15話 第三章 第五節 ダンジョン・プルトーマイン
第一サーバーの中で人気のダンジョンの一つ、プルトーマイン。そこは坑道を思わせるダンジョンだ。坑道の中は薄暗く、ジメジメした場所と言うのが印象だ。奥へ進めば進むほど、敵は強くなり、トウカでは太刀打ちできないほどの強さのモンスターも出現する。しかし、あくまで初心者用のダンジョンであることに変わりはない。ショウにしてみれば魔法を使うほどでもない所。むしろ、後衛として魔法で援護していては、前衛のトウカを囮にしかねない。そう考えれば自然にショウも前衛として戦おうと考えていた。
そして、ダンジョンの中に入るとすぐにモンスターと遭遇する。
「うりゃぁーっ!」
トウカが吠え、剣を振るう。緑色のアメーバ状のモンスターは両断され、光と共に消滅した。
「ちょっと、あんたも真剣にやりなさいよねっ!」
トウカがショウに食って掛かる。働かざる者食うべからず。パーティーを組んでる2人が同じよう経験地をもらうのが納得いなかない様子だ。
「そんなこと言われてもな、お前が行きたいって言ったから着いてきたんだぞ。強い敵が出てきたら手伝うから、いいだろ?」
「分かったわ。じゃあ、もっと先に行きましょっ!」
そうトウカが言い放つと、ささくさと先に進んでいった。
「おい、あんまり離れるなよ」
あまり離れると、敵に囲まれる可能性がある。基本は一対一で戦うのが戦術だ。囲まれると辛いことをショウはよく理解している。
「うるさいわね! ちゃんと着いてきなさいよっ!」
トウカは剣を持つと性格変わるんじゃないのかとショウは思った。よく聞く話に『ハンドルを握ると性格が変わる人がいる』という都市伝説。正に、トウカはその部類に当てはまる人。剣を持つと凶暴性が増す性格のようだ。
「やれやれ、危なくなったら、オレの後ろに隠れろよ」
ショウは呆れながらも、トウカのサポートを承諾する。
ダンジョンを進むにつれて敵が強くなってきた。トウカが新たなモンスターと対峙している。戦闘に入るトウカ。しかし、レベル33のトウカの斬撃では敵へのダメージ量が足らなくなって来ていた。そろそろ援護が必要だと確信したショウが、大剣を構えた。
「そらよっと」
ショウは大剣を振るい、トウカが苦戦している赤いトカゲのようなモンスターを一撃で撃破する。
「ちょっと、おいしいところを持っていかないでよっ!」
またしても、トウカに怒られるショウであった。
「いやぁ、今、お前苦戦してただろう?」
「う、うるさいわね。あと一押しだったのよっ!」
プンスカ怒るトウカは、ショウに背を向けささくさと先に進んで行ってしまった。
「おい、だからそんなに離れるなって」
ショウは、トウカに言い聞かせようとしたが、トウカはまったく聞く耳を持たない。
薄暗い洞窟の中では、索敵範囲がとても少ない。ましてや入り組んだ洞窟だ。敵がどこから現れるかも分からない。ショウは警戒していた。自分だけなら何とでもなるが、トウカを守らなければならないとなると話しは別だ。しかし、トウカ自身がまったく気に掛けていない。そのことがショウの不安を掻き立てた。
「おい、トウカ大丈夫か!?」
先に進んでいたトウカにショウが追い着くと、予想通りトウカがモンスターに囲まれていた。モンスターの種類は先ほど苦戦していた赤いトカゲのモンスターだ。一体でも苦戦していたのにすでに4体ものトカゲのモンスターに囲まれている。
「うわわわっ……」
幸い、にらみ合っているだけで、戦闘は始まっていない。しかし、剣を構えるトウカはへっぴり腰になっている。
ショウが囮になるべく足元の石を拾うと、モンスターに投げつけた。
投石により挑発されたモンスターは狙いをショウへと変えた。今度は、ショウがモンスターに囲まれ始める。
「ち、ちょっと、あんた大丈夫なの!?」
「大丈夫も何も、お前が作ったピンチなんだぞ」
ショウに言われて、少し後ろめたい表情を浮かべるトウカであった。しかし、ショウのピンチには変わりがない。トウカも1つ提案する。
「一体くらいなら、あたしがもらうわ!」
「いや、それより周囲を警戒してくれ、これ以上増えても面倒だ。このままじゃお前を守りに行けないしな」
「わ、わかったわっ! そっちは何とかして頂戴ちょうだいっ!」
トウカは親切心から加勢を申し入れるも、拒否されやけになっているようだ。口調がキツい。
「よし、とっとと片付けるかなっ!」
ショウが大剣を構える。そして、一体のトカゲのモンスターに切りかかった。一撃で両断されると、光と共に消滅した。
「す、すごい……」
トウカは見入っていた。同じ剣を振るう者として、これだけ力の差があれば当然だろう。
そして、ショウは次のトカゲのモンスターに狙いを定めた。トカゲのモンスターも必死のようだ。一体がやられて、気が立ってるのだろう。トカゲのモンスターの一体がショウに飛び掛った。
「あっ、危ない!?」
トウカは心配しているが、ショウにとっては造作もないこと。ショウは、飛び掛るトカゲのモンスターを剣で払いのけ、着地したトカゲのモンスターに切り掛かる。
「おらぁっ!」
またしても、トカゲのモンスターは両断され光となって消えうせた。
「残り二匹だ。お前は、周囲を警戒していろよ」
残り二体になったトカゲのモンスターは後ずさりを始める。敵が怯ひるんだ瞬間をショウは見逃さなかった。
「でいっ!」
三体目を切りつけ消滅させると、残りの一体が逃げ出した。無事にピンチを脱することが出来た。
「おい、トウカ。1人であまり奥に行くなって言っただろ?」
ショウの説教タイムだ。ツバサに続いて本日二度目の説教タイム。
「だって、あんなに敵がいると思わなかったんだもん……」
トウカは先ほどまでの元気が嘘のように、しおらしくなっていた
「まぁ、こんなところだな。剣を振ってストレス発散になったか?」
トウカにしてみればストレス発散どころでは無いだろう。最後に怒られるという失態。途中までは確かにストレスは発散できていた素振りがあったが、現在のトウカは首が曲がった花のようにしおれている。
「それより、あんたってホントにレベル60なの?」
トウカはいい勘をしていた。実際のショウはレベル90を優に越している。
「なんだ、またレベルの話しか?」
ショウはレベルを聞かれていたが、はぐらかそうとする。
「ちょっと、あたしに剣技を教えなさいよ」
「そう言われても、剣のスキルなんて無いぞ」
その通り。ショウに剣のスキルなど有るわけがない。本職は魔道士、剣士ではないからだ。たまたまチートの大剣を拾ったがために似非者剣士をしているに過ぎない。
すると、トウカが悲しそうな顔をしてショウに話し掛けた。
「何なの? あたしが弱いからって、そんな嘘言わなくてもいいじゃない。あたしでさえ多少のスキルはあるわ。あんたならそれなりのスキルを持ってるはずでしょ?」
トウカの言う事が正しい。あくまでそれはショウが剣士であるという条件付きでの話だ。ショウは剣士ではない。しかし、トウカの悲しそうな顔を見たショウは仕方がないく事情を言うことにした。女性を困らせるのが苦手なのだ。
「分かった、理由を話すよ。オレ、魔道士だから剣技は皆無なんだよ」
「えっ!?」
トウカは目を丸くして驚いていた。
「いやぁ、魔道士って後衛だろ? お前を敵の前に晒したくなかったんだよ。危ないだろ?」
「でも……」
トウカはショウの気遣いにやっと気が付いたようだ。理由が分かったのか恥ずかしそうに、顔を赤らめる。
「このくらいの敵なら魔法を使うまでもないしな」
圧倒的な攻撃力のショウが魔道士だと知って、トウカは自分自身がいかに弱いのかを認識するしかない。
「それにしても、そんな大剣、魔道士が装備できる訳?」
トウカは、不思議そうな顔でショウに質問した。
「まぁな、ちょっとしたレアアイテムだ」
「へぇー。その剣強いの? あたしもレベルが上がったら装備できるかな?」
トウカはショウの持っている大剣のステータスを知らなかった。ショウの持つ大剣はレベル1から装備できるチートアイテム。すでにトウカのレベルでも装備が可能だ。
「まぁ、強くなったら、装備が出来るんじゃないか」
ショウは、またしてもはぐらかした。こんなチートアイテムを他の人に見せる訳にはいかない。欲しいなどと言われたら、面倒なことになるのが目に見えている。
「その剣、どこで手に入るの?」
トウカは目を輝かせ、ショウに質問した。
「まぁ、高レベルエリアかな? お前のレベルが上がったら教えてやるよ」
ショウは、PKで奪ったとは、当然言えるはずがない。そんなこと言えば一瞬で悪者になってしまう。
「やっぱり、高レベルのエリアはすごいのね」
トウカは素直な女の子のようだ。それ以上聞かれなくて、ショウはほっとしていた。
「で、まだ戦うのか? そろそろ戻ろうか? これ以上行くと、また囲まれるぞ」
ショウに『また囲まれる』と言われ、トウカは思い出したかのように元気がなくなった。
「分かったわ……、この辺りで戻りましょ……」
不甲斐なさそうなトウカがいた。力が全然足りなく、守ってもらっていたことに気が付かなかったことも原因のようだ。そんな、元気の無いトウカをショウが、少し気遣った。
「じゃあ、帰り道はエスコートを頼む、な?」
すると、トウカの顔がが少し明るくなったように見えた。
「うん、分かったわっ!」
ダンジョンは進めば進むほど難易度が上がるもの。戻る方ならトウカでも問題はない。そうショウは思いトウカに先頭を任せることにした。なんでもやり過ぎはよくない。任せることも必要だと。
帰り道にはピンチは訪れなかった。トウカは先走ることなく、基本に忠実に一体一体敵を倒していった。ショウの出番がまったく無いほどの戦果をトウカは上げていく。
「冷静になれば、なかなかやるじゃん」
ショウは、トウカの成長振りに驚き、うれしくも思った。