173話 第三章 第二十三節 根回し
ユウが次の店へと足を運んだ。先程の酒場で食料品の類いを一度で済ませているところを見ると。今度の店では食料以外の物を探しているのか、もしくは買い忘れがあったのか。後者の買い忘れであれば、酒類を一切買ってない事が疑わしい。
「ごめんくださいませ」
ユウが足を踏み入れたのは、武器屋であった。それも超が付くほどの高級店。店に飾られている武器類はきらびやかに光を放ち。宝石類が散りばめられた武器は、もはや宝物と言わんばかりの豪華さを備えている。
「いちげんさまはお断りしております」
若い男性店員の一言目がお断り。本来ならこの武器屋はイベント用で普段入れないお店になっている。ゲームが隔離された今でも特別扱いになっているようだ。
「城の使いで参りました」
ユウが、メイド長に渡されたサイン入りの紙を掲げ言う。城のお墨付きだと言いたいのだろう。
「そうでしたか、大変失礼いたしました。この用な若いお嬢様が見えられてのでつい」
やはり城の権力たるものは素晴らしい。それを惜しみ無く使って見せるユウには驚きだ。
「雷属性の矢をいただきたいのですが」
「雷ですか? 雷の矢なら用意ができますが」
「では、あるだけいただけますか?」
ユウがあるだけと言う。たくさん用意したいようだ。
「あるだけと言いましても、雷の矢は作らなくてはならないので時間が必要です。魔封石の矢じりに雷の魔法を練らなくてはならないのです」
魔法の矢とは魔封石を矢じりにしているようだ。魔封石にはいろいろと用途がある。町の街灯は火の魔法を込めた魔封石。蛇口から出る水道の水は、水の魔法が込められた魔封石を使っている。
「では、急いでお作りしていただきたいですわ」
「と、言われましても。魔法のレベルによって、時間が掛かりますので。どのような用途でお探しで?」
以前、ショウが魔封石に魔法を練り込んでいたのを思うと、矢にも同様のことを行わなければならない。強い魔法ならそれだけ時間がかかる。むしろレベル96のユウ自身が詰めたほうが早いかもしれない。
「攻撃力を押さえた、麻痺が有効に効くものがいいですわ。演習に使いたいので」
ユウが演習だと言う。城の兵士に訓練でもさせる気なのか。
「でしたら、スタンの魔法をいれましょう。電流値が少なく。気絶だけで済みますから。それに魔法レベルも低いので比較的多く作れます」
「では、お願いしますわ」
「納期はいつでよろしいですか? 今すぐ、と言うわけにはいきませんので」
「明日の夕方に、出来た分だけでも納品をしたいただきたいと思いますわ」
「具体的には何時でしょうか?」
「夜使いますので、日がくれる前にでもと思います」
「では、手配いたします」
ユウが朝の夜には使いたいと言う。明日の城の襲撃犯に使いたいと言うことか。
「それとですね」
ユウが別の話を切り出そうとする。
「どうされました」
「明日の夜に武器の品評会を行おうと思ってますが、準備など可能ですか?」
「ほぉ、武器の品評会ですか。それは突然に。大がかりな物はできませんが」
「えぇ、結構ですよ」
「しかし、突然に……。城の方からはそのような通達をいただいておりませんが」
「はい、水面下で動いております。根回しだとお考えください」
「根回しということは、まだ正式に決まってはないってことですね」
「はい、そうですわ。今回の武器の品評会は一般兵に催す物とお考え下さい。レベルを下げた装備でお願いしますわ。兵士一人ひとり手にとって品定めしてもらいます。数を用意してほしいですわ」
「どれくらいの数でしょう?」
その質問にユウが紙切れを取り出す。そして店員へと渡す。
「こちらがリストですわ。あと、使った武器に関しましては、全て城が買い取るとお約束しますわ」
ユウの言葉に店員の頭に疑問符が浮かぶ。品評会の武器をどう使うと言うのかと。
「明日の夜ですので、お間違えなく」
明日は城が攻められる。それはまず間違いない。そんな日に武器の品評会などを計画するユウ。何か考えがあるに違いない。