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161話 第三章 第十一節 美容室

 ユウがメイド服姿で街を練り歩く。どうやらお目当てのメイド服を見つけたようだ。しかし、少し姿がおかしい。ユウはメイド姿をしてはいるが、腰にマントを巻き付けていた。これは偽装マント、レベルを偽装するために腰に巻いていた。マントをパレオの様にこしらえる。そんなユウに町中まちじゅうの視線が集まる。メイド服を珍しがる目では無い。ユウに魅了される眼差しだ。

 ユウが店の前で足を止めた。店の看板にはルーリーハイクの文字。茶色の木の外壁の店構えだ。ユウが店の戸を開け中へと入る。


「あれ、ユウちゃん、いらっしゃい」


 白髪混じりの無精髭を生やしたヤセた男がハサミを持って挨拶をした。ここは美容院だ。


「あら、まだ来てないようですわね」


 ユウは、誰かを探すように見渡した。


「お連れさんかい? まだ来てないよ。今日は髪のセットはいいのかい?」

「えぇ、わたくしは(・・・・・)よくてよ」


 ユウが断りを入れると、見慣れた二人が入ってきた。


「ここで、間違いないわね」

「そうだと思います」


 店に現れたのはトウカとツバサだ。


「二人共、ノロマですわね」


 ユウが、二人に苦言を言う。時間としては、それほど違いはない。


「もう、ユウさん。いきなり何ですか? こんなところに呼び出して」


 不満をあらわにするのはツバサだ。トウカはユウが苦手なのか、口答えしないのだ。


「話は後でしますから、着替えを済ましてもらえないかしら?」


 ユウがアイテムボックスから服を取り出す。トウカに渡ったのはメイド服。そして、ツバサに渡ったのは執事服だ。


「また、これ着るんですか!」


 やはり不満を漏らすのはツバサだ。トウカは不服そうな顔を浮けべたが、不満を口にはしなかった。


「えぇ、そうですわ。これから城の防衛に行きますから」

「でも、あたしたちは城に入れないわ。過去にタイムスリップしてるのよ。城に出入り出来る前だわ」


 トウカが口を開いた。確かにそうだ。ロールバックにより過去に戻されていた。しかも、城に出入りが許可される前に戻っていた。


「わたくしが、何とかしますわ。まずはお着替えをしなさい」


 ユウが催促する。


「でも、こんなところで……」


 トウカが恥ずかしそうにする。ごもっともだ。美容室の店の真ん中で着替えをするなど有りえない。しかも、男性店員もいる。


「ケンさん。更衣室を借りますわ」


 ユウが、男性店員に声を掛けた。すると男性店員のケンがこころよ承諾しょうだくした。


「では、雑魚は、先に着替えをなさって」

「もう、雑魚って呼ばないでください」


 いつもの、口喧嘩が始まった。しかし、この場には、喧嘩を止めるショウもミサキも不在だ。トウカが困った顔を浮かべる。


「不毛な争いをしていても仕方ありませんわ」

「最初に言い始めたのはユウさんでしょ」


 ユウが真っ先に折れた。負けず嫌いのユウにしては珍しい。それほどに時間を惜しんでいるかのようだ。


「今は、争い事をしてるときではありませんから、まず着替えをなさって」

「執事服に着替えるんですか?」

「ええ、この間の……。いえ、過去に戻ったのでこれからですわね。城がもう一度狙らわれますから」

「また、城を守るって、ことですか?」

「理解が早くてなにより、脳みそが入ってるんですね」

「もう、脳みそくらい入ってますっ!」


 ツバサが憤る。


「ショウ様は、別行動されるとのことですので、城の防衛はわたくし達で担いますのよ」

「敵を倒せばいいんですよね」

「そう簡単な話でも無いですが、わたくしが舵取りするので、あなた方は好きに動いてくれればいいですから」

「ユウさんに使われるのは癪に触りますけど、分かりました」


 ツバサがしぶしぶ応じたのだ。


「では、急いで着替えを。マントを仕込むのをお忘れなく」


 ユウがツバサに着替えを促した。


「分かりました。では」


 ツバサが店の奥へと姿を消した。手には執事服。着替室へと向かった。


「あたしは、どうしたらいいの?」


 トウカがユウに質問した。


「トウカは、わたくしとメイド業を勤めていただきますわ」


 トウカは手にするメイド服を見た。


「じゃあ、一緒に行動すればいいのね? 昨日までは一人だったからちょっと心配だったのよ」


 昨日までのトウカは城の中で単独行動を取っていた。知っている人が一緒の方が安心だと言うことだろう。


「いえ、わたくしと同じ行動はしないように予定してます」

「えっ? 同じメイドなのに?」

「えぇ、わたくしと一緒にいると怒られます(・・・・・)わよ」


 ユウが不敵な笑みを浮かべた。


「怒られるって、誰に? あいつのこと?」


 トウカがあいつと言い出した。ショウのことだろう。


「いえ、城の人たちですわ。トウカには憎まれ役(・・・・)は似合いそうにありませんから」

憎まれ役(・・・・)?」

「いえ、こちらの話ですわ。気になさらないで」


 トウカとユウが会話をしていると、後ろから執事服に着替えたツバサが現れた。執事服にポニーテール。男装女性そのものだ。


「あら、着替えが終わったみたいですね」

「はい、着替えて来ました」


 ツバサが執事服を撫で確認しながら言った。


「では、ケンさん。この子の髪をセットしてくださるかしら?」


 ユウが待ち合わせに指定したのは美容院だ。何とも都合がいい。


「ユウさん。私の髪をセットするためにここを待ち合わせにしたんですか?」

「たまたまですわ」


 ユウがはぐらかす。たまたまのはずがない。ユウの城防衛のプロジェクトは始動している。


「では、トウカよ。次はあなたが着替える番ですわ」


 ユウが告げるとトウカがうなずき、店の奥へと姿を眩ませたのだ。


「髪型どうするんだい?」


 クシを持つお髭のケンがツバサに問う。


「えーと……」


 ツバサが口籠る。説明が難しいのだろう。


「男の子に見えるようにして下さる?」


 ユウは簡単に説明した。


「カットはどうするんだい?」

「カットは無しで、アップでお願いしますわ」


 ユウは予め予想をしているかのようにテンポ良く話を進める。ユウのシナリオ通りに進んでいるかのようだ。


「では」


 そう言うと、お髭のマスターがポニーテールを解く。ケンがツバサの頭に手をかざすと手が光り始めた。光からはミストが噴霧された。水魔法の応用だ。魔導美容師(・・・・・)、それが彼の愛称だ。

 ケンがクシを使いながらつややかな青髪をといていく。そうこうしていると、メイド服に着替えを終えたトウカが姿を表した。


「準備は出来たようですわね」


 ユウが言う。


「私、まだですよ」


 ツバサは髪のセットの途中だ。もう少し時間が掛かりそうだ。


「城へは、トウカと先に行きますから、後から来るとよろしいかと」

「私は、置いてきぼりですか」

「城へは手続きがまだですから、すぐに入れませんし……。先に行きますから」

「そうなんですか?」


 ツバサが寂しそうにする。ユウとの会話で普段は取らない顔をしていた。


「トウカ、行きますわよ」


 トウカが頷く。二人のメイドは城へと向かった。

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