153話 第三章 第三節 トウカの誤解
「ねー、あんた。何、寝てるのよ! せっかく来てあげたのに」
トウカが腕組みをしショウに呼び掛けた。トウカは頬を膨らませている。遊びに来たのに、ショウが寝ていることに不満があるようだ。
「あぁ、トウカか? おはよう」
「あんた、ゲームにログインして、どうして寝てるのよ?」
トウカはショウがログアウト出来ないことを知らない。不思議に思うのも無理もない。
「まぁ、ちょっと頭が混乱しててな」
ショウは今朝起こった不可解な出来事に頭を悩ませ眠ってしまった。それもこれもユウの香りで寝不足去ったのが原因だ。ショウは言葉を発しながらベッドから起き上がった。
「あんた、その布団からユウさんの香水の香りがするんだけど」
トウカの指摘でショウの顔が緊張する。
「いや、気のせいじゃないか?」
気のせいのはずがない。ショウは今朝ユウの香りにうなされた。トウカに変な誤解が生まれないよう誤魔化した。
「そんな訳無いわ! 間違いなくユウさんの香水の匂いよ」
トウカがユウの香水を指摘する。このままではショウは逃げ切ることが出来ない。
「いや、気のせいだ」
ショウがそう言いながらベッドを出た。そして、布団を捲られないようにベッドの上に腰掛けた。
「あんた、布団を捲りなさいよ」
トウカが腕組をし、睨みを効かせる。
「い、いや、ちょっと腰が痛いから立ち上がれそうにない」
ショウが苦しいことを言う。ますますトウカの目が細くなる。疑う目つきだ。
「そう、じゃあ、あたし隣のベッド使わせてもらうわ」
そうトウカが告げるともう一つのベッドに足を勧めた。
「おい、トウカ待て」
ショウがベッドから勢い良く腰を上げた。
「あんた、腰が痛かったんじゃなかったっけ?」
「それはだな。今、調子が良くなってだな……」
もはや、言い訳にもなっていない。
「怪しすぎるわ。ちょっと、こっちもユウさんの香水の香りがするじゃないのよ!」
トウカがパンドラの箱を開けたようだ。開けては行けない布団を捲り上げた。
「そうなんだよ。不思議だろ?」
ショウは昨日訪れていないユウの香りが残っていることに不思議と言った。
「何が不思議よ! またとぼけるつもりなの? 気のせいだとか、腰が痛いとか、よく言うわ」
今までのショウの誤魔化しが火種を生んだ。本当に不思議なことをトウカが信じなくなっていた。
「さっきまでのことは悪かった。ただこれだけは本当だ。ユウの香りがな、夜中に突然あらわれたんだ」
「夜中? ログアウトもしないで、ユウさんと密会してたのね。いやらしいわ」
「トウカ、お前は勘違いしてるぞ。夜中に現れたのはユウじゃなくて、ユウの香りだ」
「香りだけ現れる訳ないじゃないのよ。さっきから嘘ばっかり言って」
香りだけ現れたのは間違いない。だがしかし、ショウはすでに狼少年扱いをされている。
「それに、どうしてあんたは夜中にここにいたのよ。それ自体おかしい事だわ!」
「それはだな、ちょっと用事があってだな」
ショウはログアウト出来ない事実をトウカに伝えようとしなかった。心配を掛けたくないからだ。
「何よ、用事って! どうせユウさんと会ってたんでしょ!」
トウカが呆れ顔で踵を返すと部屋の入り口へと向かった。ショウはこのまま誤解をされたままでは困ると思い、トウカの腕を掴み引いた。
「ちょっと、何よ。きゃっ!」
トウカがバランスを崩しベッドに倒れ込む、その上に覆いかぶさるようにショウもまた倒れ込んだ。
「ちょっ、ちょっと……」
トウカが目を逸らす。そして顔が赤い。その時だ、窓際でログインエフェクトが発生した。光の中から何者かの姿が映る。
「ショウ先輩? 何してるんですか?」
ツバサがログインした。挨拶もなしにいきなり質問する。ツバサの目にはベッドに横たわるトウカ、押し倒すショウの姿。挨拶どころではない様子だ。