155話 第三章 第五節 フロントの入れ替わり
「わかった。匂いについては認める。だけど、あいつは来てない」
ショウが認めるところは素直に認めた。しかし、なぜユウの香りだけが突如現れたのか。
「ショウ先輩、見苦しいですよ。匂いが決定的な証拠です!」
「でも、匂いだけなんだろ? 本人が来た証拠じゃない」
「じゃあ、この匂いはどういうことなんですか? 説明してください!」
「オレがこの香りの香水を使った、じゃ説明にならんか?」
「あんた、そんなにこの香りが良いの?」
トウカが自分の服をクンクン嗅いだ。トウカがため息を付いた。
「どうした、トウカ?」
「なんでもないわよ」
トウカが不満そうに告げた。
「ショウ先輩は、話をはぐらかさないでください。あの香りは何なんですか?」
「こっちだってびっくりしてるんだよ。突然でな。今日は朝から色々とおかしいんだ」
「じゃあ、ホントにユウさんは来ていないってことですか?」
「あぁ、そういうことだ」
「まぁ、そこまで言うのなら信じます」
「ツバサさん、そんなに簡単に信じて良いの?」
「ユウさんが来ていないのは間違いないと思います。信じます」
ショウはツバサに助けられた。今朝の出来事は、当事者であるショウにも理解できないものだった。そんな理解出来ない事を説明するのは困難だ。
「じゃあ、質問を変えます。ショウ先輩、朝から色々おかしいって言ってましたけど、他に変わったことはなかったんですか?」
「そうだな。あぁ、フロントが男じゃなかった。また女に戻ってた」
「あんた、また女の話なの? 懲りないわね」
トウカが細めで見つめる。
「何だよ、女の話って? 不思議なことが無いかって言われたから言っただけだぞ」
「ショウ先輩? それのどこが不思議なんですか?」
「確か、昨日から男性がフロントを勤めているはずだ。トウカも覚えてるだろ。昨日記者が宿屋を取り囲んだ事件。あのときドアを押さえてたのは男だった」
「そうだったわね」
トウカが納得する。
「それで昨日、男のフロントと話をした時にしばらく交代をしないような口ぶりをしたんだ」
「でも、都合が悪くなることくらいあるわよ」
トウカがもっとものことを述べた。
「じゃあ、女のフロントことだが、聞き覚えのある声だった。話を聞くところ今日が始めてだと言ってんだ」
「声だけじゃ、分からないわ。容姿とか言ってもらわないと」
「いや、会ってない。フレンドリーコールで話ただけだ」
「フレンドリーコール? あんたフロントのお姉さんとも連絡取り合ってるの?」
トウカの目がまたしても細くなる。あれは疑惑の目だ。
「違う。内線だ。おまえのフレンドリーコールにもあるはずだ。フロント宛のボタンが」
「そうなの? まぁいいわ」
トウカは内線と言われて自分のメニューが面を開き出す。本当かどうか調べるようだ。
「それにしても、どういうことなんでしょう? こういう時ユウさんがいると助かるんですが」
ツバサからユウの名前が上がった。確かにユウは賢い。ちょっとした変化すら気がついてしまう。今朝の謎も解けるかもしれない。
「そうだな。ただユウは、まだ部活だろうからな」
ショウもツバサの意見に賛同した。