171話 第三章 第二十一節 お嬢様の好意
「お嬢様、いかがでしょうか?」
お嬢様に伺いを立てるのはツバサだ。食事は無事に終わったようでお嬢様がナプキンで口を拭う。
「まずまずですわ。お茶にしますわ。」
お嬢様が目を細める。どのお茶だと指定はしない。執事いびりのいつもの作戦だ。
「かしこまりました」
ツバサがペコリとお辞儀をした。ツバサは物怖じせずに多種多様の茶葉に向き合った。そしてその内の一つを選び出す。
「こちらの紅茶を用意させていただきます」
ツバサがそう告げると、お嬢様の目が点になる。その表情からするにツバサは正解の茶葉を引き当てたのだろう。
「あ、あなた、なぜこの紅茶を選ばれたの?」
お嬢様が不思議そうに質問をする。無理もない。多くの茶葉の中から正解を引き当てたからだ。
「お嬢様が……。その……。欲しそうにされてましたから」
ツバサは過去に同じ経験をし、事前に執事長にまで伺っていたとは言わなかった。
「執事長! 執事長!」
お嬢様が部屋にいない執事長を呼ぶ。すると、部屋の扉がノックされた。
「執事長ですか? お入り」
お嬢様が執事長の入室を許可すると、部屋の扉が開かれ白髪の執事長の姿が現れた。
「お嬢様、いかがされました?」
「あの、新人。なぜお茶の準備までできますの? さては執事長。あなたが入れ知恵したのですか?」
「滅相もありません。ツバサ君が是非ともお嬢様にお茶を入れたいと申しましたので」
「それで、あなたが銘柄を教えたと言うことですか?」
「いいえ、ツバサ君の方からダージリンでいいか、と問われたので、それでいいと言ったまでです」
執事長の言葉にお嬢様から笑みが溢れる。
「ツバサと言いましたわね。もしかして、私、初めて男の人に好意が持てそうですわ!」
お嬢様がそう言うとツバサに抱きつく。その弾みでツバサは尻餅をついた。
「きゃっ。お嬢様、やめてください」
ツバサがお嬢様を跳ね除けようとする。しかし、力は微力。一国のお嬢様に暴力はいけない。
「執事長! 私、初めて男の人に触れることが出来ましたわ」
「それはそれは。幾久しく幸多かれと祈ります」
執事長の言葉にツバサが目を見開く。
「それって、結婚情報誌に載ってた言葉と瓜二つ何ですが……」
ツバサの言葉など無視し、お嬢様は床に座るツバサに抱き顔を埋める。