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16話 第三章 第六節 宿屋

ダンジョンを抜け、町に戻ったショウとトウカ。二人は宿屋へと歩みを進める。戦闘の疲れを癒すのもそうだが、ショウにしてみれば今晩の寝床が必ず必要になる。ログアウトが叶わないトウカだって例外ではない。早めに部屋を確保しようと考えていた。

 ショウとトウカが目的の宿屋の前へと到着した。白レンガで出来た三階建ての宿屋。お世辞にも新しいとは言えない外見。入り口の緑色のドアが特徴的だ。

「ね? 結構オンボロだけど……。ここにするの?」

 トウカが古い宿屋に文句を言う。

「お前のレベルじゃ、高級な宿屋なんて敷居すらまたげないぞ」

 宿屋だってお客を選ぶ。レベルが高いお客なら資金も潤沢に持っている可能性が高い。いざとなれば装備を担保に取り上げればいい。家賃の踏み倒しだけは避けたいのが本音だ。

「あんたのレベルなら高級とはいかなくても、もう少しいいところに泊まれるでしょ?」

 トウカはショウのレベルをまだ知らない。ショウを拒否する宿屋などないだろう。何たって神の称号の保有者なのだから。

「オレならどこの宿でも取れるが、お前は無理だ。同じ部屋なら何とかなるかもしれないがな」

「……同じって……。なっ、何言ってるのよ!」

「だから、ここに来たんじゃないか」

「そ、そうだったわね」

 トウカが逃げ出すように一人で宿屋に入って行く。

「おい、待てよ」

 ショウがトウカを追うように宿屋に入った。

 宿屋の内装は木製で出来ているシンプルな物。思いの外、中は広い。ロビーではくつろぐご婦人の姿。そして奥にはカウンターが設けられている。そんなカウンターにはトウカの姿がある。先に予約しようとフロントスタッフに話し掛けているようだ。フロントスタッフの男性が申し訳なさそうな顔を浮かべているのが気になりショウが近づく。

「あいにく、ご用意出来るのが一室しかありません。こちらの部屋でよろしいですか?」

 ショウとトウカは、お互いの顔を見合わせた。

「ちょっと、あんた。変なこと考えてないでしょうね?」

 トウカがショウに噛み付く。

「いや、何もしないぞ」

「そう? 他のところにしない?」

 トウカが提案する。二人で同じ部屋などあり得ないと言うことだろう。そんなトウカにフロントスタッフが声を掛けた。

「この時間からですと、キャンセルが出るかも知れませんので、とりあえずの所、部屋を1つ押さえたらどうですか? 他の宿屋も満室でしょうに」

 フロントスタッフもお客を逃がさないように上手いことを言う。部屋が空では売り上げが立たない。ここで部屋を1つ埋められたら万歳だ。キャンセルの分まで埋める事が出来れば万歳三唱だ。

「宿屋の人も、ああ言ってるし、キャンセル待ちにしないか?」

 ショウとしてはまた別の宿屋に行くのが億劫だった。出来れば泊まるのはここで済ませたい。

「分かったわ。でも、何かしたら、ただじゃおかないわよっ!」

「分かった、分かった」

 ショウが呆れ顔で返事をする。

「じゃあ、その部屋を頼む」

 ショウがフロントスタッフの男性に告げた。すると、フロントスタッフから部屋のカギが手渡された。

「では、ごゆっくり」

 二人の部屋は二階。フロントの脇にある木製の階段を二人は登る。築何年なのか分からないほどの古い宿屋。敷板はいつ抜けてもおかしくないようにギシギシ軋んだ。

 ショウがドアの鍵を開け部屋に入る。そこにはシングルベッドが二つ並べてあり、手前のベッドにトウカがダイブした。

「あぁー、疲れたー」

 トウカは疲れた身体をベッドに転がしながら伸びをした。ショウはというと、窓側、奥のベッドに腰掛けた。ショウはトウカに背を向けて座る。とりあえずの配慮をしている。

 トウカがムクリとベッドから起き上がると浴室へと向かった。

「あんた、覗かないでよっ! 覗いたら剣で切り捨てるからねっ!」

「はい、はい」

 ショウはトウカに背を向けたまま、生返事で返した。覗きをする気などショウには毛頭ない。切り捨てられるのはゴメンだ。

 警告をいい終えたトウカが浴室へ向かう。そして、浴室のドアがパタリとしまった。

 ショウはトウカが入浴している間にアイテムの整理を始めることにした。覗きだと疑われるのは不愉快だ。何かに集中していた方が怪しまれる心配がない。

 ショウのアイテムボックスからは湯水のように武器防具が出て来た。瞬く間に、ショウの腰掛けるベッドには大量の武器や防具、マントが市場の露天商のように並んだ。

 ショウにはトウカの鼻歌と水の流れる音が聞こえて来ていたが、黙々とアイテム整理をしていた。何か不穏な動きを見せたら、トウカに切り捨てられる。それだけは避けたい。

 そして、浴室から聞こえていた水の流れる音が止やんだ。しばらくすると剣士の服を着直したトウカが蒸気を纏まとった姿で現れた。髪の毛をタオルで拭く姿は艶やかだ。

 そんなトウカがショウの元へとやってきた。ショウは振り向いて何かを言われるのも癪だと思い、トウカに背を向け続けた。ショウの視線はアイテムのみ。アイテム整理に没頭した。

 ベッドに広げられる多くの武具。トウカはその中でも何枚も並べられている黒いマントをチラチラ見だし、気にしているようだ。

「剣士って言ったらマントよね? ちょっと借りるわ」

 トウカはショウの脇からヒョイっと手を伸ばし、マントに手を掛け羽織始めた。

「おい、ちょっと待て! そのマントを装備すると服が脱げるぞ!」

 以前、ショウは天空界で下着マント姿になったのを思い出した。もしトウカがそんな姿になったら、後が怖い。急いで止めようとしたのだが、遅かった。すでにトウカはマントを羽織ってしまっていた。

「ん、何? 服が脱げるって、どういうことよ?」

 ショウの目の前にはマントを羽織ったトウカがいた。格好はというと、下着姿にはなっていなかった。服の上にマントが付けられている普通の格好だった。

「あっ、まぁ、脱げなかったんなら、まぁいいや」

 ショウは不思議そうに唸った。マントを装備すると防具が外れるのは、ショウに限ったことのようだったからだ。しかし、なぜ自分だけだったのだろうと考えていると。

「脱げなかったって、もしかして何か期待していたの、かな?」

 トウカの目が笑っていなかった。正に鬼の形相だ。トウカの顔色を見たショウは、なぜ自分だけ、防具が外れたのかを考えている余裕などなくしていた。

「いや、悪かった。忘れてくれ……」

 ショウは服が脱げることに期待などしていなかったが。言い返す事が出来なかった。勘違いとは恐ろしい。なぜ服が脱げなかったのかが気になったに過ぎない。それが勘違いで受け取られてしまったのは不運でしかない。そんな勘違いをされたショウは、ただただトウカの機嫌が元に戻ることを祈った。

「と、とにかく。町に出よう!」

「あんたねー。誤魔化そうとしてない?」

「いや、そんな事はないが……」

 ショウがタジタジになる。図星を突かれ焦りが隠せない。

「まぁ、いいわ。じゃあ、マントを外して……って、何、これ外れないじゃないっ!」

 下着姿にはならなくても、呪いのほうは健在のようだ。

「そ、そうなんだよ。オレも外せないんだ」

「ちょっとー、どういうことよ?」

「いや、よく分からないんだ」

 その通り。ショウにもよく分からない。なぜ、マントをしたショウは防具が外れたのか、トウカは外れなかったのか。そして、マントの呪いの効果はショウとトウカ、共には発生しているということも謎だった。

「そ、そのマント、似合ってるぞ。強そうにみえる……」

 ショウは、苦し紛れにトウカを煽てて、その場をやり過ごそうとする。一方トウカは満更でもない様子だ。

「ふふふ、行きましょっ!」

 ショウのほめ殺し作戦は成功したようだ。そして情報集めのため、二人は宿屋を後にし、町へと向かった。


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