162話 第三章 第十二節 ユウのハッタリ
「そこの君たち、この先は関係者以外入れないぞ」
城の門兵が槍をかざし、トウカとユウを塞き止めた。
「ユウさん、やっぱり入れないみたいだわ」
不安そうな顔を浮かべるのはトウカだ。一方、ユウの表情には代わりはない。
「わたくしに任せなさい」
ユウは、門兵へと近づく。色仕掛けでもするのだろうか。
「兵士さん、わたくし達の格好が分からなくて?」
ユウがメイド服のスカートを摘んで愛嬌を振りまいた。マントを腰に巻いているのが残念だが、それでも効果は抜群のようだ。鼻の下が伸びた兵は首をブンブンと振り抵抗を余儀なくされる。
「きょ、許可書がなければ入れない」
兵士も仕事に忠実だ。もう少し押せばハニートラップに掛かりそうではある。
「許可証ですの?」
前回、城に入って時はミサキが偽造許可書を発行していた。しかし、今回はそんな物はない。さて、どうする。
「あぁ、許可証がなければ通せん」
兵がきっぱりと告げた。当たり前だ。通行許可がなければ入ることなどままならない。
「ユウさん、やっぱりダメみたいだわ」
「大丈夫ですわ」
ユウは自身有げにトウカに言う。秘策でもあるかのようだ。
「あなた、わたくしたちの格好が分からなくて?」
「メイド服だな。ちょっと変わってはいるが」
変わっていると言うのはマントのことだろう。
「これは民族衣装ですから」
ユウが腰に巻くマントを触りながら民族衣装だと告げた。奇怪な格好の全てを民族衣装の一言で片付けようとする。
「わたくしたちは、明日の宴の手伝いを申し付けられてますのよ」
ユウが宴の手伝いだと言う。だから、と言って許可書がなければ意味がないだろう。
「なぜ、明日の宴のことを知っているのだ?」
兵の顔が強張った。たかが宴、それほどまで驚くことでもないだろう。
「宴の話は機密のはずですわね。兵が宴で手薄になる時を知られてはよろしくないはずですから」
「そうだ。外に漏れていたと言うことか?」
兵が腕組をし困った表情を浮かべた。
「いえ、漏れていませんわ。わたくし達は、あくまで補充員。そのために教えられてますのよ」
「しかし、許可書もないなんて……」
「文章に残す訳には行かないと言うことのようです。口頭でわたくしたちは呼ばれましたので」
「しかし、だな。それだけでは信用できない」
「いいですわ。宴の会場、タイムスケジュール、席次、目的、全てお話できますから」
ユウは眉一つ動かさずに自信をもって告げた。しかし、ユウがそんなこと知るはずがない。ハッタリだ。
「じゃあ、言って貰おうじゃないか」
「えぇ、いいですわ」
ユウは追い込まれているのにもかかわらず。顔色を変えない。
「トウカよ、説明なさい」
「えっ!」
ユウは追い詰められた状況で、トウカにバトンを託した。当然、トウカは困惑の表情を浮かべる。そんな打ち合わせなどなかったからだ。困り果てるトウカにユウが耳打ちをした。
「トウカよ、先日のことをよく思い出しなさい。何時から始まったのか、どこで行われたか、どんな人が来ていたのか、何をしていたのか、それだけで十分ですわ」
トウカが頷いた。先日の出来事を話せばいいだけなら大丈夫だと思ったのかもしれない。
「確か、8時くらいから始まって、場所は城の奥の大広間。誰が出ていたのかまでは分からないわ……。あっ、思い出した。おじさん、あたしに絡んできた人だわ。あなたも参加者のはずだわ」
トウカが思い出したのはヘベレケになった兵士の姿だ。本職は門兵だったようだ。
「確かに俺も参加者の一人だが……」
「これでも、信用できなくて?」
ユウがここぞとばかりに畳み掛ける。
「だがな。君たちが、その……、スパイかもしれないだろ」
「わたくしが、もしスパイなら、明日の宴を狙いますわ。そのためには宴の開催が漏れていることを城の者に言わなくてよ。それでは、城が対策されてしまいますから」
「それはそうだが……。しかし、君たちが城で暗殺を狙っている可能性もある」
「わたくしたちにそんな力があるとお思いですか、か弱き乙女ですわ」
ユウは自分達のことをか弱き乙女というのだ。大変な嘘つきだ。レベル34のトウカなら城の兵でも抑えることが出来るかもしれない。しかし、ユウはレベル96の魔道士だ。おおよそユウ一人で城の全兵力と渡り合えるほどの強さだ。
「しかし、だな」
「上に確認を取るべきかと思いますわ。あなたの一存で決めていい話ではありませんから」
ユウが困り果てる門兵に救いの手を差し伸べた。一人で決めれないのなら上司と相談しろと言うことだ。ユウは決しては引き下がらない。
「仕方がない、俺がメイド控室まで案内しよう。メイド長の判断に任せることにする」
ついに門兵が折れた。嘘、デマカセを言うユウを結果として城に招き入れてしまった。門兵としては大失態だ。しかし、トウカとユウに取っては幸いした。