは不満そうな顔をした。
「分かった。説明する。このマントの入手した経緯をな」
ショウは、簡単に説明をした。ファイアーウォールが隔離される前にプレイヤーが残っていたこと、そしてPKにより強制的にログアウトさせたこと、マントがPKによる戦利品であること、一人倒しそびれたこと。
「あんた、それ本気で言ってるの? うらまれて当然じゃない」
トウカは呆れ顔で言う。
「だから罠じゃないかって疑ったんだよ」
ショウは、トウカに訴えかけたが依然として呆れた顔だ。
「で、その残りの一人ってのが、あんたを誘い出そうとしてるってこと?」
「まぁ、十中八九間違えないんじゃないか?」
「そうね、そう考えるべきよね? でも、このままじゃあ先に進めそうにないし、覗くだけでも行かない? 危なそうになったら戻ればいいじゃない?」
先ほどのダンジョンでもそうだったが、トウカは行動的だ。この行動的な性格がさっきのピンチを招いたことを既に忘れているようだ。
「まぁ、お前の言う通りだな。行ってみなきゃ分からないし、いざとなったら倒しちまうか」
ショウもまた物騒なことを言い放った。案外2人はいいコンビなのかもしれない。
「そうね、行きましょっ!」
トウカは自分の意見が通ったことに喜びを感じたのか、ウキウキと歩き出た。次の目的地、新聞に指定された民家へと向かった。