169話 第三章 第十九節 デジャブ
メイド長とツバサが城の赤い絨毯の引かれた廊下を進み、お嬢様の部屋の前へと到着した。するとメイド長が扉をノックする。
「お嬢様、お連れいたしました」
「どうぞ、お入りになって」
正にデジャブだ。部屋の中にはドレスを纏った金髪縦ロールのお嬢様がいるはずだ。まったく同じことを再度繰り返している。
メイド長が扉を開ける。部屋には案の定、金髪のお嬢様が椅子に腰かけていた。本を読んでいないところを見ると多少の変化が生じているようだ。
「あら? その方かしら? 新人の執事さんとは」
「そうでございます。お嬢様」
メイド長は一歩横に動き、ツバサのお披露目をする。この光景も二度目だ。
「よろしくお願いします」
ツバサがよろしくとだけ伝えた。以前、お嬢様に名乗らなくていいと言われたことを覚えていたようだ。執事のことなどいちいち覚えないと言われるだけだからだろう。
お嬢様は椅子から立ち上がり机の上にある本を手に取りツバサに近寄った。近く寄ると、お嬢様が手に持つ本をツバサの顔元へとゆっくりと延ばし、本でツバサの顔を撫で始めた。
「なかなか、いい顔立ちですわね。気に入りましたわ」
お嬢様は気に入ったと言い終わると、本で軽くツバサの頬を叩いた。前回は本を閉じた流れからで本を手にしていることに疑問はないが、今回はわざわざ本を手に取りツバサの頬を叩いた。少し疑問は残るが、デジャブが再現された。
「ただ、作法はいかがなものですかね」
お嬢様がテストの始まりを遠まわしに伝えた。これは全くのデジャブだ。
「では、さっそく」
メイド長が口を開いた。
「お食事の準備をいたします」
「お願いしますわ」
お嬢様が告げると、メイド長が扉を開いた。そこには配膳カートを押すメイドの姿が。これも全く同じ光景だ。メイド服を着ているのはトウカだからだ。
「お嬢様、失礼します」
初めてだった前回に比べれば、幾分成長したトウカの姿が見えた。
料理の載ったカートを押すトウカもそうだ。そしてツバサも同様だ。二度目の検定。今、二人の成長した姿が試される。
「では、下がりなさい」
お嬢様の一言で、トウカは部屋を後にする。
「では、新人さん、食事にいたしますわ」
不敵な笑みを零すお嬢様。地獄の執事テストの開始が告げられた。