160.2話 第三章 第十.二章 イメクラ
サングラスの男が路地を進む後にユウを引き連れて。男の足取りは軽い。何ならスキップを始めるかと思うほどだった。男はいい儲け話を見つけたと。一括で話を譲ろうか、それとも利益のパーセンテージで頂こうか、フレンドリーコールで誰かに相談していた。「あっ、やっぱり売上からバック貰った方が儲かりますよね」どうやらユウの紹介料は長期的に絞られそうだ。
そんなサングラスの男が一軒の店の前で足を停めた。入口の看板にはメイド服を着る若い女性の写真が何枚も、誰がどう見てもいかがわしいお店だ。そんなお店にユウは若干の怪訝な顔をしサングラスの男と入店した。
店の中は案外明るい。いかがわしいお店だからとどこも暗いとは限らないようだ。メイドをコンセプトにした壁紙も白くて明るい。部屋のシャンデリアも演出の為か立派な物となっている。
「やぁ、久しぶりだな。急に電話寄こしてどうしたかと思ったさ」
ゴージャスなコートを羽織る禿げたオヤジがサングラスの男に声を掛けた。
「店長にはいつもお世話になってるもんで、いい話持ってきましたよ。この子ここで働かしてやって下さい」
そう言うとサングラスの男がユウを紹介した。相変わらずバスローブ姿、こんな男の欲望に溢れる街でこの姿は良くない。しかし、レベル制限でいつもの服が着れないから仕方がないのだ。
「本当は、このあと大量雇用の話があったから断ろうかと思ってたんだが、この容姿なら即働いて貰いたいものだ」
店長が即日勤務を希望した。そんな言葉にユウが。
「わたくし働きませんわ。メイド服を頂きに来ただけですわ」
ユウの目的は城に侵入するためのメイド服だった。いかがわしいお店に働きに来た訳ではない。いつもクールなユウの眉が時折ぴくつき動いていたのを見るに、割と背伸びをしてこの場に来たのだろう。
「ちょっと待て、メイド服が着たいと言ってたのは? メイド服を着て働きたいと言う事じゃないのか?」
「メイド服が欲しいのですわ。城と同じ物。それだけですわ」
「せっかく来たんだから、体験でもどうかね」
店長が鼻の下を伸ばしながらユウの腰に手を回す。
「触らないで頂けます?」
ユウが店長を突き飛ばした。店長が尻もちを付いた。
「おい、何するんだ。店長がケガするだろ」
店長をいたわりながらサングラスの男がユウに物申した。
「わたくしはメイド服を頂きに来たに過ぎませんわ。早く出して頂きたいですわ」
「舐めたこと言いやがって、ここがどういう所か分かって言ってるってことでいいんだな」
店長がドスを効かせた声でユウを脅しに掛かった。
「えぇ、知ってますとも。違法行為をしてお金を巻き上げてるお店ですわ」
違法行為と言われ店長がやましい事でしたがあるかのように眉間にシワを寄せた。
「違法行為って言われたって心当たりはない」
ユウは何の違法行為なのかまでは断言しない。しかし、店長の表情を見るにやましい事があるのだろう。それが店のサービスの問題なのか、従業員の年齢の事だろうか、はたまた人身売買に加担しているのか、薬物を扱っているのだろうか、実は脱税をしているのか。ユウは特定まで至ってはないが、ウイークポイントかあるに違いないと攻撃に当たる
「その違法行為、バレてしまっては困りますわよね?」
「心当たりがないと言ってるだろ」
「では、まず。わたくしは未成年。こんなお店にお誘いして大丈夫でしたのかしら?」
ユウが長い黒髪をかき上げながら言う。
「ワシは未成年だなんて聞いてない。今知った事だ。知っていたとしたら採用したいなど言わなかった」
店長が捲し立てて言う。大方、こう言った店での常套句なのだろう。年齢は聞いてない。知らないと。
「わたくしは連れて来られましたわ。誘拐ってことで、警察に相談させて貰ってもよろしくですか?」
「そんなのでっちあげだ。自分の意思でここまで来たはずだ」
「どちらでも構いませんわ。警察に来て貰えるのでしたら」
「ぐぐぐっ」
痛い所をつかれたのか店長が唸り声を上げた。
「なぁ、お嬢さん。夜のお店って怖くないのかな? ワシも手荒なマネは良くないとは思っていたが、少々やり過ぎだ」
「あら、わたくしはメイド服が欲しいだけですわ。不法行為には興味はないです」
「こっちにだって面子がある。ちょっと事務所の奥まで来て貰おうか?」
「えぇ、メイド服が借りれるのでしたら」
「じゃあこっち来い」
ユウは店長に言われるがままに事務所に連れてかれてしまった。