168話 第三章 第十八節 執事の復習
ツバサが通された部屋は執事の控え室。ロールバックする前にツバサが執事の訓練をしたのも、この部屋だ。
「早速ですが、まずはテーブルマナーからです」
執事長が教科書を手に取り、立ち位置や、料理を並べるタイミングなど講義を始める。ツバサにして見れば復習のようなもの。うんうん頷き聞き入れる。
「では、実践です」
執事長がそう言うとテーブルへと足を進める。するとツバサも素早く動き椅子を両手で引いた。
「ほう。座ってから説明しようと思ったのですが、これはこれは」
執事長が感嘆の声を漏らした。
「では、料理を」
「はい」
ツバサは迷うことなく配膳カートに向かう。その時だ。執務室の扉がノックされた。
「どうぞ、お入りください」
執事長が返事をすると、ドアが開かれた。そこにはメイド長の姿があった。
「メイド長、どうされました?」
「お嬢様が、新人の執事にお会いしたいそうです」
「またまた、今回は早いですね」
確かに前回と比べて早いお呼びだ。執事長からすれば別の執事の時のことを言っているのだろうが、それにしても早いようだ。
「どこかで新しい執事のことを聞き付けたみたいでして……。またいつものお遊びだと思います」
「仕方ありませんな。ツバサ君、お嬢様がお呼びと言うことですので」
執事長がツバサに向き直る。
「はっ、はい!」
ツバサが輪とした表情で受け答えをした。自信に満ちた表情だ。前回とは何もかも違う。ツバサはいきなりの指名にも戸惑いの表情など浮かべない。
「いい顔つきです。何も教えることはできませんでしたが、取って食われる訳ではありません。気楽にいきましょう」
「執事長、一つ質問してもいいですか?」
ツバサが一つだけ質問をしたいと言う。今さら覚える時間など無い。質問に意味があるのだろうか。
「ええ、いいでしょう」
「今日はダージリンですか?」
執事長の目が丸くなった。