160.1話 第三章 第十.一章 無料案内所
バスローブ姿のユウは右手に幸福の杖を持ち、左手には黒い偽装マントを腕に掛けて持つ。偽装マントは装備せずとも手に掛けるだけでレベル偽装の機能がすることにユウは気が付いたようだ。バスローブにマント姿はいささかおかしい。バスローブで街を歩くのも十分におかしいことだが、下着姿よりマシだと思っているに違いない。
そんなユウが足を止める。止めた場所はこの街にある風俗街の入り口。まだ夕方ではあるが、路地は薄暗く『無料案内所』のピンクのネオンが映え始める時間となってきた。
そんな無料案内所の暖簾を手で避けユウが入店した。
「御免下さい」
ユウが律儀に挨拶する。中に入ると女の子の写真がズラリと並んでいた。化粧が濃い若い女性が多いのが印象だ。何故か不思議と口元に手をやり顔を隠している写真が多い。
「いらっしゃい、どんな女がお好みでっ、えっ?!」
サングラスをするチャラめな兄ちゃんがユウの姿にびっくりする。バスローブ姿にびっくりしたのか、はたまたこんな店に少女がいることに驚いたのか、その両方か。
「メイド服で接客する店はありませんか?」
ユウが可愛らしく質問した。ユウの言う接客とはどういう意味を表すかは受取側次第だ。
「えっと、そのー。何と言うか。働き口を探してるのかい?」
無料案内所の店員はユウが働き口を探してると思ったようだ。
「まあ、そんな所ですわ。メイド服を着れるお店はどちらですの?」
「メイド服ね。イメクラで働きたいってことかい。どこまでのサービスできるんだい?」
「メイド服が着れるならそれでいいですわ」
「だったら、おすすめのイメクラがあるな」
イメクラとはイメージクラブ。男性のイメージ、願望に沿ったプレイをするお店。メイド服でのプレイをご所望な男性もいるのだろう。
「イメージではなく、城と同じメイド服を着たいですわ」
「それっぽいんじゃなく、本物志向の高級店って訳だな」
そういうとサングラスの店員が顎に手を当ていやらしい目つきでユウの身体を舐めるように見た。そんな目つきにユウの眉が少し動く。いつも平然と物事に対処するユウだとはいえ、今回の事はさすがに動揺が隠せていない。
「合格」
何が合格だとは言わないが、大方予想はできる。
「ちょっと待ってな」
サングラスの店員がそう言うと、店のバックヤードに姿を隠した。そこから声が聞こえる。
「とんでもない上玉だ。そっちで雇ってやれないか? 容姿はめちゃくちゃ良いし、メイド服が着たいって言うド変態だ。こんな上玉紹介するんだから、キックバックは弾んでくれよ」
バックヤードから聞こえる会話からするに、フレンドリーコールを使っての女の子の斡旋。仕事の紹介と言えば聞こえはいいが、職が職だ。人身売買に近いかもしれない。
「今、話が付いた。店を案内してやろうじゃないか。付いてきな」
無料案内所としての本来の使われ方とは違っているが、無事にメイド服を扱う店に案内してもらうことになった。客としての案内ではなく、従業員としての案内。ユウが客として女の子の店を紹介してもらうはやはり違う。だったら働き口として紹介して貰おうとの考えに至る。
ユウはメイド服を手に入れる為に無茶をする。