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157話 第三章 第七節 ロールバック

 ショウが、椅子に腰掛ける。椅子がギシリとなった。その時だ。窓際でログインエフェクトが発生した。誰かがログインしたのだろう。

 ログインの光の中には、細身で髪は長く、胴がくびれたシルエットが映る。まるで一糸纏いっしまとわぬ姿のようだ。


「ショウ様、ご機嫌よう」


 ユウが口を開く。光の中から現れたのは黒い下着姿をするユウだ。


「お、おう……。って、ユウ! 服を着ろ!」


 取り乱すのはショウだ。急いでクローゼットに駆け寄り中を物色した。ショウのお目当てはメイド服。着れるものならなんでもいい。裸のままより断然いい。


「あれ、メイド服がない!?」


 ショウがユウを背にクローゼットを漁るが一向にメイド服など出てこない。


「メイド服は、ショウ様の趣味ですか?」


 ショウが必死にメイド服を探してる様子にユウが声を掛けた。ショウの慌て様、必死さから何としてもユウにメイド服を着せたいと思われたのだ。ショウが着ろと言えばユウはメイド服に限らず、何でも着るだろう。ファンシーで恥ずかしいコスチュームでも露出が多いセクシーな物まで。


「そうじゃない。」


 とりあえずは否定をいれる。ショウにとっては下着姿よりましな格好をさせたいだけに過ぎない。


「とりあえず、着てくれ」


 ショウが選んだのはバスローブだ。部屋に備え付きのアメニティ。メイド服がなければ仕方がない。羽織れば下着姿よりはマシになる。


「ショウ様がおっしゃるなら」


 そう言うとユウがバスローブに袖を通し始めた。ショウはユウに背を向け、顔に手を当て天を仰ぐ。顔がどことなく赤いのは恥ずかしさからだ。


「もういいか?」

「いいですわ」


 ユウの返事てやっとショウがユウの方へと向きを直す。それにしてもユウのバスローブ姿は魅惑的だ。ショウも思わず息を飲む。


「そうだ。ちょっと、重要なことがあってだな」

「何ですの? 重要なことでしたら、心の準備が必要ですわ」


 ユウが恥ずかしそうに手を頬に当てクネクネする。


「重要なことだ。よく聞いてくれ」


 ユウは動きを止めゴクリと喉を鳴らした。


「何か、過去に戻ったみたいだ」


 ユウが首を傾げた。重要なこと言われたが、ユウが思っていたものと違っていたからかもしれない。


「だからな、過去に戻ったんだ。理解出来ないだろ?」

「ショウ様? それが言いたかったのですの? てっきり別のことかと」


 がっかりそうな顔をするユウが淡々と答えた。


「何だよ、別のことって? それより信じられないだろ? オレ達、過去に戻ったんだぞ」

「ロールバックってことですの?」


 ユウがロールバックと言う単語を用いた。特別な用語のようだ。


「ロールバックって何だよ?」

「ロールバックとは、ゲームの中でよく有りますわ。データを過去に戻すということですわ」

「データが過去に戻ったってことなのか? 何でオレ達の記憶は大丈夫なんだ?」

「データと記憶は別ですわ。昔のゲームで例えると、セーブした過去のデータからやり直してるのに等しいと考えられますわ」

「セーブした過去のデータ?」

「ええ、そうですわ。例えば、セーブしたところから物語を進めるとしましょう。これから現れる宝箱や敵の位置、ボスの種類。多くを経験していくと思います」

「あぁ、そうだな」

「そして進めていけば、レベルは上がり、技を覚え、アイテムが増えていきますね」

「そりゃ、そうだな」

「では、そんなときにです。ゲームが壊れたらどうでしょう? 例えば、お母様が掃除機を掛けるためにコンセントを抜いたとします」

「キレるな」

「もう、そんなことで怒らないで欲しいですわ」

「悪かった。続きを頼む」

「はい。では、そうします。ゲームが壊れればデータが消えますよね? ゲームをセーブのところからやり直しませんか?」

「そりゃ、セーブポイントからやり直すよな」

「では、セーブしたところからやり直したとしましょう。上がったレベルは戻り、覚えた技は忘れ、取得したアイテムはなくなるはずですわ」

「そういえば、トウカが技を忘れたり、刀や靴をなくしたりしてたな」

「まさに、先程言いました、覚えた技は忘れ、取得したアイテムはなくなるに該当しますわ」

「じゃあ、何で記憶はそのまま何だ?」

「それはですね。記憶はゲームのデータでは無いからです。先程言いましたセーブしたところから再度始めるとします。記憶では以前進めていましたので、再度進める際、どこに宝箱があるか、どこに敵が待ち伏せているのか、ボスがどういった種類なのか。全て分かっているはずです」

「確かに、一度進めているからな、覚えているはずだ」

「それこそが記憶ですわ。データではない記憶。ロールバックしても記憶は消せませんから」

「まぁ、納得した」

「ところで、いつまで戻ったんですの?」

「今あるヒントは、ツバサが作った指輪があるということ」


 ショウが左手をユウに伸ばした。


「そして、トウカの剣と靴がなくなっていることだな」

「あの子の剣と靴はいつ用意したのもですの?」

「剣は二日前の夕方。靴は三日前の夕方だ」

「他にはござませんか?」

「さっきのメイド服が無くなってたこともだな」


 メイド服はミサキがダーツを買いに行ったついでに用意したものだ。


「でしたら、三日前に戻ってますわね。指輪の存在はログで確認してますから」

「三日前と言い切れるか?」

「間違いなく三日前ですわ。あの子の靴が今、無くなっているということは、少なくとも三日前ということですわ。でしたら、あまりよろしくありませんね」

「良くないのか?」

「えぇ。先程、ロールバックでアイテムが無くなると言いましたよね」

「あぁ、言ったな」

「その逆もありますわ。使ったアイテムが復活する事。まさにショウ様の今している指輪のような事です」

「それが、どう困るって言うんだ? 寝てるときに触られなければ問題ないはずだ」


 ショウは呪いの指輪の効果に触れた。


「指輪のことではありませんわ。魔封石(・・・)のことをお忘れですか?」

「魔封石って、まさか!?」

「そうですわ。再度、お城が襲われる可能性があります。わたくし達はある意味、未来人です。これから来る、未来を予測できますわ」

「やっぱり、城が襲われるということで間違いないのか?」

「このまま行けば、まず間違いなく襲われると思いますわ」

「これって止めることができるものなのか?」

「未来を変えようとおっしゃいますの?」

「あぁ、城が襲われないようにしたい」

「可能かと思いますわ」

「確か、タイムパラドックスとか言う法則か何かで、未来は決まっているって聞いたことがあるんだがどうなんだ?」

「あら、難しいことご存知ですわね」

「その辺りは、どうなんだ?」

「タイムパラドックス、時間の逆説は難しい話ですわ。自分が過去に戻ったことによる矛盾が起きた時の話ですわね。矛盾が起きたらどうなるのか? そもそも矛盾が起こらないように未来が決まっているのか?」

「そんなような話だな」

「では、簡単な例えをしますわ。先程、ゲームでのセーブの話をさせていただきましたわね」

「あぁ、してたな」

「例えば、セーブした後にボスと戦闘をしたとしましょう。そこでボスに負けました。ショウ様ならどうされます?」

「セーブポイントからやり直すな」

「セーブポイントまで戻る。それが正に今回同様、過去に戻ったという意味ですわ」

「それが何だって言うんだ?」

「先程、ショウ様は未来は変えられないと言いましたわね?」

「あぁ、言ったな」

「では、セーブ後の未来が変えられないとしたら、ボスには永遠に勝てませんわ」

「確かに、その通りだな」

「しかし、大半の人が、一度負けたとしても、クリアができるのですわ」

「じゃあ、今回の城攻めの件も同じだと言うことか?」

「はい。ただ、簡単に未来を変えられるかは分かりませんわ」

「どういうことなんだ?」

「既に、城攻め二日前です。城攻めの準備に取り掛かっているかと思います。本来なら、城攻めの準備をさせないことで、城攻めまで辿り着かせないのがセオリーですわ。ただ、すでに準備を始めてるとなりますと、もう攻めるのみですわ。フラグを消すのは並大抵ではありませんわ」

「じゃあ、準備を潰せばいいよな」

「そうですわね。ただ、どれくらい準備が進んでいるかにもよりますわ」

「早いほうが良いな。オレ、行ってくるわー」


 ショウは、急いで部屋を後にした。


「あら、わたくしを置いてくなんて、失礼しちゃいますわ」


 ユウが、バスローブ姿で一人部屋に取り残された。

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