163話 第三章 第十三節 入城
城の関係者エリアへの立ち入りが許可されたトウカとユウが警備室前へと差し掛かる。
「ここでアイテムボックスを置いて行って貰おう」
門兵が警備室の方を向き、そこに置けと言わんばかりに首で合図する。
「そこのロッカールームを借りれるんじゃないの?」
トウカがロッカールームを指差し言う。昨日まではトウカの指差すロッカールームに荷物を預けていたからだ。
「そこは、城の者が使うロッカールームだ。しかし、城の中を知ってるってことは、やっぱり君たちは補充のメイドなのか?」
初めて城に入るようなら間取りやルールを知らなくて当然だ。しかし、トウカがロッカールームを言い当てた。門兵が少しずつでは有るが信用してきているようだ。
「先程から言っておりますわ。わたくし達は特命で来ましたのよ」
ユウは相変わらず、真面目な顔をしながら嘘を言う。
「まぁ、俺では判断しかねる、メイド室まで案内しよう。まずはアイテムボックスを預けてからだ」
門兵が告げる。その言葉に従うようにトウカとユウはアイテムボックスを警備室の受付に預ける。引き換えのプレートが二人に渡る。
「預けましたわ」
「じゃあ、メイド室まで」
先頭を門兵が歩く。槍を入り口で預けた門兵はただのおっさんだ。兵士であろうと城の中には武器の持ち込みは禁止だ。もしもの時は壁に掛けられた様々の武器を使うしかない。しかし、それらの武器もレベル制限がかかっている。レベル40からの最上位のレベルでしか使えない武器だ。この門兵のおっさんに装備できるとは到底思えない。
そして、門兵の後ろをトウカとユウが続く。初めて来たユウは視線だけを動かし状況を掴もうとしている様だ。しかし、首を回さない。初めて来たことを悟られないようにであろう。一方トウカは初めて来た訳ではない。キョロキョロする必要もない。上手い具合に不自然さを回避されていた。
すると、兵士が一つの部屋の前で足を止めた。
「では、メイド室へ」
ユウが一歩、足を動かそうとした時だ。トウカが口を開いた。
「メイド室はここじゃないわ」
ユウが、ピクリとし動かそうとした足を止めた。兵士が罠を仕掛けたのか、それとも間違えただけであったのか。どちらにせよ、トウカの一言に救わることになった。
「そなたは、まだわたくし達を信用してなくて?」
「いや……、そういうわけではない。場所を誤っただけだ」
やはり考えにくい。日々業務をこなす城で場所を誤ることなどないだろう。
「隣の部屋だ」
門兵は隣と告げるが、いまいち信用していない顔をユウが浮かべた。
「トウカよ、隣の部屋で間違いないのだな?」
「えぇ、間違いないわ」
トウカがうなずく、間違いない。
「もう、案内は良くてよ。わたくし達でしたら、城のことは知っておりますので」
ユウが兵士に伝える。すると兵士が困った顔をする。
「しかし、だな」
「わたくし達が、城で悪さでもするとお思い? わたくし達、二人だけで何が出来るとおっしゃるのです?」
トウカとユウ二人いれば何でも出来るだろう。何ならユウ一人で十分だ。戦力で言えば、国中の兵士を敵
に回したところで勝てる。知力で言えば、国家転覆の手段を提案出来る。文武兼備の化け物だ。
「疑っているわけではない」
「じゃあ、なんだっていうのよ?」
トウカが噛みつく。
「要人だとしてら失礼だからな」
「あら? そんな要人を騙そうとするなんて、城の兵士にはあきれてしまいますわ」
ユウが鋭い目をして、兵士をにらむ。凍りついた化のように兵士の動きが止まる。まるで蛇に睨まれた蛙だ。その時だった、兵士の後ろから初老の女性の姿が見えた。
「何を騒がしくしてるのですか?」
「あっ、メイド長!」
トウカがメイド長を見るや否や、口を開いた。
「あら、こちらの可愛いメイドさんはどうされたのですか?」
メイド長が兵士に問う。
「メイド長、こちらの方は明日の懇親会の応援で来たメイドだそうです。お存じ無いんですか?」
当然、聞いていないだろう。今回はユウのハッタリでここまで来たのだ。前回のミサキの根回しが効いている状態とは違うからだ。
「聞います。この子達はわたくしの方でお預かりしますので、あなたは勤務に戻りなさい」
「では、仕事に戻りますので」
そう言うと、兵士は敬礼をし、その場を後にした。
「廊下での立ち話もなんですので、こちらのお部屋へ」
メイド長に言われるがまま、トウカとユウはメイド控え室とは別の部屋へと案内された。