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170話 第三章 第二十節 お使い失敗

 ユウが買い物リストに載っている酒を求め、店へとやって来た。酒屋は酒屋でも問屋ではない。ショウがいつも来るバー、ムネの店にユウがやって来た。なぜかユウは問屋ではなくバーを選択した。


「ごめん遊ばせ」


 ユウの後ろではウエスタンドアがキコキコ軋む。


「はい、いらっしゃい」


 お髭のバーテンのムネがグラスを磨きながら返事をした。まだ時間が早い。店は閑古鳥が鳴いている。


「メイド服を着てみえますが、お仕事中ですか?」


 ムネがメイド服姿のユウに問う。こんな格好で酒場には訪れる客などいない。


「えぇ、お城のお使いですわ」


 ユウが城の使いであることを口にした。すると、ムネがグラスを滑らせ足元に落とした。グラスは見事なまでに粉々に砕けた。


「え、えーと。失礼。の、飲み物をご用意しよう。そ、そうですね。確か高級なワインのストックが……」


 ムネは壁に並べられている様々な酒のボトルなど無視し、戸棚の中を漁り始めた。


「わたくしは接待など受けるつもりありませんわ」


 ユウの言葉にムネがピクリと反応した。図星のようだ。


「城の使いと言うものだから、失礼があってはいけないと思いまして……」


 間違いなく、贔屓をしてもらうために行動したのだろう。個人商店など個人からの依頼より大口の依頼の方がありがたいに決まっている。しかも城と来た。金払いがいいに決まっている。大口を取ったとしても貸し倒れ損失に計上しては意味がない。


「いえ、お構い無く」


 ユウがそう告げると、ポケットからメイド長にもらったメモ用紙を開く。そこには多種多様のお酒の品目が連なってる。


「ここに来るってことはお酒の納品ですか? お酒の名前が分かれば問屋に下ろすよう手配します」


 酒場に置かれている酒の種類、そして量などたかが知れてる。やはりバーテンも問屋からの注文になると言う。


「頼みたいものは……」


 ユウがメモに目を落とした。一呼吸空く。


「お水をお願いしますわ」

「水なんて名前の酒……、ありましたかな……。えっ?」


 バーテンはどんな酒の名前でも当ててやろうと意気込んでいたようだ。プロ意識と言うやつだろう。しかし、注文の品が水だと知り驚きの顔をした。


「水って……。ウォーター?」


 バーテンが流暢な発音で聞き返した。よほど信じがたい品物のようだ。


「そうですわ。お水を」

「水道から出る水じゃダメだってことですか?」


 この世界には水道が存在する。魔封石に水の魔法を積めるだけの簡単なもの。宿屋のシャワーはこれに火の魔封石を加えるだけ。温水も簡単に作れる。


「えぇ、樽で必要なので。樽でお運びいただけますか?」

「わっ、分かりました。ご用意します。水の発注は酒屋を通した方がいいですか?」

「いえ、別のところで。水だけ頼んで酒を頼まずでは、不自然ですので。そのためにここに足を運びましたから」


 ユウは初めから酒を注文する予定がないと言うのだ。だから酒屋に行かなかったと。


「他には何か?」

「食料品もお願いしたいですわ」


 食料品こそ酒の問屋では手に入らないだろう。ここは酒場だ。食事だって出る。だったら食料品のルートもあるに違いない。


「何が必要ですか?」

「品目が多いようですので」


 ユウはメイド長のもらったメモをお髭のバーテン、ムネに手渡す。


「写し書きをお願いしますわ」


 メモにはメイド長のサインがある。城に戻るのに必要になる。渡すことはできない。


「食材については分かったんですが……。このメモには酒の種類と量が記載されてますが。いいのですか?」

「お酒は必要ありませんわ」


 ユウが言いきる。


「くれぐれもお酒を運ばないように」


 ユウが念を押す。


「分かりました。明日お届けします。時間はメモの通りで?」

「えぇ、お水はお酒の指定時間でお願いしますわ」


 そう言うとユウが酒場を後にした。ユウのお使いは大失敗だ。明日の宴会に酒が届かないのが決定した。

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