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156話 第三章 第六節 氷の靴の消失

「他には何か、無いですか?」


 ツバサの質問にショウが腕を組んだ。左手の指輪がキラリと光る。


「ショウ先輩! 指輪っ! 指輪っ!」


 ツバサがショウの左手薬指に付けられている金色の指輪を指摘した。


「あれ、おかしいな。昨日、ミサキに外して貰ったはずなのに」

「ショウ先輩、それ、昨日外した指輪じゃないです」

「じゃあ、この指輪は何だ?」

「ショウ先輩は覚えてないんですか?」


 ツバサが肩を落とし残念そうに言う。


「何だって言うんだ?」

「昨日の指輪と、色も形も違うと思いませんか?」

「そうだったか?」


 ツバサがため息を付いた。鈍感なショウには何を行ってもダメだと思ったのだろう。


「それ、私が作った指輪です……」


 ショウが指輪に視線を移した。


「これって、寝てるときに触ると危ないってやつか?」

「そうです。でも、あのときに壊れた筈なのに……」

「あんた、もしかして、過去に戻ったとか?」


 トウカが過去と告げたのだ。


「そんなことありえるのか?」

「わからないわ。ミサキさんに聞くのが良いけど、まだ居ないし」

「そういえば、まだ来てなかったな。あいつに聞けば分かりやすいんだけどな」


 いつもは会いたくないミサキに無性に会いたくなる。こう思うとやはり頼りになる人員の一人だ。


「でも、この世界は所詮ゲームの世界です。過去に戻ってもおかしくないですよ」

「わかった。過去に戻ったと過程しよう。じゃあ、いつに戻ったんだ?」


 ショウはいつと言う点でを強調したのだ。戻った日付は重要だ。


「いつなんでしょう? でもその指輪があるところを見ると、緊急メンテナンスの後、ウイルスを倒した後だと思います」


 ツバサの言うことに間違いは無いだろう。指輪があるということは指輪を付けた日以降なのだから。


「じゃあ、指輪を付けた日以降に何か変わったことはあったか?」

「次の日ね? えーと、そういえば、雷切覚えたんだったわ」

「雷切か……」


 ショウの顔が強張った。


「あんた、どうしたのよ。顔色が悪そうだけど」

「いや、なんでもない」

「トウカさん、雷切使えますか?」

「どういうことよ?」

「もしかしたら、忘れてるかもしれないので。スキルの取得前に戻ったとしたら使えないと思います」

「え、ホント?」

「雷切を使ってみてください」

「いや、使わなくていい」


 ショウが否定をする。


「何よ、使わないとわからないでしょ」


 そう言うと、トウカがアイテムボックスをあさり始めた。


「無い、ツバサさんにもらった刀が無いわ」


 トウカが慌てた。大切な刀をなくしてしまったのだ。


「トウカさん、炎の剣はどうですか?」

「炎の剣はあるわ。でも、あたしレベルが足りないの」

「ちょっと待ってください」


 ツバサがアイテムボックスを漁る。すると偽装マントが出てきた、しかも黒色だ。昨日赤色になったはずのマントだ。


「やっぱりありました、マント」


 ツバサがマントを手に持つとトウカの後ろから羽織った。そもそもこの部屋は偽装マントと同様の効果があることを二人は忘れているようだ。


「これで、炎の剣が持てるはずです」

「わかったわ」


 トウカが炎の剣と取り出した。構えられるところを見ると装備出来たようだ。


「マントのお陰で装備できたわ」


 トウカもツバサも勘違いしている。別にマントがなくとも炎の剣の装備は可能だ。この部屋自体が偽装マントと同じ効果を発しているからだ。


「じゃあ、雷切を」

「いや、やめろ。室内じゃ危ないだろ」


 ショウが否定した。


「力抑えるから、剣技、雷切」


 トウカが吠える。しかし、何も発生しない。ただの素振りだ。一方、ショウは耳を塞いでいた。


「あんた、どうしたのよ」

「あっ、あぁ。出なかったみたいだな。よかったな」


 ショウが安堵の息を漏らしながら言う。


「良くないわよ。あれは、あんたのために覚えたんだから!」


 トウカが憤る。ショウの言い方が癇に障ったのだろう。


「あぁ、悪かった。謝る。それでスキルを覚える前に戻ったってことだよな? スキルを覚える前は無いかあったか?」

「そういえば、あんたに靴買ってもらったわ。氷の靴」


 トウカが足元を見る。目線の先には氷の靴がなかったのだ。


「無いわ。買ってもらった靴がなくなっちゃった。どうしよう」

「また、買ってやるよ」

「そういう問題じゃないの!」


 トウカが悲しそうな目をする。


「じゃあ、どういうことなんだよ」

「もう、今日のあんたおかしいわ」


 トウカが捨て台詞を吐くと、そのまま部屋を飛び出して言った。目には涙が映る。


「ショウ先輩、あんまりですよ」

「何か、あいつを怒らせちゃったみたいだな。すまんが、トウカを見てきてくれないか?」

「はい、分かりました」


 ツバサは二つ返事で了承した。


「そうだ、お前のマント、トウカがしたままだろ? オレのやつを使え」


 ショウがアイテムボックスから取り出す。そして、ツバサに偽装マントを突き出した。


「これ、いいんですか?」

「あぁ、持ってけ」


 クローゼットには予備がある。それを考慮すれば、ショウがマントを渡したところで困らない。


「あ、ありがたく頂きます!」


 ツバサの言葉使いがおかしい。そして行動もおかしい。マントを受け取ると、顔に当て深呼吸するのだ。


「おい、ツバサ? 何してるんだ?」

「あっ、いえ……。マントとマスクを間違えました……」


 間違えるはずがない。言葉でいえば『マ』しか合ってない。物でいえば布である以外、共通点は無い。


「とりあえず、トウカを頼む」

「はい、行ってきます」


 ツバサがマントをひるがえす。そして部屋を後にした。

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