160話 第三章 第十章 消えたバスローブ姿のユウ
ショウが宿屋へと戻った。部屋の扉を開け、ただいまと告げる。
「ただいま……。って、誰か居ないのか?」
部屋は裳抜けのからになっていた。先程までいたはずのユウの姿がない。すると、ショウがフレンドリーコールのメニューを開く。
「おーい。どこにいるんだ?」
『あら、ショウ様? どうかされました?』
ショウがフレンドリーコールで繋いだ先はユウだ。
「服を買ってきたんだが。近くに居ないのか?」
『あら、嬉しいこと。すぐにでも受け取りたいのはやまやまなのですが、外に出てまして』
「お前、服持ってたのか?」
ウイルス討伐後頑なに服を着ること拒んでいたユウ。低レベルの魔道服を持っていないがために拒否していたのか、そもそも持っていなかったのかは分からない。流石に下着姿だ外出はしていないであろうことから何らかの服を持っていたのだとショウが思った。
『服ですの? ありませんわ。バスローブをお借りしましたわ』
ユウはバスローブのまま街へ繰り出したと言う。あの容姿にバスローブ。街中の注目を集めるに違いない。下手するとまた新聞沙汰。もしくは今度は警察沙汰か
「何でまたバスローブのままなんだ?」
ショウが不思議に思い尋ねた。ユウ自身に恥じないなど無いのだろうか。
『これから、城に行くつもりですわ。急ぎたかったもので』
「何? 城に行くのか? 何でまた」
『城の防衛に回ろうと思いまして』
ショウはユウとのロールバックの話を思い出す。魔封石の流出、城が再度襲われる可能性についての話だ。
「でも、この前、力を使い過ぎてミサキに怒られただろ? 不味くないか?」
ショウがミサキに怒られたことを思い出す。罰で独房入りになったほどだ。
『えぇ、力を使わないためにわたくしが行くのですわ』
ショウが眉間にシワを寄せた。そして不思議そうに唸る。
「うーん? どういうことだよ。お前が行かなければ済む話じゃないのか?」
『わたくしが行かなくとも、あの二人が力を使うに決まってますわ。そうならないためにもわたくしが指揮を取りますので』
ユウが指揮を取ると豪語する。
「だけど、お前は城に入れないだろ? あの時はミサキが書類か何かを偽造して入ったんだぞ。今は無理だろ?」
『おおよそ大丈夫かと思いますわ。ただ、メイド服は欲しいですわ。あちらはショウ様が用意してくださった物ですの?』
「あれはオレじゃない。ミサキだ」
ユウはショウの好みでメイド服を用意したのかと聞く。メイド服を着るユウを見たいかと言われればYESであるが、わざわざ用意するほどの度胸などショウは持ち合わせてなどいない。
「では、どちらで用意した物ですの?」
「どこかは知らないな」
城のメイドと同じ服だったことから、城放出品か本物仕様に拘るブルセラショップか。この世界にブルマとセーラー服を略してブルセラと呼ぶかは知らないが、メイドプレイを楽しむ貴族くらいいてもおかしくはない。
『他に、メイド服を探すヒントはありませんの?』
「執事服を一緒に買ったとは言ってたな。あっ、あとダーツだ」
『分かりましたわ。メイド服を用意したら城に伺いますわ』
城のセキュリティーは万全のはずだが。しかし、ユウは城のセキュリティーを容易く突破できるかの様に言う。
「そうか? 危ないことするんじゃないぞ」
『あら、心配してくださるのですか?』
「まぁな」
『あら、嬉しいこと。今日は良いことがありそうですわ』
ユウの声が明るく弾む。
「それで、買った服はどうするんだ?」
『クローゼットに掛けておいてくださいます? 後ほど受け取りますから』
「あぁ、分かった。入れとくからな。オレは別の用で出かけるから」
「分かりましたわ。では後ほど」
ユウがそう告げると、フレンドリーコールが切断された。
「えーと」
ショウがクローゼットへと歩みを進める。クローゼットの中にユウの服をしまおうと戸を開けた。